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美しいものには裏がある  作者: てぃー
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第一話 【美しさの裏】





陶器のように透き通った白い肌、艶やかに靡くランプブラックの長髪、布地から伸びているのは程よく筋肉がつき引き締まったすらりと長い手脚。刺さりそうな程、長くピンと立った睫毛にエメラルドグリーンの瞳。


完璧な美しさ。完成された美しさに周囲の視線が一人の人間に注がれている。

一見この完璧な美しさに欠点など見当たらないだろう。そう、見ている分には。


ピタリと掲示板の前に止まり何かいい依頼は無いかと物色していると、臀部に何かが当たり纏わり付くように撫でられたその感触の気持ち悪さに全身の毛が逆立つ。


「よぉ姉ちゃん。此処では余り見ない顔だな。ギルドには入ってるのか?良かったら俺のギルドに入れてやってもいいぞ?俺のギルドはこの国じゃ一番の____。」


言い終わらぬうちに臀部を弄っていた男の身体が宙を舞う。周囲も何が起こったのか分からない、一瞬の出来事だった。


「……うるせぇよ、クソ野郎……。この国じゃ勝手に人のケツ触るのが礼儀なのか?てめぇのケツの出っ張り無くしてやろうか。ついでに前のもなァ?」


わなわなと全身を震わせ、女性にしては野太く低い声での凄みに周囲の人間が圧倒され息を飲む。臀部を弄っていた男も小さく悲鳴を上げ「すみませんでした!」と勢い良く頭を下げハンター協会から全速力で逃げて行った。


そう、彼女…いや彼には完璧な美しさの中にとても大きな欠点があった。これだけの美貌を持ち、女性の衣服を纏っているが___________男だという事だ。




* * *




此処は王都サンファム。ハンター協会の本拠地がある大きな街。数あるギルドの殆どが拠点をサンファムへ置いている。 サンファムに住む国民も多種多様で人間を始め亜人、巨人と様々な種族が暮らしている。


「くっそ〜…。クソ野郎のせいで依頼探すどころじゃなくなっちまった……。気まずくて暫くハンター協会に行けねぇ……。」


この一見して美女であるティトス・ルクルードは傭兵を生業とし、最近このサンファムへと越して来たところだった。

そんな中で初っ端からトラブルを起こした事は、この先のサンファムでの仕事に響くと目に見えていた。


「もう一度ハンター協会に戻ってみるか……?被害者は明らかに俺だった訳だし、なんで俺がこんな後ろめたく思う必要があるんだよ。」


ぶつぶつと一人文句を言いながら街の中心を歩いていると、ドンッと背中に衝撃が走る。振り返れば臙脂色のフードを深く被った小柄な人物が自身の腰へと腕を回し、力一杯しがみ付いているのが見えた。


「……ええと、どちら様?」


「……した。」


「はい?えーっと、俺何かしたかな。ああ、こんな格好してるけど俺___。」


「見つけましたっ!!やっと!!見つけましたっ……!!私はリ……、リリスと申します!貴方様に弟子入りしたいのです!強く、そして美しく輝いている貴方のようになりたいのです!」


少女の突拍子も無い言葉に、ティトスの口からなんとも間抜けな声が漏れた。これまで色々な人に出逢い、色々な事を言われて来たが「弟子入りしたい」というのは初めての経験だった。


「いや、あの。俺、弟子とかとってないし、何よりその……俺こう見えても立派な男なんだ。だからさ、」


「存じております。その上で貴方様に弟子入りをお願いしているのです。強く……なりたいのです。」


リリスの手にきゅっと力が入ったのを感じた。しかし強くなりたいと弟子入りされても自分が何を教えられると言うのだろう。剣術?体術?こんな華奢な少女にできるのだろうか。憧れだけで強くなれたら苦労はしない。


「あーっと……、俺教えるの下手だし、それに!何より!弟子なんてとってないんだ。諦めてくれ。」


ガッチリと腰にしがみ付いている腕を解こうとするが、ティトスが手加減してるにしても中々力が強い。


「いいえ!私、諦めません!貴方様が弟子にして下さるまで絶対に離しません!」


「勘弁してくれよ。俺がお嬢ちゃんを弟子にしたって何の得にもなりゃしないんだから……。」


涙目で縋ってくるリリスを見下ろす。少しウェーブがかかった金糸のような髪、藍色の瞳…どこか見覚えがあった気がしたが直ぐには思い出せず、靄がかかるような感覚の気持ち悪さに思い出そうとすることを止めた。


「___そうですよね……会ってすぐにこんなことをお願いして、二つ返事で快諾なんてできませんよね……。分かりました、今日は諦めます。ですが、貴方様が弟子にして下さるまで毎日お願いしに参ります!覚悟なさってて下さいね!」


リリスの手がするりと腰から離れティトスに勢い良く深い一礼をすると踵を返し駆けて行く。小さくなって行く背中を見送り溜息を吐くと、気が抜けたのかどっと疲れが押し寄せてきた。


「突風みたいだったな……。はぁ……厄日だな。今日は仕事探しを諦めて明日出直すか……。」


少し陽が落ちてきた空を見上げ伸びをする。果たしてサンファムでこの先上手くやれるのだろうかと微かな不安を抱きながらティトスは家路へと着いた。

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