真相
ロップが異様な気がしたのはこういう訳です。針ねずみが逮捕されたところで、イエローダイヤモンドは依然として戻ってきません。それなのにノックス伯爵はすっかり満足したように居間の安楽椅子に乗っかって、葉巻を吸っているのでした。
さも、はじめからイエローダイヤモンドなど無かったかのように。
そればかりではなく、ロップはこの屋敷をうろつく内にあることに気がつきました。この屋敷に備えられた家具は全て高級なものです。しかし、それはどれも過去のものなのです。よく見ると、至るところに傷がついていて、貴族ならばとうに新しいものに買い変えてしまうはずの家具ばかりなのです。
ノックス伯爵の洋服もまた上等なものでしたが、ずいぶん古い時代のものということが分かりました。このことから、ロップはノックス伯爵が没落貴族であることがだんだんと分かってきたのです。
「ノックス伯爵家のこの邸宅も、近々、売りに出されようとしていたんだ……」
ロップは、そんな事実を掴みました。それはいち早く、村の不動産屋に聞き込みを行ったダッチが知らせてくれた新事実でした。
そして、ついにノックス伯爵にはイエローダイヤモンドを金庫にしまっておくような余裕などあるはずもないことが分かったのです。
ロップは、針ねずみが犯人であると考えているふりをして、台所に向かいました。フライパンや食器の匂いを嗅いで、冷蔵庫を開けると、そこには玉ねぎの他に何も入っていません。
(おかしいな……)
ロップは、短い首を傾げながら、鼻をひくひく動かし、台所の四隅などを探りました。そこであるものを見つけたのです。
それはゴミ箱に捨てられていたレシートでした。それを見ると、今晩の食費は格安で、夕食というのは玉ねぎのスープとパンだけだったのです。
肉食のはずの狐の親子が、夕食に玉ねぎのスープとパンだけというのはあまりにもおかしな話です。
ロップはイエローダイヤモンドなどとうに売り払われているに違いないと断定しました。そして、ノックス伯爵は保険金目当てでこのような偽の窃盗劇を仕立てたのでしょう。
全てはノックス伯爵の計算の内だったに違いありません。あの針ねずみの使用人を犯人に仕立ててしまおうとして、わざわざ窓ガラスを割ったのに、ガラスが外側に落ちているという、ダンプ警部がそんな簡単なヒントにも気がつかないので、苛々していたことでしょう。
ノックス伯爵は嬉しそうにしています。これで保険金がもらえるぞ、美味しい肉がまた食べられるぞ、と言わんばかりによだれを垂らしています。
当然、ロップは怖くて近寄れません。
そこでロップは考えました。ノックス伯爵を罠に嵌めるのです。