表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
痛喰者は再び舞い戻る  作者: 龍 拡散
王都レイタスの異変
26/45

才能と苦悩

「武器の使い方を教えると言ったな。

だが、正確に言うと、武器の()()()を教えることになる」


「武器の振り方?」


 欠伸が抜けないリケル。


 バルドは既に素振りを始めている。


「まずは俺の動きを見ていろ」


 そう言うと、フェルが腰の刀に手をかけ、抜いた。


 心地よい摩擦音を鳴らしながら、彼の刀が姿を現す。


 銀色の刀身は、折れないか不安になるほどに繊細ながらも心臓を掴まれるような緊迫感をその身に宿している。



 彼が刀を振る。



 当然、何も切ってはいない。


 けれど、何かが切られたようにも思える。


 そんな曖昧な空間が辺りを呑みこんでいった頃、刀を鞘に戻す金属音で、リケルは我を取り戻した。


「さあ、やってみろ」


 何も言わず頷く。


 おそらくリケルには今のような振り方はできない。

 当然だ。まだ習っていない。


 だが、今の自分にできる限りのひと振りを試してみたいと思わせるのが刀である。


 フェルから受け取った刀を見よう見まねで腰に添える。


 抜くのは思ったよりも簡単だ。

 むしろ、小さな頃から触り慣れていた両手剣よりも遥かに手に馴染む。

 無駄な抵抗を一切感じない。


 これもまた、先程のフェルを思い出しながら構える。


 重さはあまり感じない。


 躊躇はない。振るのは一瞬だ。


 刀が風を切る。


 切った感触はないが、空気を切ったという手応えは感じる。


 刀を下ろしてから数秒経って、リケルは初めて自分が既に刀を振り終えていたことに気づいた。


「……お前、本当に刀を使ったことがないんだよな?」


 フェルが訊ねるが、リケルは少しの間上の空だった。


「…………なぜか、すごく馴染むんだ。

まるで身体が覚えているようだ」


「刀は三万年前に勇者様が持っていたとされる武器だ。

その刀を持つ素質があるということは、そういうことなのかもしれない」


「……まじないくらいに思っておくよ」


 平凡な家庭に生まれた身だ。

 自分にそんな資質があるとは思えない。


「まあ、昨日のお前を見た時からなんとなくそんな気はしてた。

だが、まだまだ詰めが甘い。

これから数日は細かい構え方や立ち回りを教えていくぞ」


「ああ、楽しみだ」


 改めて刀を構え直す。


 バルドはまだ斧を振り足りていないようで、練習場の真ん中で暴れ回っている。


 フェルに向き直ったリケルは心からの期待を胸に浮かべ、練習を始めたのであった。






♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢






「……というわけで、ラサーニュ地方への予算の割り当てをお願いしたいのです」


「ええ、よく分かったわ。許可しましょう」


 


 一国の王ともある人物が権力を示すために力を入れるのは、一体どこだろうか。





 一般的には、それは墓であると言われる。


 当然、数千年も形を残すような巨大な墓を作ることでその影響力を誇示するのであるが、もちろんそれは王が没した後の話である。


 ならば、生きている間にその力を見せびらかすために使うのは、城そのものであろう。


 

 フェニケス王国の城内も、例に漏れない。


 実際に着ける訳でもない金のアクセサリーに、頻繁な手入れが必要な蝋燭のシャンデリア。


 他にも様々な装飾、そして魔法がふんだんに使われたその内装は、王族の未だ揺るぎない力を顕著に表しているだろう。


 


 そんな目が疲れるような部屋の奥には、大きな椅子が一つ。


 王のものだ。


 とは言っても、今そこに座っているのは少々椅子のサイズよりも小さな女性である。


 三年前、若くして女王に即位した少女。


 その名をアレシアという。


「ルーブラン」


「はい」


 彼女の隣には白髪の老人が一人。


 唯一、公私に関係なくアレシアの隣にいることを許可されている男である。


「今日の公務はもう終わりかしら」


「そうでございます。少しご休憩なさりますか」


「ええ。今日はもう食事まで自室にいることにするわ」


「承知致しました。お食事の際にはお呼び致しますので」


 ルーブランと呼ばれた男が指を鳴らすと、車椅子のようなものが魔力で形作られる。


 それを見たアレシアは頬を脹らます。


「もう、病人じゃないんだから。

部屋までくらい、自分で歩けるわよ」


「いえ、いけません。

城内とはいえ、何があるか分かりませぬゆえ」


 ルーブランの目を見たアレシアは少し悪態をつくも、すぐに折れて光の車椅子に座り込む。


 それを確認したルーブランは、ゆっくりと彼女を押しながら歩を進める。


「……ねえ、ルーブラン。

何があるか、って、やっぱり────」


「姫様。誰が聞いておるか分かりません」


 言葉を遮るルーブラン。


「うん……」


 会話はその一言で終わり、彼らは結局それから目的地である部屋に着くまで言葉を発することは無かった。


「それでは後ほど」


 アレシアを降ろすと、次の仕事があるのかルーブランは足早にどこかへ去ってしまった。


「はぁ……」


 ドアを閉め、誰も部屋に居ないことを確認したアレシアは、自分のベッドに肢体を投げ打った。


 深いため息は、既に今日で7回目である。


「ねぇ……ソニア。

私たち…………」


 独り言を呟くアレシア。


 その言葉は最後まで紡がれることはなく。


 彼女は微睡みに落ちていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ