8月21日
8月21日
今日は、えらい目にあった。
本当に怖かった。マジであり得ないよ!
薄々、霊感に似たような、いや霊感の劣化版みたいなものが在るとは思っていたが……。
事故物件を提示してくるなんて!!
あのクソジジイっ! マジで最悪っ!!
一件目のメゾン白岡は、まぁまぁ良かった。
オートロックの1DKバルコニー付き。
風呂とトイレ一緒で駐車場付きが5.9万円。
駅よりも仕事場に近くて、まぁいい感じ。
そこで次に期待したのが、敗因か?
二件目は、ウエノコーポ。
クソジジイは、入るとき塩を撒いていた。
始め、ホコリでも払ってるのかと思って気にしてなかったが、後で気が付いた……あれは、塩だ。
鍵を回して、クソジジイが部屋を開けた瞬間。
生ゴミを、何日も放置したみたいな臭いがした。
あまりの臭さに、えずいた。
ハンカチをマスク替わりにした。
しかし、あのクソジジイは、この臭さが平気らしい。
それとも、鼻が先に耄碌しているのか。
兎に角、真夏の炎天下に生ゴミやら鼠の死体やらを晒したような、キツイ臭いだ。ファブりたい。
部屋が薄暗くて、空気がぬるい。
でも、広くて中々に豪華だ。
3LDK中庭風のバルコニー、バストイレ別。
駐車場2台完備のファミリー向け。
お家賃はなんと、6.8万円と格安。
5階までの吹き抜けのバルコニーは素敵なのに、そこを見るたびに私の鳥肌が止まらない。
バルコニーは明るいのに、この部屋だけが暗いのが際立っていて、不気味だった。
頭のなかで、警笛が鳴り響いてた。
とりあえず、ヤバいのは分かった。
少しの好奇心で、この生臭の大元を探してみた。
臭いの濃くなる方へ進むと、そこは風呂場だった。
スライド式の半透明のドアを開けた。
夕方の日が入って少し明るいが、薄ぐらい浴室。
その床に真っ黒い塊が落ちてた。
それが、女の生首で、黒いのが髪の毛の塊だったと分かった瞬間、私は戦慄した。
目が離せなかった。
だって、もぞり、もぞりと動いていたから。
小さな声で、ボソボソと何かが喋っているのが浴室に反響していた。
乱れた呼吸のせいで、息がしづらかった。
戦慄と共に浴室のドアを閉めると、逃げるように風呂場を後にした。クソジジイの側へ早足で向かう。
クソジジイは、窓を開けていて空気を入れ換えようとしているらしかった。
窓の外にゆらゆら揺れる、長い布みたいなのが見えた。
よく見ると、それが外ではなくて窓硝子に反射したものだと分かった。
凝らした目に映る『それ』が何かを理解すると、そこでまた戦慄して、私は立ち止まった。
心臓の音が、ドグドグと耳元で聞こえる。
あの時は本当に恐くて恐くて、頭が真っ白になっていた。ただ、そこから目が離せないでいた。
窓の硝子に反射した『それ』は、私の真後ろの部屋、つまり寝室で首を吊ってる男の姿に見えたからだ。
男の身体が、びくんびくんと痙攣しているのが分かる。
クソジジイは見えてないらしく、私と対面しているのに、リフォームしたばかりの部屋の話しと駅までの距離とか近くの店だとかの説明をしていた。
しかし、クソジジイの手首に数珠が巻いてあるのを見て、ちょっと殴ってやろうかと思った。
「あ"ー………、あ"ぁ"ー………」って女の声が近くで聞こえてきて、心臓が跳ね上がった。
………もう、限界だった。
だけど、大声を出して走って逃げては駄目だ。
あれらに気付かれちゃう………。
精一杯、何とも無いようなふりをして玄関から外へ。
クソジジイには「もう結構です。事務所に戻ります。」と伝えて車へ逃げ込んだ。
身体中から冷や汗が出た。本当にえらい目にあった。
それからクソジジイに問いただすと、ふざけたことを言ってくれた。
住人の3人前の夫婦が、あの部屋で無理心中したらしい。内容は、言わずもがな……。
クソジジイは「いやいや、勘が鋭いですね!お客さん! 若いのにしっかりしていらっしゃる!」だと。
無言で睨んでやったら、額の汗を拭ってた。
そのまま、一本残らず禿げ上がれっ!
………明日はもう一件、見に行くそうだ。
いやだなぁ~………。