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ミジンコ大脱出!

作者: 水嶋穂太郎

 ぼくの名前はミジンコ。

 他にも呼ばれ方はあるけれど、ここではこれが一般的だ。


 おっと、今日もどうやら《ジュギョウ》とやらで人間がやってきたようだ。ものすごく大きいのが多数で、さらに大きかったり小さかったり、相変わらずすごい生物だ。

 《センセイ》と呼ばれている人間の大きさたるや、圧巻の一言に尽きるよ。こんな生物であふれている世界はさぞや大きいんだろうなあ。


 《セイト》と呼ばれる人間たちは、ぼくらの世界に顔を近づけて見つけようとしているよ。そんなに見ようとしなくても、ぼくらの仲間をいっぱい捕まえて変な機械で覗いているじゃないか……あれってぼくらのことをはっきりと見るためにやってるんでしょ? 違うの? まったく、そんなことをしないといけないなんて、人間って実はひどく大変な生物なんじゃないかなあ……


 それにしても人間って大きさはそれぞれでとても異なるのに、考えることはいっしょ、というか単純なんだねえ。

『ミジンコだ!』『ミジンコ見えたぞ!』『どこどこ!?』

『べ、別に興味ねーけど、で? で?』

 うーん、見られたら満足しちゃうのか……

 いったい《センセイ》は何をしているんだろう。あのなかで一番えらいんだろう?

 それとも《キョウカショ》と呼ばれている、あの書物のせいなのか?


 ん?


――ミジンコってなんでこんなきったねえ学校の池に好んで住んでんだ? 池の外には出ないのか? 出られないのか? その世界に閉じ込められてるのか?


 へぇ~、今回は変な人間も混じってるなあ。

 でも声には出していないようだね。言葉にしないと伝わらないのも人間は不便だよねえ。

 ちょっといたずらをしてみようか。


――別に好きでこんな場所にいるんじゃないよ。ここでしか生きられないからいるのさ。人間はどこにでも行けるというのかい? それは便利だね!


『はぁっ!?』

『どうした? すっとんきょうな声だして?』

『いやなんか……やっぱなんでもねえ』


――また変なこと考えてるとか言われたくねーしな。


――へえ、そりゃ大変だ。まわりと少しでも違うことを考えたらいけないんだ!


『!?』

『いつもおかしいが、今日のお前はもっとおかしいぞ』

『おれはいつだって普通だ!!』


――…………、あんただれだ?


――ミジンコ。いま、きみらを見ている。


――ほう。おれもいまお前を見ている。


――やっぱり、きみって他の人間とは違うんじゃないの?


――変わんねえ! そんなおれに話しかけて……話してんのか? どっちでもいい、お前のほうがおかしいぞミジンコ!


 あっはっは。

 やっぱりこの人間はちょっと変だ。おもしろい。

 何度か人間に話しかけたことはあったけれど、みんな逃げたり倒れたりしていたのに。

 まるで真っ向から仕掛けてきている気すらするなあ。


――ふんっ、そこから出られないから出ないというようなことを言ったな。


――言ったけど?


――よし、決めたぞ。お前をこっちに引きずり出してやる。


――そんなことされたら死んじゃうんですけど!? きみ、ぼくの話を聞いてた!?


――聞いてた。だから決めた。人間にも宇宙やら深海やら生身じゃいけない世界がたくさんある、とおれは聞いた。でもそれらは近いうちに克服されるような気がする。というか誰かがやると思う。だが、


――だが?


――ミジンコ。お前をおれたちの世界で生きられるようにするのは無理かもしれないし、だれもやろうとしないと思う。


――人間って自分たちにとって得になることしかしないんじゃないの?


――しらんわ。それはお前が見てきた人間の価値観だろう。だれかがやれると思ったことを、おれはやらない。でも、だれもやらないしできないと思っていることなら、やりたい。それだけだ。


 ぷっ。

 ぼくは思わず吹き出しそうになってしまった。

 いままで見てきたなかで、間違いなく一番『人間らしくない人間』だ、と思った。

 だからなのだろうか、この人間なら本当に実現させてしまうかも、とあわい期待を抱いた。


――きみの名前を聞いても?


――あん? そんなもん聞いてどうすんだ?


――ぼくの仲間たちにも、きみのことを伝えておきたくてさ。


――やるだけやってみるが、できっかどうかわかんねーぞ。それに……


――わかってるさ。それだけはきっと変えられることじゃないから。



 西暦20XX年。

 人間の生活圏にはミジンコがふよふよと浮くようになった。


 彼らがホコリやチリを主食とすることで大気は浄化されており、また死する際の場所には必ず土壌を選ぶことで作物の実りにも貢献している。


 彼らを覆っていた世界の殻をやぶり、新しい世界を開いた人間の権威は、しかし誰にも本意が見えない言葉を残している。


「本当に見せたいやつには、結局見せられなかった」

 友人のツイートを見て、『思考の整理学 著:外山滋比古』をちょろっと読んで、「あー書いてみっか」と適当に書いたものです。


 書いてみて思ったんですが、この少年いいキャラしてますねえ、うーん使い回したい…………ってこれ俺なんですけどね。モロに俺。そのまんま俺。なら使おうぜ、俺。


 脱線した。


 まあ、書いていて物語っぽくなっちゃいましたけど、『ミジンコの屋外観察』をする授業のとき、俺はこんなこと考えてましたよ。


「おめーら、ミジンコミジンコって、授業で散々やっただろう。なに騒いでんだ?」


『なあ、先生。ミジンコってなんでこんな狭っくるしくて、きったねえ池に住んでんだ? 人間だって広くてきれいな場所に住みてえもんじゃねえの?』(って聞きたいけど、眼でうったえたらそらされたから<答えられないから聞かないで>ってことなんだろうな)と察した小学三年生だか四年生。


 理科ってのは、新しい世界を更新させてくれるから、楽しかったかな。


 あー、最後に。

 相変わらずハッピーエンドにできずにすみません。どうにもハッピーエンドのように見えてバッドエンドが好きなようで、着地がどうしてもこんな感じになっちゃうんです。ゆるして。

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