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84 学生の本分

 予想どおり壊滅的なことになった。

 容赦なく私の全ての時間に(油断すると学校のある時間にまで)バイトのシフトをねじこもうとしてくる店長。あらゆる言い訳を使ってそれを阻止しようとする自分。『店、潰れるよ! 責任とれるの?』と大人げない最終兵器を軽率に投入する店長。『その前に辞めますー』と、リアルだったら絶対に言えないことを言って、現実世界のうさ晴らしをゲーム内でする自分。


 そんな店長からのメッセージ攻撃をかいくぐりつつ、試験対策をしなくてはならない。

 もちろん私生活に影響が出ない(はずの)範囲ではちゃんとシフトに入ってバイトもしている。けっこうな時間働いているし、残業などにも対応している。

 それなのに店長が追加の出勤を求めてくるので、このバイトは沼なのである。今回は効率的にバイト代を稼ぐためあえてこのファミレスを選択したが、失敗だったかも。勉強時間が確保しにくい。


 アヤちゃんに犬を飼わせるために、こんな試練を乗り越えなくてはならないとか思いもしなかったので。最初の中間テストは何度も経験しているし、切り抜けられるだろうって思ってた。

 その油断を突くようにこういう攻撃を仕かけてくる。さすが梨佳。えげつないぞ梨佳。

 本人は天然で、何の悪意もなくただ『こうしたほうが面白いと思って~』程度の考えなのだ。そんな意識でこれをやってくるところが、最高にえげつない。


 しかも。

「中間テストの範囲を発表する。ここまでの授業の内容と、一年生の復習問題も出すからよく勉強しておくように」

 衝撃の発表。


 なんですと! 今まで何度も何度も中間テストを受けてきたのに、そんなこと一度もなかったじゃないよ。中間テストは国語なら『春はあけぼの』、数学は二次方程式と決まりきったものだったじゃないよ。


 犬を飼おうとアヤちゃんに持ち掛けたことで、何らかのフラグが立ってイベントが発動した模様。こんな気持ちの萎えるイベントを用意していたなんてビックリだよ。もっと心ウキウキとするイベントをプリーズですよ、梨佳さん、乙女ゲームなんだからさ!


 しかしゲーム内でいくらそう思っても、梨佳の耳には届かない。リアルに戻って面と向かって話しても届かない気もするが、それは置いておいて。

 勉強しないと。


 リアルの私は社会人。実際に高校生だったのなんて、十年も昔の話である。

 当然、当時教わったことなんか忘れた。きれいに忘れた。得意科目の国語なら自信はあるし、日本史や英語もまあ……やれば思い出す。

 だけど、数学はダメ。化学もうろ覚え。そう、この二教科が私にとっての巨大すぎる関門なのだ。


 思えば計算が苦手なのにどうして化学を選択してしまったのか、高校生の時の自分よ。たぶん、その頃いっしょにいた友だちの影響だったと思うけど。もっと主体性をもって判断して、おとなしく生物とかを選んでおけば良かったのに。

 だからといって、このゲーム内の定期テストで生物を選ぶ度胸はないしなあ。ホント、内容がガチなんだもん。勉強したことのない科目で挑戦するのはリスキーに過ぎる。


 かくして、

「アヤちゃーん。試験勉強が進まないよー」

 ヤマの神に泣きつく私だった。

「一緒に試験勉強する?」

「する、する!」

「ミキは?」

「じゃ、私も行く」


 ゲーム内で暇な時間さえあれば勉強をすることになった。

 バイトは捨てた。確かにファミレスのバイトは実入りがいい。だがそれは拘束時間が長いぶんお金が入ってくるだけの話だ。短期間にお金を稼ぐにはそれなりに向いているが、唯一無二の正解ではない。

 予想と展開が変わった以上、あのブラックな職場に固執する意味はひとつもなかった。お金を稼ぐ手段は他にいくつもあるが、小林を攻略するためにはアヤちゃんに犬を飼ってもらわなくてはどうにもならない。


 クビにされてもかまわない覚悟で店長からの『シフトに入れ』攻撃を全て断る。四月いっぱい(ゲーム内時間)でファミレスはやめ、電器量販店のバイトに転職した。こちらは時給はファミレスと同じくらいで、シフトについては良心的である。(繰り返すが、ファミレスは別に時給が高いわけではない。限界いっぱいまで働かされるので結果的にお金が手に入るだけだ)


 そちらで勉強に支障がない範囲で働くことにし、空いた時間はアヤちゃん、ミキちゃんと勉強会を重ねる。テストが近づけば学校の直前講習に出席し、ひたすら勉強する。

 ……あれ? これ、何のソフトだったっけ。学習ソフトだったっけ。


 確かにこのゲーム内での私の身分は高校生。学生である。そして学生の本分は勉強である。

 の、だ、けれど。

 今回もやはり、方向性が間違っている気しかしない。

 梨佳。あんたはきっと、エンターテインメントを作るのに向いていない。



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