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ナナキズ  作者: パチトフ
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二日目 午前十一時~  2

 洞窟を抜けると、目の前には、膝ぐらいまでの高さの雑草が生い茂る草原が広がっていた。

 遠くには蒼く輝く海原が見え、もしルナもここを通ったとすれば、絶景と叫んでシャッターを押している事だろう。

 見れば一部踏まれて垂れ下がった草が、道のようになっている。ルナ達が通ったと見るべきだ。

「あっつ、日焼けしちゃうじゃない」

 ナナミは手で太陽の光を遮ろうとするも、まもなく昼を迎えるため、日差しは強く、初夏ながらも肌に突き刺さってくると感じるほどだ。森の中と違って日光を遮る木の葉がないためであろう、余計に暑く感じてしまう。

 飛び交う羽虫を手で払いのけながら、踏まれて出来た草の道の上を辿っていくタダヨシ達。

「っ、この暑さじゃすぐ疲れるな……どっかに日陰はないのか?」

 大きな木の下にでも入れば、休憩にはちょうどいいかもしれないが、生憎それらしきものは見当たらない。広大な草原が目の前に広がっている。また生えている草が揃って背丈が高いため、遠くの景色を見る事が出来ない。

 しばらく進むと、ようやく一本の木の姿がぼんやりと見えてきた。不自然に思うぐらい、立派な木が孤独に聳え立っている。

「とりあえず、あそこに行くぞ」

 木陰が欲しかったタダヨシ達は、急ぎ足でその木に近づく。

「なんの木だ? 変な生え方してんな……」

 硬い木の肌に触れ、陽に照らされて輝く深緑の葉をつけた枝を見上げる。

 色々あったせいで喉が渇き腹も空いてきた頃合いだが、食べれそうな木の実はついておらず、タダヨシは落胆する。

「はぁーだるいだるい。いつまでこんなとこいないとならないのよ」

 木にもたれ、地面に座り込むナナミ。手を仰いで風を起こし、汗を掻いた顔を涼ませる。

「儀式なんてなけりゃ、普通の島なんだろうがな」

「どっちにしたって嫌よこんな所。服が汚れちゃうし、携帯も繋がんないし」

「……そういやお前、何か物持ってないのか?」

「は? なんでよ」

「何か使えるものがないか、確かめたくてな」

 ルナは財布などを除くと、カメラと仕事関連の資料や撮り溜めた写真などしか持っておらず、あまり使えそうなものはなかった。携帯電話は電波が繋がらないためあっても無意味であった。

 アナもまた僅かな金の入った財布とパスポートだけしか持っていなかった。ちなみに池に潜った際はちゃんと陸に置いていたため無事だったらしい。

 タダヨシ自身もまた拳銃ぐらいしか使えるものは持っていない。そのためナナミの手持ちのものに自然と期待が沸く。

 少し物憂そうな表情をした後、ナナミははぁーと溜め息をついて、

「……落としたのよ、カバン」

「そうか、残念だったな。何が入ってたんだ?」

「大したものじゃないわよ。携帯と財布と鏡、化粧ブラシ、付けマツゲ、ファンデーションに……」

「化粧道具でまとめればいいだろ」

「……携帯と財布と化粧道具」

 それだけかよ、とタダヨシは頭を抱える。

「てか、どんだけ化粧道具持ってんだよ」

「仕方ないでしょ。仕事上見映えは大事なんだし」

 フンと鼻を鳴らして顔を逸らすナナミ。

「仕事って、何やってんだ? お前」

 タダヨシが尋ねると、ナナミは少しだけ驚いたような顔をして、その後やや俯いて、

「……って聞いたことない?」

「ん? 誰の名前だ?」

「……別に」

 それっきりふてくされたかのように、天を仰いで口を閉ざす。

 何が言いたかったのかよく分からず、タダヨシは首を捻る。

(こいつの名前はアサモトナナミだったよな。じゃあ何の名前だ。彼女の別の名、芸名とかか?)

 気になるが、これ以上ナナミに聞いても応えてくれそうに無い、話しかけるなと言わんばかりの拒絶のオーラが強くなっている。

「……さて、どうするか」

 とりあえず、これから先どうするかを考えよう。

 タダヨシは辺りを見回し、ルナ達が歩いていったであろう、踏み倒された草で出来た道を確認する。立ち並ぶ木はぽつぽつと数本しかなく、しかし丘陵なのか遠くまでを見る事は出来ない。

 もうしばらくしたら期限の悪いナナミを説得して出発するか、と腰に手をやって今後の指針を決めたその時だった。

「痛っ!」

 草の揺れる音と共に、ナナミが短く悲鳴を上げた。

 咄嗟にそちらを見ると、ナナミが右腕を左手で押さえて苦痛に顔を歪めていた。

「どうした!」

 駆け寄って状況を確認しようとした時、不意に左側に人影が現れた。

 そう思った時には既にタダヨシの体に強い衝撃が加わり、が勢いよく右側へと吹き飛んでいた。

「があああっ!」

 反射的に両腕で防御したが、それでも五メートル近く彼の体は低空を舞い、草むらの中へ突っ込んで一句。

「なん、だ……!」

 何かに直撃を受け止めた左腕がじんじんと痛む。骨が折れてるんじゃないかとも思えるほどだ。

 歯を食いしばってそれに耐え、タダヨシは立ち上がる。

「っ、アサモト!」

 慌てて顔をナナミのいる木へ視線を向ける。

 そこにいたナナミは、怯えるようにあるものを見上げていた。

 彼女の眼前には、タダヨシが寸前までいた場所には、二人以外の別の人の姿があった。

 その者は、眼下で唖然とするナナミを眺め、面白がるように舌なめずりをした。


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