豪傑乱入
「依頼を受けて参上したぜい。よく聞け!俺の名前は─────うわっ!?」
大男が名乗りを挙げる前にリケルが指を動かす。
すると、動かなくなっていた男達は体から黒い蒸気を発し、唸り声をあげながら大男に襲いかかる。
「こいつらボウガンを使ってこねえとこを見ると知能はそこまで高くねぇみたいだな!いいや!そんなことよりもっ!」
余裕綽々といった様子で見ていたリケルの首元に衝撃が走る。
「俺様の名乗りを邪魔しやがったなっ!『風刃』ッ!」
絶え間なく襲いかかる男達を殺さないように対処しながらも、大男は数十もの斬撃を飛ばす。
一撃一撃がまるで本当に斧で殴られたかのような重い衝撃波に、リケルも思わず後ずさりする。
「めんどくせえ!豪快にいかせてもうぜ!【剣技】『風柱到天』ッ!」
大男の斧が緑に光る。彼が斧を持ってその場で大きく回る。
何周も、何周も、回る。
男が雄叫びをあげながら斧を天高く投げあげると、その軌跡を追うように、細く長い竜巻が出来上がった。
竜巻は周りのエネルギーでも吸ったかのように大きく成長してゆき、追手の男達だけを絡めとる。
「見たか!これが俺の奥義だっ!」
空から落ちてきた斧をキャッチすると大男はリケルの方へ向き直る。
竜巻に吸い込まれた男達は、雨のように降り注いで地面にたたきつけられ、全て意識を失っている。
リケルは特に反応することもなく、その場でジロリと男を見つめていた。
「特に支障はありませんってか?なら────これならどうだっ!」
大男が斧を右手に持ち替え、リケルの元へ肉薄する。
斧からは溢れんばかりの魔力が見える。
それに対しリケルは、大男の左手に黒い刃を振るう。
その左手には斧よりも大きな緑に光る魔力が込められていた。
「右手が囮って気づいてたんだろ?ならなぜ気づかねぇ?
こういう時、本命は左手なんかじゃなく─────死角に置くもんだぜ」
大男が攻撃を1時中断し、しゃがみこむ。
低姿勢になった大男を蹴り飛ばそうとしたリケル。
しかし──────
『!?』
リケルの視界が急激に白く染る。
「やっぱ黒い奴には取り敢えず聖気だぜっ!」
しゃがみこんだ姿勢のまま、大男が斧を持つ右手に魔力を集める。
まだ技を打っていないのにも関わらず風が生じるほどの魔力量である。
左手でもがっしりと斧をつかみ、リケルの左脇腹から右肩まで斬りあげる攻撃だ。
「今度は正真正銘、これが本命だああああああああっっっ!?」
男の斧が割れた。
男が大量の血を吐き出す。
(ば、バカなっ!?聖気のせいで奴はしばらく動くことすらままならないはずだっ!?)
血を吐いているため言葉にならない悲鳴をあげる大男。
実際、彼の読みは当たっていた。
右手を囮に、左手を本命の攻撃にすると見せかけ、それすらも囮にしながら、大男が本命の攻撃にしたのは、ボウガンであった。
リケルの気付かぬうちにボウガンの矢にコーティングされた闇の魔力を聖気に組み換え、ボウガンにはちょうど良いタイミングで発射されるよう魔力でタイマーを仕掛けておいた。
そして彼の策略に見事引っかかったリケルは、聖気のたっぷり込められた弾丸を右目に食らった。
彼の言う通り、リケルの纏う黒いオーラにも聖気は有効であり、それゆえリケルは一瞬視界を失った。
そして、聖気の影響で彼は暫く動けなくなるはずであった。
リケルが聖気さえ習得していなければ。
本来、闇の魔力と聖気や光の魔力は相性が悪い。
両方習得している者は数少なく、たとえいたとしても器用貧乏になってかえって損をするだけだ。
だから、大男も思い込んでいた。リケルが聖気など使えるはずがないと。
リケルの特殊な出自さえなければその思い込みは正しいと言って良いだろう。
しかし、結局、結果的には、最後には。
ある理由により聖気も黒いオーラも使いこなすことができるリケルによって大男が撃ち込んだ聖気は一瞬で分解され、リケルは体の自由を手にした。
そして、大男の胸に黒い刃を貫通させたのである。