情報通
「バルド、まずはありがとう」
太陽は真上から気だるそうにこちらを見下ろし、街も仕事に一段落つけて休憩を取ろうかという昼の最中。
一人の男が頭を下げていた。
「いやいや、感謝されるようなことでもねえよ。
お前はなんだか悪い感じがしねえから、ここでわざわざ見放すのも嫌だなって思っただけだ」
(それを人は善行と呼ぶんだけどな)
リケルは内心穏やかに笑いながら、差し出された手を固く握った。
「これで俺たちゃもう仲間だぜ」
「仲間……か」
彼は仲間というものを持ったことがなかった。
子供の頃はもちろん友達と呼べる人はいたが、血が燃えるような熱い約束を交わした仲間も、花のように甘く心地よい言葉を交わした恋人も持たなかった。
代わりに親や妹とは強いつながりを感じていたし、父には特に憧れていた。
彼はリケルの全てであったといっても過言ではない。
(今思えば、俺は少し家族に依存しすぎていたのかもなあ)
「おい、どうかしたか」
自分の言葉を何やら重く受け取られたように感じたバルドが、堪らず声をかける。
「いや、少し昔を思い出していただけだ」
「昔、なあ。まあ今は深く聞かねえけどよ。
いつかは教えてくれると嬉しいぜ、俺は」
「ああ、いつか教えるさ。
──仲間、だからな」
わざとらしくいうリケルに、最初はバカにされているのかと思ったバルドだが、彼の力の篭もった瞳になにも言えなくなった。
「そうだ、一つ聞きたいことがあるんだった」
リケルの口から質問が放たれた。
────────────────────────
「なるほどなあ、それで今そのお嬢さんが大変なことになってるから助けに行きてえってことだな」
「そういうことだ」
目を腫らしたバルドが要点をまとめる。
彼は情に厚い男である。
「この国での処刑は、基本的に毎月15日と45日に行われる事になってるのは知ってるよな?」
「…………そうだったのか」
恥ずかしげに答えるリケル。
子供だからと処刑に関することはあまり知らされてこなかった。
「いや、別に常識ってわけじゃねえけどよ。
さっきのマックスとのやり取りを見て、てっきり裏の事情は知り尽くしてるのかと思った。
知らねえならいいんだ」
「あれは……」
彼が持つ暗い情報は、全て監禁時代に手に入れたものだ。
彼を拷問していた二人の男は口が異様に軽く、知られてはまずいような裏事情ばかりを話し合っていた。
処刑などの話に関しては、彼らにとって話すまでもないほど重要度が低い、つまりある程度有名な情報だったということだろう。
「ちなみに、そのお嬢さんが囚われてるであろう場所も知ってるぜ」
「本当か!」
「ああ。けど、教えたところで行けるような場所じゃあないと思うぜ」
バルドの意味ありげな溜めにリケルは固唾を飲む。
「フェニケス王国王城地下牢────通称『棺』だ」