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痛喰者は再び舞い戻る  作者: 龍 拡散
王都レイタスの異変
23/45

適性

「到着だ」


「噂には聞いていたが、初めてきたぜ」


 





 この街、レイタスには主に二つのギルドがある。


 一つは商業ギルド。


 その名の通り主に商人が旅の拠点とする場所であり、数百年前から全国に展開されている。


 加入するだけでは特にメリットは存在しないが、ギルド内で築ける人脈と情報、取引場所としての活用など、当人の実力次第で如何様にも価値を見いだせる施設である。



 


 そしてもう一つは冒険者ギルド。





 五年前、最初に魔物が霧のように湧いて出た時、人々は為す術なく蹂躙された。


 彼らは魔法こそ持っていたが、それを武器として使うのはせいぜい他国との戦争くらいであった。


 北を帝国、西を共和国と、この世界を代表する大国に囲まれたこの国が容易に戦争など起こそうものなら、よだれを垂らした隣国達が、知らぬ顔をしながら代理戦争の構図をも作りかねない。


 なにより、フェニケス王国には『継承』によって先祖代々力を受け継いできた王族がいる。


 スキルが人よりもひとつ多いというのは想像を絶するほどのアドバンテージである。


 彼らさえいれば王国は安全と言っても良い。


 ゆえに彼らは戦うための技術を磨かなかった。


 


 


 そして、そんな生活は三年前に崩れることとなる。


 『反転』によって頼るべき王を失った国民は当然のこと、自分の家族・国を守るために知恵を絞る。


 そうして出来たのが冒険者ギルドである。


 その経緯の特殊さゆえ、彼らは初心者への装備のサポート、依頼の斡旋、緊急時の指揮執行などを全て無償で行なっている。

 ギルドの収入源は魔物から取れる素材の売買と、わずかな募金のみである。


 つまり、この国の冒険者ギルドは営利団体というよりは、国民全体が協力して維持している、いわば非公認インフラ施設なのである。




 そして─────






「なるほど、ここはギルドの管轄なのか」


「そうだぜ。

主な目的は修行だとか、戦闘演習だとか。

とにかく存分に暴れられる場所ってことだ!」


 人が数万人は入りそうなコロシアムで。


 フェルが準備をすると言ってどこかへ行ってしまってから数十分。


 声を上げながら剣を打ち合う人々を横目に、二人は駄弁っていた。


「一つ、気になったことがある」


「ん?なんだ?」


 くだらない話をいくつかした後、リケルがふと真面目な顔をしてバルドに尋ねる。


「─────お前の能力が何なのか、だ。

もちろん、言いたくないのなら言わなくてもいいが……」


「ああ、なるほど。

これさ、俺の能力は」


 バルドが丸めたティッシュでも捨てるかのように斧を放る。


 真上に投げられたそれはやがて最高点に達し、速度を失った後落ちてくる。


 そして斧は寸分狂わず正確にバルドの頭上まで迫り────


「!?」


 直後、リケルが目を見開く。



 ずれたのだ。



 バルドの頭をスイカ割りのように軽く真っ二つにするはずであった斧は、通常ではありえない軌道を描いて彼の隣に突き刺さった。


「なるほど…………投射物は全て当たらないのか」


「そういうことだ。魔法だって、真っ直ぐ飛んでくるタイプならずれてくれるぜ」


 手本として自分の顔に魔法を打とうとするバルドをリケルがやめておけと止める。


「お前と組み合わさると恐ろしい能力だな……

強制的にお前の得意な近距離戦に持ち込めるわけだ」


「お、いいとこ気づくじゃねえか。

まあお前と戦った時は使う機会がなかったけどな」


 思わぬ角度からの冗談を聞いて、バルドと戦った記憶のないリケルは苦笑いする。


「俺のは教えたから次はお前の番だぜ。

ちょっとだけでいいから、その強さの秘密を教えてくれよ。な?」


「俺の能力、か。

教えてもいい。けど、一つだけ条件を付ける」


 リケルが改まって真面目な顔をする。

 とても冗談など言うような雰囲気ではないようだ。


 バルドも何も言わず頷く。


「条件として、お前の─────」


「待たせたな、2人とも」


 リケルの言葉を遮るようにフェルが声をかける。


 リケルは、はっとして顔を上げる。


「おいおい、今いいとこだったんだぜ?」


「悪いがその話は後にしてもらおう」


 不愉快そうに肩をすくめるバルドに、これまた子供の言葉をいなすように受け流すフェル。


「さあ、リケルくん。

君のために、いくつか持ってきた。

これを見てくれ」


 フェルが自分の持ってきた台車に乗った箱からいくつか取り出す。


 彼の手に握られたそれは、槌の形であったり、槍の形であったり、杖のようなものもある。


「おお!そりゃ魔道具じゃねえか!

久しぶりに見たぜ!」


「魔道具?」


 興奮して立ち上がるバルドとは反対に、座ったままクエスチョンマークをうかべるリケル。


「簡単に言えば、魔力がなくても使える魔法だ」


 フェルが手に持った武器のなかから杖を選び、手に握ると、紫色に光り出した。


「この魔道具には『レイン』が込められている。

だからこう握って念じると────」


 途端、リケルの手のひらに水滴が落ちる。


「俺の周りにだけ……」


 彼の頭上に現れた小さな雲は、それに見合った少量の雨を降らせる。


「これが『レイン』の効果だな。

杖タイプのものはこういう風に魔法をそのまま使えるものが多い。

逆にこういうものだと─────ちょうど良い。

バルド、使ってみてくれ」


 武器の山の中から斧を見つけたフェルが、それをバルドに投げ渡す。


 乱暴だなと愚痴を言いながらもそれを受け取ったバルドが斧を振ると、小さいながらも空気の刃が飛び出し、フェルの足元あたりを切り、霧散した。


「俺の魔法の下位互換だな!」


「もちろん。訓練用の魔道具じゃ碌な威力は出ないだろう」


 自慢げに言い放ったバルドが顔を歪める。


「なぜこんなおもちゃ程度のものばかり持ってきたのかというと、君の適性を測るためだ」


 リケルに向けて講義でもしているように話す。


「魔道具ならなんでもいいってわけじゃない。

だから今日は、ここにあるもの全てを試して1番自分に合う武器を見つけてほしいんだ」


 説明を終えると、さあ早速と言わんばかりにフェルが台車をリケルの前まで持ってくる。


 リケルは既に剣術の手ほどきを受けていると言ったが、フェルはそれでも、一度やってみろ、結果が変わるかもしれないとリケルを促す。




「…………なるほど。やってみよう」




 至って冷静に答えるリケル。


 しかし、武器の山を目の前にしてその目が子供のようにキラキラと輝いているのをフェルは見逃さなかった。











 そして、8時間ほど経った頃─────











「くそ〜〜!何度やっても勝てねえ!」


「もう無駄だ。やめておくといい」




 そこには、一心不乱に武器を振り続けるリケルと、腕相撲をする二人の姿があった。




「リケル、まだかー?結構長いことやってるじゃねえか」


 すでに日は沈みかけている。


 さすがに痺れを切らしたのか、バルドが声をかける。


 リケルには何も聞こえておらず、ただ感触を確かめるように武器を振るばかりである。


「なあ、フェルさん。

せめてなにかアドバイスとかしてやんねえと、あいつも自分に合った武器なんて分かんねえんじゃねえのか?」


「いいや、彼はもう見つけているさ」


「え?」


 意味がわからず聞き返したバルドを無視し、フェルはリケルの元へ歩み寄った。





「────もう一時間もそれを振ってるな。

気に入ったのか?」


 余程集中していたのか、いつの間にか近くにいたフェルに気づいたリケルが一瞬驚く。


 しかし、数秒後にはスッキリとした顔で頷いていた。


「ああ、まるで自分の手のようによく馴染む。

これにさせてくれ」


「もちろんだ」


 二人が握手を交わす。









 汗に濡れた彼の右手には、1本の刀があった。

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