互いの思い
「あの場所で何があったのか。
そして─────君は何者なのか」
マックスが柔らかい笑みと共に質問をなげかける。
「分からない。何やら武器を持った男達に囲まれて、頭の中がぐちゃぐちゃになって、気がついたら…………」
「ふむ…………」
マックスは顎に手を当てて熟考する。
そして、1度考えるのをやめたのか、彼は懐からとあるものを取りだした。
「それじゃあ、これには見覚えはあるかい?」
「それは…………」
それは男達が持っていたボウガンであった。
森での襲撃に続き、【火鳥亭】で居合わせた男達も所持していたものである。
「むしろこちらが聞きたいくらいだ。
何の道具なのかは知らないが、それを持つものは皆魔法らしきものを撃ち出していた。
──どうせそちらにも心当たりがあるのだろう?」
「…………ふむ。話題を変えようか。
君は一体何者なんだい?」
「そんな態度をとるのなら、こちらにだって考えがある」
明らかにリケルからの勘ぐりを嫌がりつつも、それを一切顔には出さずに答えるマックス。
「ギルドが捕縛した盗賊への違法な拷問」
「……!」
「つい最近滅亡したアニマス王国からの異種族移民への差別の扇動、シン王国との国境にある金山の国絡みでの不法占拠、それから────」
「わかった、もういい」
止めなければ何時間でも話し続けそうなリケルを制止するマックス。
先程とは打って変わって、彼の顔には驚きが貼り付いている。
それもそのはずだ。彼が口にした情報は全て完全な機密情報であり、金山の話に関しては下手な王族内の事情よりも固く口止めされているほどである。
そんな機密情報を知るほどに高い身分、あるいは大きな汚れ仕事に関わっている者。
彼にはリケルがそんな人間には見えないから尚更驚いたのである。
そんな立場にいてかつ口の軽い人間がリケルに話したのなら別だが。
いや、あるいはそんな人間が話しているのを盗み聞きでもする機会があったのかもしれない。
マックスは熟考するが、答えが出るよりも再びリケルが口を開くのが先だ。
「────俺はこの王国が嫌いだ。恨んでさえいる。
俺はお前達がやってきた汚い事も全部知っているし、お前達が自分よりも弱いものにしか手を出さない卑劣な人間であることも、理解している。
そんなやり方、まるで隣の帝国のようで惨めだとさえ思ってい────「貴様!」」
驚きの表情を怒りに変えた金髪の男は、耐えきれず彼の胸ぐらに掴みかかる。
「撤回しろ!」
「何をだ?俺は何も間違った事は言っていない。
お前達のような偽善者ギルドも、この腐った茶番王国も。
そして何より、そんなふざけた現状を作り出しながら、善人面して人から信頼を奪おうとしているお前のような人間が、心の底から大嫌いだ」
「お、おい……なにもそこまでいうこたぁねえだろ。
マッ……マスターだって何かやむを得ない状況があったに違いねえ」
「ああ、分かってる。目を見れば分かる。
こいつは遊びや自分の快楽のために人を虐げる類の人間じゃあない。
確かに心の中に1本の芯のような堅い信念を持っている」
リケルの指摘に、マックスは少し驚きながらも頬を緩ませる。
「そう思うなら、少しくらい抑えてくれるのが人情ってやつじゃないのかい?」
「ああ、だからかなり譲歩してる方さ。
お前が本物の外道なら、ここでお前をどうにかしていたかもしれない」
「…………噛み合わないね。
まあいい。どうせ君の正体については雀の涙ほども教えてくれないだろうし。
それならこちらも情報はあげられないよ。
こっちにも面子ってもんがあるからね」
「……それで構わない。話は終わりか?」
「うん。また聞きにくるけどね。
まあ傷が治るまではここにいていいから、ゆっくりしてくといいよ」
「ゆっくり…………ってわけにもいかないんだけどな」
彼の言葉を聞いて自分のやるべきことを思い出したのか、ボヤくリケル。
その脳裏にはかすかにクエスチョンマーク。
(……ん?ちょっとまて。ギルドは俺を初見のはずだ。
ここまでよくしてくれる理由が──)
マックスはドアノブに手をかけたところで、思い出したかのように振り返り、グッドサインを作った。
「そこのバルド君がなかなか頭を上げてくれなかったからね。
今回だけは特例だよ」
「……!」
リケルが後ろを振り返ると、赤面してそっぽをむく大男の姿があるのだった。
ちなみに、今回『雀の涙』という表現が登場しますが、本世界には雀も存在しますし、基本的に地球に存在する生き物は全ていると思ってもらって構いません。
というか【反転】以前は地球とほとんど同じ生態系が存在していました。(それにも理由があったりするのですが)
また、もちろん、今は魔物の出現により絶滅した種もあります。