僕が作った機械。
XXXX年。僕のいた故郷は塵となって消えた。
発想が豊かな国、何もかもが発達しすぎた国。
だからこそ、色々なものに影響を及ぼした。
……影響を及ぼしすぎたのだ。
様々な技術で。発達すればするほど、気付かないところで被害が出ていた。
いや、本当は気付いていたんだと思う。
ただ気付かないフリをしていた。
それぞれの国の偉い人たちも。
科学者も。研究者も。開発者も。全部。
学校の先生だって。親だって。友達だって。
誰もかもが分からないフリをしていた。
自分たちに都合の良いものを作った結果、
全てを失うことになった。
「本当に馬鹿みたいだ」
最後に見たテレビでは国の偉い人たちが口々にこう言っていた。
「大丈夫です、近々大きな爆発が起きることも予測済みです」
「その爆発さえも抑える装置を制作しています」
「すべてを予知する、そして全てを良い方向にもっていく」
「素晴らしい装置を開発しています」
「安心して今を生きてください」
笑顔で。何も出来ていないのにまるで全てを解決したかのような顔で。
まだ何も出来ていないくせに、偉そうな顔でテレビの向こうにいるであろう人々にそう言い放っていた。
僕は周りがどれだけ褒めようと、こんな世の中はいつか終わる。
そう思っていたし、どこかでそれを願っていたんだ。
そして今。そう、まさにその願いが叶ったのだ。
結局は僕も周りと大差ないと思われるかもしれない。
それでも僕はやり遂げた。
僕は!あいつらとは違う!満足げに自分の作った装置を撫でる。
こんな世の中で上の奴らだってクソみたいなヤツが多い。
このままいけばいつか何かやばい事が起きるんじゃないかと思っていた。
だからずっと誰にも内緒でこの装置を作った。
いわゆる転送装置だ。
そしてその転送装置は見事完成し、そして成功した。
製作段階で、尚且つまだ完成するかどうかも分からないような装置なんかよりよっぽどいいだろう。
「……転送は上手くいったけど、ここからどうしよう」
機械に包まれ身動きの取れない体をなんとか捻り、
外へ出ようと扉を開けた。
「なんだよここ……」
扉を開けたそこに広がっていたのは故郷とはかけ離れた景色だった。
一応空気は一緒の様で、生きてはいけるか、と安心した。
ただ、何もない。見当たらない、
人も建物も。上を向けば青い壁が永遠と続いているような場所だった。
何もかもが違いすぎて訳が分からないが出てみないことには何もわからない。
外に出ようと1歩踏み出した時、誰かの叫び声が聞こえた。
声のする方向を見ると小さな少女がこちらを見て怯えている。
やっと人に会えた!と喜んでいたのは僕だけで、
少女は腰の引けて立てない体を引きずって後ずさっていた。
「何で逃げるんだ?」
そちらに近付けば、更に大粒の涙をこぼして後ずさる。
「ひっ、や、やめてください、来ないで……!」
「何もしないよ、だから逃げないで」
体を引きずっている少女に追いつくのは簡単だった。
とりあえず立たせようと手を差し伸べるとその手を振り払われ、触らないでくださいと泣かれた。
……先に触ったのはこの子なのになあ。
何だかよく分からないけど少女の矛盾に笑えてきてしまって、
手で口を抑えていると、何が面白いんですか……!とキッと睨まれた。
「……っ、ごめんごめん、そりゃ知らない人に触られたら嫌だよなあ」
その場に腰を下ろし、目線を合わせる。
あ、また睨んできた。
「先に自己紹介をしようか。僕はイア。君は?」
「知らない人に、名前は教えれません」
「じゃあ名前はいいからここの事教えてくれる?」
「いやです。知らない人に教えません」
……手厳しい。この少女やるな。
「んんん、名前言ったのに知らない人かあ、じゃあ何を教えたら知ってる人にしてくれるの?」
そういうと少女は少し考え込んで、一言。
「お友達になってくれたら色んな事お話します」
突拍子もなくて思わず笑ってしまった。
友達?知り合い通り越して?いやでもまあそんなもんか?
まあいいや、お互いに利益を生むなら乗らない手はない。
「わかった、じゃあお友達になろう」
「ほんとですか」
「僕は色んな事が知りたい、君はお友達になって欲しい、お互いに利害が一致するだろ?」
「りがい……?」
「あー、つまりあれ、僕も君も悪い思いはしないってこと!」
「ふむ……?なるほど」
「まあとりあえず、宜しく」
すっと手を出すとさっきとは違い握手をしてくれた。
「私はリリア。宜しく、イアさん。」
...
リリアは色々な事を教えてくれた。
この青い壁のようなものは空。
僕が降り立った場所は山頂付近でリリアはもう少し上にある花が沢山咲いている場所へ向かう途中だったこと。
この山を降りた所に建物があり、人が住んでいること。
そして一番驚いたのは、この世界には機械が少ないこと。
少しはあるが、技術もあまり発達しておらず、
ほぼ全て手作業であるため、手作業だからこそ出来ることもあるがやはり技術上の問題で出来ないこともあり諦めていることが多いそうだ。
沢山話をしてくれたお礼に僕のいた故郷の話をした。
故郷での空はドーム状で色も水色でカラフルなキラキラしたものが散りばめられていたことや、
研究者が多く、沢山の機械や装置を使って国を回していたこと、たくさんの機械音が溢れていたこと。
リリアは楽しそうに聞いていたけど、
僕は話せば話すほど何だか空っぽな国だったなあと思った。
「イアさんのいた故郷は凄く楽しそうな国だったんですね!」
「……そうでもないよ」
「そうなんですか?だって機械が動いてくれたら、人が休めるじゃないですか」
確かに、休んでた人は多かったかもしれない。
四六時中勤務しなくても数日ごとに機械の調子を見にこればそれだけでお金がもらえていたし、
別にそれで暮らせないとか不自由は特になかった。
リリアが住むこの世界では手作業の仕事ばかりで人が休めず、
過労死や仕事が辛いと投げ出したり悲しいが自殺も少なくないらしい。
「私のお母さんもお父さんも仕事ばかりであまり家にいないんです」
寂しそうに下を向いてぽつりと呟いた。
僕の故郷では休みが多く、尚且つお金だって困らない程度には貰っていたから、
小さい頃は沢山親に遊んでもらっていたし、色んなところへ連れて行って貰っていた。
ましてやリリアの年の頃なんて家族で過ごしているのが当たり前だった。
だからこそ、こんな小さい子がそんな辛そうにしているのを見て胸が痛んだ。
休みの日や、時間が合えば目一杯の愛情を注いでもらえてるんだと思う。
でも、それがほんの少しの時間しかなかったら?
リリアだけに限らず、他の子達だって寂しい思いをしてる時間の方が長いんじゃないか?
そう思ったらいてもたってもいられなかった。
「僕がこの世界を変えてあげる」
「イアさんが……?」
「任せてよ。リリアに、勿論他の人にも、辛い思いはさせない」
元々この装置の他にも沢山作ってきた。
所詮は子供の作った玩具。ガラクタみたいなものだったけど、でも子供なりに少しずつ蓄えてきた知識だってある。
それを活かしてもっと知識をつければ僕にだって皆を助ける機械だって作れるんだ。
「僕に任せて、リリア。時間は少しかかるけど、もう悲しい思いはさせないよ」
...
そう決心してからは時間が過ぎていくのが早かった。
リリアに連れられて街の人たちに会って、
沢山褒められて、応援された。
そして、僕は知識や技術を身に付けて、数年後この世界に機械を沢山生み出す事に成功した。
機械が増えてきたお陰で沢山の人が今まで取れなかった休みが取れるようになって家族との時間を大切にするようになった。
リリアも家族でいる時間が増えて喜んでいたので本当に良かったと思う。
時が経つにつれて空はいつの間にか灰色になってきたので空を覆い尽くすドーム型の天井を作った。
勿論天井の色はこの世界に初めて来た時に見たあの綺麗な青色にした。
そしてまた数年経った時、僕は遂にやり遂げた。
全てを予知する装置を作ったのだ。
「これで何があってもそれを防ぐ装置を作ればいい!」
「故郷にいた様なあの無能な開発者達と僕は違う!」
「作り上げたんだ!僕が!開発途中でもない!作り上げたんだ!」
故郷にいた奴らでさえも出来なかった事が、僕には出来た。
目の前の機械を撫でて、これから頼むぞ、と声をかける。
「君の名前はA-I(エ-アイ)だ。良い名前だろ?……さて、A-I、僕に未来を見せてくれ」
「カシコマリマシタ、マスター。モニターニ映シ出シマス」
無機質な機械音と声が僕の声に反応し応答する。
「コチラガ、コレカラ先ニ起コル出来事デス」
モニターに映し出されたのは沢山の文字。
「ああ、やっぱり映像で映すのは無理か……」
“XXXX年 リリア結婚”
「そうか!リリアも遂に結婚する年になるのか!」
僕のことを見て怯えて泣いていた少女がなあ、と昔を思い出し懐かしむ。
沢山の事柄が書き込まれたモニターをスクロールしていくと一ページ目が終わったようでもうスクロールが出来なくなっていた。
しかし、次のページへ進むボタンもない。
「なんでここで終わってるんだ……?」
先の未来が全部予知できるわけではないのか、と読んでいた所まで戻しまた読み直す。
“XXXX年 天候を操る装置を開発”
ふむふむ、こういう機械も作れるようになるのか。
研究が楽しみだな。
“XXXX年 更に機能を追加したA-Iを世間に発表”
機能が追加されるのか、何の機能かは書いてないが
きっと今より優れた何かを開発するんだな。
「……!?!?!おい!A-I!どういう事だこれは!」
「ワタシハ事実シカ書キマセン、マスター」
そこに書かれていたのは。
“XXXX年 A-I、爆発観測予知”
“XXXX年 対策装置完成ならず”
“同年XXXX年 〇月×日、惑星を飲み込む爆発により人類滅亡”