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83 前途多難! ワンクッション作戦

「犬?」

 私の提案に二人はきょとんとする。それから、

「どうしたの、急に」

 とミキちゃん。

「犬、かわいいよね」

 とアヤちゃん。反応がわかれた。


 ちょっと意外。興味を示してくるのはミキちゃんのほうかと思っていた、何となく。

 だけど実際に話を振ってみると、乗り気なのはアヤちゃんだ。

「飼うの? サキ」

「うん。バイト代が貯まったらそうしようかと思ってて」

「いいな。私も飼いたいんだけど、親が興味がなくて」

 残念そうに言うアヤちゃん。うむ、これ、けっこう脈があるのでは?


 一応、ミキちゃんにも聞いてみよう。

「ミキちゃんは? 興味ない?」

「うん。私、生きてる動物って苦手」

 バッサリでした。これは、アヤちゃん一択で行けということか。


「ラプラドールレトリバーとか良くない?」

 とりあえず、ハヤテちゃんの恋愛成就の伏線としてラプラドールレトリバーを推しておく。

「いいよねえ。盲導犬にもなるんだよね、賢いんだよね」

 アヤちゃんの反応は良い。ミキちゃんはつまらなそうだが、ごめん。小林の攻略のためにこれは必要な犠牲なのだ。


「アヤちゃんも飼おうよー。一緒にお散歩とか、予防接種とか行こうよー」

 プッシュする私。いや待て自分、お散歩はともかく予防接種って友達と連れ立って行くものなのだろうか。まあいいか、そういう友情もきっとあるよね。


「うーん、そうだねえ」

 アヤちゃんはしばらく考えて、

「親に、相談してみようかな……?」

 と小首をかしげた。

 よーし、私の目の付け所は確かだった。ただの情報提供役だと思っていたこの二人だが、こういう活用方法もあったのね。うんうん、いいぞいいぞ。この調子でサクサク進めよう。


 学校が終わった後は、バイト先の決定だ。犬ルートはかなりお金がかかる。このセーブデータにある貯金額では足りないので、一ヶ月くらいはバイトに全振りして資金を貯めなくてはならない。

 面接を受けるバイトはもう決めてある。このゲームを始めたばかりの時に経験したファミレスだ。


 あのバイトは油断すれば極限までシフトを入れられ、何だったら希望していない時間帯まで勝手にシフトに入れられるブラックどころか暗黒の労働環境だが、代わりにお金だけは稼げる。私が経験した中では、道路工事の次に稼げる。


 しかし道路工事は肉体改造をして筋肉の鎧を身に付けないと戦力になることが出来ないので、今回の選択肢からはオミット。結果的にファミレス一択となる。

 ブラック経営のせいで万年人手不足の店なので、私を面接した店長は、

「そうね。ま、いいでしょ。いつからシフトに入れる? 今日? 今?」

 とあっさり採用を決めてくれた。思えば最初もこんな感じだったな、あの時はゲームだからこんなものかと思ったけれど。そして最初からブラック発言だな、店長。


 しかし今の私には金が必要なのだ。リアルでもゲーム内でもお金に振り回される、思えば世知辛さがマックスすぎる状況だが、そういう仕様のゲームだから仕方がない。梨佳には一度じっくりと反省をしてもらいたい。

 ということで、初日から三時間ほどがっつりバイトした。前にやったことがある仕事なので、手順とか店長の癖とかつまづきやすいポイントとかは覚えている。


 といっても、ここのバイトは内容はそれほど難しいわけではないんだよね。ランダムで発生するクレーマー来店イベントだけはウザいけど、どちらかというと無限大にシフトを入れてきて私の生活をバイト一色に塗ろうとしてくる店長との攻防が問題なのだ。


 だが、とりあえず収入は確保した。後は子犬を手に入れるまでお金を稼ぎまくる。そして犬を飼い始めたら、のんびり&ラブラブなスローライフにシフトチェンジするのよ。



 ……だが。そんな私の青写真に、翌日(ゲーム内時間)早くも暗雲が立ち込めることになる。

「サキ。犬のこと、親に相談してみたんだけれど」

 いつになくウキウキした表情でアヤちゃんが話しかけて来てくれたので、これは順調な証だと私は思った。

「ちょっと条件を出されたけど、何とか承知してもらえたよ」

「ホント? やったー! 一緒にお散歩行こうね!」

 アヤちゃんの言葉に、心からの快哉を叫ぶ私。アヤちゃんを協力者の立ち位置に引っ張り込むことには成功した。これで小林攻略までは一本道、とその瞬間は思ったのだが。


「でもね、定期テストで全科目九十五点以上取れたら、だって。だから、今すぐには飼えないんだけど……」

 続く言葉に、私はめまいがしたかと思った。な・ん・で・す・と?


 前にも言ったが、アヤちゃんは優等生タイプのお友達キャラクターである。

 定期テストの成績は、常に平均点八十点以上。なおかつ、私より常に成績が上。『常に』である。私が頑張っていい成績を取った時も、アヤちゃんを超えることはない。


 そういう調整がされているのだと思われる。私の成績が下位なら、八十点以上の点数をランダムに。上位なら、私の点数の五点から十点上くらいを。アヤちゃんの成績はおそらくそういう仕組みで決定している。


 それを踏まえて、先ほどの言葉をもう一度リピートしてみましょう。

『定期テストで全科目九十五点以上取れたら』

 アヤちゃんに犬を飼わせるためのクリア条件が、それ。ということは。

 私自身が全科目九十点以上取らないといけないということでは?


 つまり今のアヤちゃんのセリフは、女子高生どうしのたわいない会話と見せかけてのゲーム制作者(梨佳)からの挑戦状なのだ。


 このゲームの定期テストはけっこうガチである。

『お勉強ソフトとしての要素もあれば、中高生の親も飼ってくれやすくなるんじゃないかと思って』

 という、電波が電波的に営業的なことを考えた結果に導入された、このゲームをクソゲーにしている要素のひとつである。


 ガチの定期テスト的なレベルと量の問題が普通に出題されるのだ。そして生活苦エンドという乙女ゲームにあるまじき罠を避けるために有効な方法、『学費免除』を受けるためにはこの定期テストで毎回、平均九十点以上を取らなくてはならない。


 直前の教科講習に出席し、かつアヤちゃんからヤマを聞いたうえで普通に勉強すれば、それもものすごく難しいことではないのだが。私もこのゲームの周回を繰り返して、テストで高得点を取るコツもわかってはきたし。


 だが『平均点九十点以上』と『全科目九十点以上』は、近いようで大きな差がある。

 平均九十点以上なら不得意科目でそのラインを割ってしまっても何とかなる、得意科目でもっと良い点が取れているのなら。

 だが、全科目九十点以上には妥協がない。一科目でも八十九点があったらもうダメなのだ。


 そして今までの梨佳の傾向と対策からして、わざわざクリア条件を宣言してくるからには『アヤちゃんの全科目九十五点以上達成』のための判定はかなり厳しくなると予想される。

 私が八十五点のテストでアヤちゃんが九十八点を取っていたこともあるし、というようなランダム要素はおそらく除外されてくる。あるいは確率が低く絞られてくる。


 私が全科目で九十点以上を取らなくては、アヤちゃんが犬を飼ってくれない。

 それくらいの気合で行かないと、たぶんヤバい。


 ……超絶ブラックなバイトをすることを決めたばかりの、この状況で?

 さっそく店長から送り付けられた『今日なんだけど、予定外なんだけどシフトに入ってくれるよね?』というSNS のメッセージを横目で見ながら、私は『今回の攻略もろくなことになりそうもない』という気持ちを味わっていた。



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