8 天然には勝てない
「ところで」
梨佳が目をキラキラさせて言った。
「どうだった? ノーマルエンド『未来に向かって』」
「え」
不意を突かれる私。
どうって。
「わ……」
つい目をそらしてしまう私。
「悪くなかった」
「ホント?!」
「ちょっとジンとした」
「ホントー?!」
ホントなんだけどさ。それを認めるのがむやみに悔しいのは何故だ。何かに敗北した気が激しくする。
「良かった! 嬉しい!」
無邪気に喜ぶ梨佳。
「あのねあのね。私たちさあ。高校の時、誰も彼氏とかいなかったじゃない?」
はい?
「それでもさ、毎日すごく楽しかったよね」
うん、まあ。
「そういう気持ちを思い出してあのシナリオ作ったの! だから咲に良かったって言ってもらえて、今、すっごく嬉しい!」
はあ。そうですか。
そう言われると梨佳と一緒に過ごした高校時代のあの日々を思い出して、私も何かこみあげてくるものがあるけれど。
けれどだよ。
それはそれとして、あのゲームの内容には根本的に問題を感じるんだけど!!
「あのねえ梨佳」
「何?」
「いきなり聞くけど。アンタ今、彼氏とかいる?」
私の直球な質問に、梨佳は『えー』と頬を赤らめる。
「いやあ、興味はあるんだけど。仕事、仕事であんまりご縁がなくて。こりゃ一生独身かなとか」
ペロッと舌を出したり。
「梨佳」
私は彼女の両肩に手を置いた。
「友達として言う。今すぐ彼氏作りな。そして三十までに絶対結婚するのよ!」
いや、元カレに捨てられた私は言える立場じゃないけどさ。
でもね。
「今はいいよ、それでも」
私は言った。
「二十代なら天然でもギリギリ許される」
でも三十四十越えた時、その不思議感性のまま独身オバサンになってるとアンタが困ると思うのね。
旦那とか子供がいるならまだしも社会的に許される気がするが、独身はマズイ。すごくマズイと思うのよ、私は。
「えー?」
梨佳は目をくりんとさせた。
「やだあ、咲ったらあ。私、天然じゃないよぉ。高校の時から言ってるじゃん」
一笑に付される。
いや。アンタが天然でないと言うなら、この世で誰が天然ですか。
「だって私、男の子にモテないし付き合う気もないし」
ハイ?
「そういうのって天然じゃないじゃない、やっぱり」
ハイ? 何ですと?
「待って梨佳。アンタ、何言ってるの?」
「え? だって天然の子って、男の子にモテるでしょ? 男の子の前で可愛くして面白いことするの。私ほら、そういうのないから」
違う。それ天然違う。
アンタが言ってるのは『モテるために天然キャラを演じてる人』。
模造品である!
「梨佳。アンタは天然という言葉も間違って受け止めてる」
「えー、そう? そうだと思うけどなー。天然ってさあ」
と間違った天然の定義について更に語ろうとする梨佳。
私はぐったりと肩を落とす。
やっぱり本物の天然の人は違うわ。心からの忠告にこんな反応が返ってくるとは。
しかし、天然とは議論するだけ無駄である。
私たちとは違う世界に生きている人、それこそが天然なのだ。
この先の『マニアック』攻略が、ますます不安になる私だった。