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竣工間近
1939年6月12日 呉海軍工廠
「これまたけったいな軍艦を造りましたなぁ…」
一人の男が、岸壁から艤装中の軍艦を一隻眺めながら呟いた。
この男は、川村航輝大佐と言って、目の前の丁種巡洋艦「余呉」の艤装員長を務めている。
艤装員長は、その艦が竣工すれば自動的に艦長にスライドする為、川村はもうすぐ余呉の艦長となる。
「川村大佐、こちらにおられましたか」
誰かが駆けてくる物音に振り向いてみれば、そこに別の海軍士官が立っていた。
「ああ中野クンか。どうした?」
中野勇中佐ー余呉副長の人事がすでに確定しているーは、腕に何かを抱えていた。
「こちら、装備品のリストと配置図です」
そう言って手渡された書類を見た川村は目を疑った。
実際、川村はつい2日前に艤装員長に就任したばかりだった。
「…オンボロな装備ばっかりだな」
そうつぶやくのも無理はない。
余呉が建造される際、数多の紆余曲折がありこうなってしまったためだ。
事の発端は二年前に遡る。