名探偵ロップ
うさぎのロップは、探偵事務所の安楽椅子に座り、ビスケットをかじり、口をもごもご動かしながら、机の上の新聞をペラリペラリとめくっているのでした。時々、鬱陶しそうに垂れ耳を後ろにぽいと投げ出します。
彼はロップイヤーという種類のうさぎです。とても可愛らしい見た目ですが、とても知的な名探偵なのです。
「ねえ、ダッチ。実に面白い事件が載っているよ。ははは、フェザーランドのデリーウッドのノックス伯爵邸で窃盗事件が起こったものらしいね。それもあのブルドッグのダンプ警部が捜査を担当したものらしい。それだというのに、まだ解決しないものらしいね」
ロップはさも愉快そうに新聞を眺めています。それを見つめている、探偵助手のダッチは白黒のパンダうさぎで、耳がまっすぐですから、耳が邪魔になることはありません。
「ロップ。それはあのダンプ警部らしくもない話だね。フェザーランドでは彼ほど優秀な警察官はいないというじゃないか」
「ただね、彼も所詮は犬なのだよ」
ロップはさも馬鹿にしたように言うと、パイプを吸って、煙をぽわっと口から吹きました。
「どうだね、ダッチ。この世で最も頭が良いと言われているのは、犬や猫、そして猿の類だとされているね。世間一般ではうさぎはちょっと頭が悪そうに思われている。ところが、我々うさぎというのは馬鹿な振りをしているか、あるいは、見た目がちょっとばかり可愛らしすぎる故に頭が追いつかないものと思われているだけなのだよ」
「まったく同意見だね」
「ただね、犬が頭良いと言うのは、あれは組織の中で動いている時だけの話さ。彼らを動かしているのはそう言う本能的な部分なのだよ。決して頭の良さじゃない。猫だって、頭良さそうな顔つきでごろごろしているから、さも頭良いのではないかと思ってしまうのだ。ただ、寝ているだけなのにね。あれは格好つけているだけなのだよ。猿は本当に頭良いのかもしれないが、実はその大部分は単なる人真似というものだ。このフェザーランドには人間はいないし、こんなところで熱心に人真似をしたってしょうがないのにねぇ」
「実にその通りだね、ロップ」
「その点、考えてみたまえ。うさぎというものは確かにその動作は一見幼稚に見える。あるいはのんびりしているように見えるかもしれない。日頃は寝たようだし、知り合いが来たとあれば、せめて遊んでもらおうと両足をばたつかせて、その必死な姿があるいは滑稽に見えるものもあるかもしれない。しかし、この足をばたつかせても、何かに食らいつこうとする姿勢。これは事件解決に最も重要な好奇心の現れなのだよ。そして、日頃の寝たようにしている時には、実はものを考えていて、非常に理知的でもあるのだよ」
「それは知らなかったな。僕はてっきり、寝ている時は寝ていて、遊んでもらいたい時には遊んでもらおうと必死になっているものと思っていたが」
「そういう愚鈍なうさぎも田舎にはいるかもしれないな。しかし、このフェザーランドの首都、ローリエントのアンティマー街にこうして探偵事務所を構える我々のようなうさぎたちは、まさに知的な思考機械そのものと言わねばならないだろうね」
こう得意げになってロップは語るので、ダッチはいくらなんでも自画自賛ではないかと、そう可笑しくなるのでした。
「フェザーランドも犯罪の絶えない街だ。マフィアはうろつき、毎日、窃盗、殺獣が繰り広げられる。犬の警察は鼻しか効かないし、猫の探偵事務所ももはや時代遅れというものだ。ところで、この新聞に載っている窃盗事件だが、間もなくダンプ警部がこの探偵事務所に訪れるもの見えるね」
「君、どうして、そんなことが断言できるんだ」
ダッチは驚いて叫びました。
「簡単な話だよ。窓の下に馬車が止まっている。その馬にお金を払っている犬だが、どうもブルドッグらしい。あの帽子といい、トレンチコートといい、ダンプ警部に違いないね」
「なんだ、そこから見えたのかい」
ダッチはがっかりしたように言うと、ロップは不機嫌そうに煙草を燻らせました。