マックスとバルド
どこからか声が聞こえる。
どうしてだろう。
今まで、人の声が心に届くことなんてなかった。
全部、1個の例外もなく全部、僕の心に届くことはなかった。
みんな浅い所で消えていく。
僕の中の深く奥までは入って来れない。
何も────────聞こえない。
なのに──────────
「あなたの名前は?」
「────────はっ!」
ふと起き上がって辺りを見渡す。
起き上がるという動作をしたことで、今まで自分が寝ていたのだと気づく。
「どこだ……ここは……」
自分は今、白いベッドに座っている。それだけは分かる。
しかし、この部屋はなんだろう。見たことの無い部屋だ。
そもそも自分は今まで一体何を─────
「起きたか?」
リケルは右からする声にはっと振り向く。
目の前にはどうやら見た事のある顔だ。
彼もベッドに寝かされているようである。
「ああ、あの時吹っ飛ばした大男じゃないか…………」
「あっ!そうじゃねぇか!お前どっかで見たことあると思ったら!」
合点がいった、と大男は分かりやすく手を叩く。
「なんでお前がここに……」
「聞きてぇのは俺の方だぜ!街のど真ん中で散々暴れたかと思ったら急に大人しくなるんだからな!」
「街のど真ん中で…………?……!そうだ!俺はあの二人の元へ────うっ!?」
今すぐにでも立ち上がろうとするリケルだが、左胸に鋭い痛みを感じてうずくまる。
「おいおい、今すぐ動こうってのは無理だと思うぜ?
ま、袈裟斬りにしてやったのにもうそこまで傷が塞がってるのも十分おかしいけどな」
大男の言葉に首を傾げるリケルだが、自分の服をまくってみると、確かに大きな生傷があった。
傷口を見つめるリケルだが、その横から大男もまじまじと傷を見つめる。
「まあお前にも何かしら秘密があるんだろ?深堀りはしねえが。
俺はもう気にしちゃいねえけど、今回の件についてギルドマスターがお呼びだ。動けるようになったら行くといい」
(ギルドマスター?秘密?)
なにやら話が噛み合わない。
自分はたしか、【火鳥亭】で出会った刺客と戦いを始めたはずだ。
そして結果は────覚えていない。勝ったのか?負けたのか?
彼の頭をたらい回しにされ走る質問は、とある声によって打ち消された。
「その必要はないさ、バルド君」
爽やかな声と共に部屋のドアが開いた。
「おお、マックス!来てくれたなら話が早いぜ!」
「はは、今はその名前で呼ぶのはやめてくれ。一応マスターでやらせてもらってるからね」
男が黄色い髪を揺らしながら軽快に笑う。
(誰だ……?この男は……?)
リケルの疑問に答えるようにマックスは口を開いた。
「それでは改めて、僕がギルドマスターのマックスだ。よろしく頼むよ。
────さて、今回の件について詳しく話を聞かせて貰えるかな?」
マックスの真白い歯がキラリと光った。