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ゲームの中では国王様!?  作者: クスノキ
Chapter1 Select and Decision
3/5

Second episode

俺たちはアドヴァンスへファストトラベルしたはずだったが・・

果たして一体ここはどこなのだろうか、どうやら異なる場所に着いてしまったようだ。前方を見れば見渡す限りの草原と、少し目を凝らして遠方を覗くと人の営みが見える村の建物の煙突から、炊飯の煙が薄く立ち昇っているのが見えた。

後ろに振り返ると、まず鬱蒼と繁った森が目に入る、そして揺れる木の葉と枝の隙間から遠くに雄大な山脈が顔をのぞかせていた。

俺達は森と草原のちょうど境目のあたりに立っているようだ。

ファストトラベルの中断は過去にも遭遇した事があった。

その時は確かファストトラベル中に運営からのミッション(強制イベント)が割り込んできて、周辺にいるプレイヤーと魔物との戦いにいきなり巻き込まれたような感じだったと思う。

 今回も同じようなケースなら注意して辺りを警戒しなければならない。いつ戦闘に巻き込まれるとも限らない・・


「どうやらファストトラベルは中断されたようだ周りを警戒しよう、ハンゾー」

「かしこまりました」


「・・・」

「・・・・」


警戒を始めて5分は経っただろうか・・・特に何かが起きる気配はないようだ。

うーんどういうことだ、さっぱりわからん?

なぜファストトラベルが中断された?

そして中断されたのになぜ何も起こらない?

運営のシステムエラーのようなものか、であるならばGMゲームマスターに報告のメッセージを送らなければならないが・・・どちらにせよ普段あまり起こることのないことなので少し緊張していたようだ。

ちょっと軽く深呼吸しておこう。

生い茂る木々の爽やかな自然の空気を肺の中いっぱいに吸い込む。

普段、排気ガスとコンクリートジャングルの中で生活している俺には、近年感じることがなかった、体の奥の奥までスッキリとするような感覚に驚き、酔いしれた。

異物のない透き通った風が俺の髪を撫でる。

俺は全身に穏やかな風を受けながら右手で髪をかきあげた。


「風が・・気持ち良いな・・・・・」


 ・・・・・って俺は何を落ち着いて髪なんかかきあげてるんだ!俺はバカか?俺はバカだ!そうだった忘れてた、俺はバカだった!

いや違う!バカかどうかはこの際どうでもいい、そんなことより俺がきれいな空気を吸って、髪をかきあげてることが問題だ。

俺は自室の暗い部屋で、ピカピカと光るゴーグルをつけてゲームをしているはずだろう!

落ち着け俺、こういう時こそまさに深呼吸だ。


「ひっひっふー、ひっひっふー」

「・・・」


違う!これは妊婦さんがピンチの時に行うやつだった。あれ?深呼吸ってどうやるんだっけ?形になんかこだわるな!妊婦さんのピンチに活躍するんだからリラックス効果はあるはずだ!

俺はここで出産する!


「ひっひっふー、ひっひっふー」

「・・・」


呼吸法ではパニック症状が収まるどころかどんどん拡がっていく。なぜか俺はこの壮大なのっぱらで出産することになってるし、このままではイカン、どうする、どうするんだ俺?

次のリラックス法は、何か、何かないのか?

そ、素数を数えるんだ俺!素数を数えれば落ち着けるはずだ!かの有名な神父さんもそうおっしゃっていたはずだ・・


「1、2、3、5、7,11・・・」

「・・・」


うん?数字の1って素数だっけ?そもそも素数って何だっけ?おい!素数数えても全然落ち着かねぇじゃねぇか!どうなってんだ!訴訟だ、訴訟!弁護士連れてこい、誰か!

思考が支離滅裂だ。


「いかがされましたか?陛下」


 俺のおかしな行動をずっと隣で見つめていたハンゾーが、ついにしびれを切らしたのか気遣うように声をかけてきた。


「あぁ、何も問題はないとも」

「そうでしたか、何かありましたらお声をおかけください」


 問題ありまくりじゃーー!ボケーーー!

頭の中でやまびこが5回は鳴り響くぐらいの音量で俺は絶叫した。

NPCからなして話しかけてきてるたい?このゲームではNPCの方から主体的に話しかけられることはなかったはずだったばい!

いつの間にか九州弁が発動してるたい、俺はまったく九州に縁もゆかりもないとに・・・

俺の精神世界がいろいろと紆余曲折しているがつまりどういうことだ?

俺がワールド・ウッド君に憑依して、ハンゾーと一緒にどこかよくわからんところに飛ばされたってことか・ま・・まさか・こ・・これはあれなのか、ネット小説なんかでお馴染みの異世界転異ってやつなのか・・・神よ・・本当に俺でいいのか?

ああいうのは大抵賢くて行動力抜群のスーパーマンみたいな人間が行くもんじゃないのか、俺はかの主人公達とはまるで正反対の人間性の持ち主だぞ。

仕事の日はともかくとして、休日はできるだけ家から出たくないし、自宅で何してるかといえばゲームしたり、動画を見たり、ネット小説をあさったりと行動力や積極性とは無縁の生活なんだぞ。

本当に俺でいいんだよな?・・・・確認したぞ・・・やっちゃうからな・・


「俺の時代がっキターーーーーー!!!」

「!!!」


俺は両手を天に向かって突き出し、大声で突然叫ぶ。

俺のあまりの声量にハンゾーが一歩おののいたようだ。


「ハンゾー、変なことかもしれないが手のひらを上に向けて出してくれないか?」

「はっ」


 俺はこの手の異世界転移物のネット小説は読み漁ってきた。

転移の事実確認の方法はかなりの数が脳の中にストックされていて、シミュレーションは完璧だ。その中の一つがこの方法で、まぁ極々普通の脈拍の確認だな。

 ハンゾーの手首に指をあてる。

おぉーー、きちんと脈打っているし、血管も浮かび上がっている。1分あたり110回か、どうやら俺の声にビックリしすぎて脈が上がっているようだ。

いくらVR技術が進化しているとはいえ、ゲームではNPCの手首の血管まで表現はされていなかったはずだ。

もちろんこんな事を行わなくとも転移・憑依したことは分かっているが、やはり転移物における様式美はきちんと頓首せねばならないよな。

ハンゾーには様式美という名の儀式に付き合ってもらった、感謝の言葉を述べておこう。


「もういいよ、ありがとう」

「はっ」


 さて、これからどうしていくのか考えないとな・・

今後何をやっていくにしても体が基本で健康が第一だよな、ワールド・ウッド君の体の確認から始めてみよう。

まずはきちんと歩くところからか・・ウッド君は身長が190cm以上あって元々の俺は173cmだったから誤差が20cmもある。

20cmも身長がいきなり変わると、もちろん初めての経験だが歩くことさえ困難になるはずだと思う。

 というわけで歩いてみよう!一歩ずつ違和感があるのかないのか確認するように足を進める。

ぐるぐると辺りを回るようにして、慣れてきたら早歩きや小走り、簡単なストレッチなんかも交えて体の動きを確認した。

しばらくやってみても躓いたりするようなこともなく、特に大きな違和感を感じることはなかった。

俺は元々インドア派だったし、そんな人間が誤差20cmある肉体を操って違和感を感じないというのは、いささかどころか全くおかしい話だと言わざるを得ない。

おそらくこれはウッド君の肉体のスペックが恐ろしく高いということ示しているんだろうと思う。

諸々やって基本的な肉体感覚・動作はOKだということが分かった。

ならば次は発展させるしかなかろう、俺も日本男児の一員だ、左の腰に剣をぶら下げているこの状況、侍魂(厨二病)が沸々と煮えたぎってきてるぜ!

 さっそく聖騎士の剣を鞘から引き抜いた。

キィ―ンっと小鳥の声がさえずるだけの静寂な森のふもとで金属の擦れ合う音が静かに響いた。


「きれいな刀身だな・・」


 俺は刀オタクの一面も持ち合わせていて、博物館や歴史展などでいくつか歴史的な名刀も実際にこの目で見たこともある。この剣はそういった名刀の数々に見劣りしない、美しい波紋を持った刀身である。

とはいえこちらは用途も異なる西洋の剣であるからして、比較自体にまったく意味をなしていないのは明確である。

またゲーム時代には戦闘時に剣から紋様が浮かび上がるようなデザインが施されていた。

そういった細かなところも気になってはくるが、さっそく振って試してみよう。

 学生時代の剣道の授業を思い出すように、頭上から力を抜いてすーっと剣を振り下ろす。頭の中にまるで水面に飛沫を立てずに剣を振り下ろしてるかのようなイメージが同時に湧いてきた。


「素晴らしい軌跡ですな、陛下」

「ありがとう」


ハンゾーがまるで感動を抑えきれないといった様子で感想を漏らした。

とはいえ最も驚いているのはハンゾーではなく俺だろう、まるで感じたことのない感覚が剣を振り下ろした時に襲ってきたのだから。

力を入れていないのに、結果的には力が入っているというような感覚だろうか、全く矛盾した感覚を同時に感じたのだ。

不思議な感覚だった・・・

これが何かしらの道に精通した人が感じる共感覚と呼ばれるものなのかもしれない。

さすがは高スペック男子ウッド君ボディーだ!

ウッド君が剣の達人であるという納得できる背景も、俺の中では実は心当たりがあったりする。

ウッド君は基本クラスの騎士を経て上級クラスである聖騎士へと至ったわけであるが、その際に基本クラスの騎士のレベルを上限まで上げきってから聖騎士へとクラスアップをしたという経緯がある。

最近のプレイヤーの中では基本クラスを上限まで上げきらずに、上級クラスへ出来るだけ早く到達するのが常識として定着していたようだ。

確かに基本クラスを上限まで上げきるメリットはゲーム時にはほとんどなかったといっても過言ではない。

上級クラスに変わった時点で基本クラスで覚えたスキルはリセットされるし、ステータス補正も上級クラス成り立てでは基本クラスに劣る部分も少しはあるが、しかしそれもレベルアップとともに圧倒的な差となってしまう。

まぁ要するにウッド君は手間暇かけて上級クラスになったということだ。

その過程が現実になった今、影響していると予想したわけだ。

 そしてうろ覚えの剣道の型を一通り確認し終え、剣を鞘に収めようとしたところで・・


「陛下、剣をしまうのはお待ちください、どうやら森の方から不自然な物音が聞こえます」

「不自然な物音?」


「おそらく何者かが争っているものだと思います」

「ふむ、少し考えよう」


まだ確認できてないことが山ほどある状況でどう振る舞うことが正しいのか、判断するための材料があまりにも不足している。

そもそも今いる場所がThe dragon fantasy story onlineの世界なのかどうかも確認できていない。

どうしたらいいのか?うーん・・分からないときは聞いてしまおう。


「ハンゾー、お前ならどう行動するのがいいと思う?」

「陛下の身の安全を考えるなら前方に見える村に逃げ込むことが良いと思われますが、この状況では危険かどうかも判断することができません」


前方に見える村に逃げ込むか・・・よーーく見てみても村に防衛施設のようなものは見受けられないんだよな。

ポツポツと家が数軒建ち並んでいるといった感じで・・・あそこに逃げ込んでもあまりいい結果にはならないだろう。

もし魔物を連れ込んでしまったら被害が大きく拡大してしまいそうだ。

まず物音の原因が何なのか判明しないことには、逃げるにせよ戦うにせよ正しい判断を取りようがないといったところか。


「何者かに気づかれずに、戦闘の詳細を確認することができるか?」

「可能です、しかしそうすると陛下の護衛任務から離れなくてはなりません」


「今は詳細を確認することを優先しよう」

「かしこまりました、それではさっそく・・」


ハンゾーはスカウト系上級クラスの忍である。

忍は日本サーバオリジナルクラスで基本クラスの下忍から特定の条件を満たすことでクラスアップすることができる。

特徴は忍術スキルという特殊スキルを扱えるようになることで、さらに忍具という固有のアイテムを装備することができる。

スカウト系上級クラスという枠組みではあるが、その中でも戦うことに特化したクラスといえる。

今回のような情報収集任務程度、プロ中のプロであるハンゾーにはおちゃのこさいさいっといった感じでこなせるだろう。

 ハンゾーが偵察に行こうと身構えたところで、森の中から幼い子供の悲鳴が小さく響いた。


「今のは・・・子供か・・」

「おそらく子供の悲鳴かと思われます」


「考えている時間はないな、急ぐぞハンゾー」

「はっ」


状況は分からないままだが、どうやらなりふり構っている場合ではないようだ。

俺が全速力で走り出したのに合わせて、ハンゾーが付いてくる形となった。

声が聞こえた方角に向かって、森の中の木と木の間を縫うように走り進めていく。

道なき道をこじ開けるように進んでいるがこの体はびくともしない、あっという間に現場らしき場所にたどり着く。

 そこは暗い森の中でポッカリと開いた広場のようになっていた。

そして木漏れ日を受けながら広場の中央付近で行われている余りに残酷な光景に、俺は呆然と立ち尽くしながら息をのんだ。

おそらく男性の死体だろう、3匹の口元に血を滴らせたゴブリンが覆い被さるように死体を貪り食っていた。

こみ上げる吐き気を無理やり抑え込み、くじけそうになる自身の心を無理やり奮い立たせ、無理やり魔物と戦う腹を決める。

 俺は死体に夢中になっているゴブリンに躍りかかるように、背後から無防備な首を狙って剣を振りかざす。

手応えは一切なくまるで豆腐を切っているかのようで、切られたゴブリンも初めは自身が切られたことに気づいていないような仕草を見せ、刃が首を通り過ぎた後に目を見開き驚いた表情を見せた。

 ゴブリンの首が地面にポトリと落ちる。

突然の事態に残りの2匹のゴブリンが何が起きたのか確認しようと顔を上げたところに、ハンゾーの苦無が2匹の丁度眉間のあたりに突き刺さった。

俺は一連の戦闘行為の最中も、頭の中は真っ白という状態で無意識に体が動いているというような感覚だった。

頭の中の整理も目の前の現実に対して一向に追いつく気配はない、そんな俺を置き去りにして当たり前のように事態は進んでいく。

 ハンゾーが死体の状態の確認と、辺りをざっと見渡し現場の確認を行っている。


「この辺りに子供が居た形跡はありません」

「そうか・・・」


「おそらくこの男性はゴブリンに殺されたというわけではなく、死因は背後から刃渡り30cm以上の刃物で心臓を一突きされております、先ほどの魔物はそのような刃物を持ち合わせておりませんでした。」


確かに倒したゴブリンたちの装備は貧相で、木のこん棒や先のとがった木の槍程度のものしか見える範囲には転がっていない。

であるならば死体の男性は誰にやられてしまったのか、疑問がまた一つ積み重なる。

 辺りの検証を終えたハンゾーが手に剣を抱えて俺の元に戻ってきた。


「この剣はどうやらこの男性の物だったようです、その装備から判断すると傭兵ではないかと思われます」

「ふむ・・・」


「剣が落ちていた付近に、馬車の轍と馬の蹄の跡がありました」


ハンゾーが進むべき方向を手で示しながら報告を続ける


「痕跡をたどれば後を追うことは可能です、いかがなさいますか?」


 今後どうするのか?と聞かれたことでふと我に返ることができた。

どうしたらいいのか?そんなことさっぱりわかんねぇよ、逆に聞きたいわ、どうして俺がそんなこと分かるんだ?今でもすでに一杯一杯なのに先の話なんかできるかーーー!

なんとなく日本人特有の空気を読む特技でここまでやってきたけど・・・

っていうかそもそも聞かれてはいるが、これ選択肢あるのか?

つまりここで追っかけない選択をするってことは自分の命惜しさに子供を見殺しにするってことだろ・・・それをやったら人としてもう終わりだよな・・


「もちろん追いかけよう」

「はっ、先導します」


事態に流され流され、俺は行くーーー

なんか変な演歌が頭の右から左に流れていった、確か右から左に受け流す~的なフレーズが特徴のお笑いタレントさんがいたような・・・あれ?左から右に受け流すだっけ?・・うーん・・・どっちだっけ、思い出せない・・

現実逃避が順調に成長していくーーー

っあ、また右から左に演歌が流れていった。

 足元に注意を払いながらハンゾーが再び走り出した、それに遅れず俺もついていく。

足元の痕跡を見てみると割とくっきり地面に残っているようで、これなら見逃したりすることもないだろう。

しばらく痕跡を頼りに後を追っていると、


「お父さん!」


悲鳴のような少女の声がはっきりと俺たちの耳に届いた。

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