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74 二人の帰り道・Side 中村

 さて、ここは考えどころだ。梨佳は古風というかストイックなところがあるから、お泊り展開はないだろう。


 今までだとパーティー終了後は、

『後は俺が片付けておくから』

 と中村さんが部屋の片付けを担当し、小林が私を送るという流れになる。

 だがせっかく中村さんとの関係が盛り上がっているというのに、小林だけの好感度パラを上げるイベントはできれば避けたい。無駄だし。


「いえ、私もお手伝いします!」

 帰っていいよという中村さんの言葉に私は逆らい、ゴミ捨てや食器片付けに邁進する。

「山田さん。帰るの遅くなっちゃうよ」

「いいんです。みんなで遊んだんだから、みんなで片付けなくっちゃ」


 で、私と中村さんが掃除をし、小林が犬の相手をする流れに。ふふふ、予想通りね。

 単純な小林は犬と遊んでいれば結構嬉しそう。これで小林の好感度パラを極端に下げることなく、中村さんの好感度パラをより上げられる……はず。


 机を拭いたり掃き掃除をしたり。そこら中についた犬の毛をコロコロで取ったりしているうちに、気付いたら一時間くらい時間が経っていた。

 ようやく終わったと思って振り返ったら、小林はソファーで寝ていた。


「小林。おい起きろ」

 中村さんが何度か揺さぶったが効果なし。完全に寝こけている。

「仕方ないな。小林はこのままにしておこう」

 小林のお泊りイベントかい! なんだそれ。

「じゃあ、山田さん。俺が送っていくよ」


 中村さんが上着を手に取った。

 よっしゃ! ちょっと思ったのと違うけど、最高の展開来た!

 中村さんがハヤテちゃんを、私がジョンを連れ二人で歩く。……いつもの犬の散歩みたいだな。

 ジョンはやたらにハヤテちゃんにちょっかいを出しに行くので、私は冷や冷やする。ホントにこんなんでいいのかな。室長、ガセネタだったら恨むよ。


「ジョンとハヤテは仲がいいね」

 急に中村さんが言ってドキッとする。

「え? あ、ああ、はい、ごめんなさい」

 ついあやまってしまうと中村さんは微笑んだ。

「あやまらなくていいのに。仲良くしてくれてありがたいって思ってるんだ。ハヤテもジョンのことが好きみたいだし」

 そうなのか? よその娘さんにちょっかい出す息子を持った気分でハラハラするんだけど。ホントこのゲーム、余計な体験だけは豊富にさせてくれるな。


「もし、春になって……」

 言いかけて中村さんは言葉を止めた。

「はい?」

 聞き返すと彼は首を横に振る。

「いや、ごめん。俺の勝手な希望だから。もし本当になったら、その時に考えよう」

 にっこりと笑う。何のこっちゃ。

「春になっても、こうやって一緒に歩けるといいね」


 ドキッとした。

 不意打ちはズルいよ。中村さん。


「は、はい……」

 なんだか照れてしまう。ダメだやっぱり照れる、こういうシチュエーション。

 これはゲームだと言い聞かせても。何十回も繰り返し過ごした中村さんとのクリスマスでも。

 やっぱりこのやりとりは初めてで、体感はリアルすぎて。

 ドキドキするのを止められない。


 犬たちが戯れるのを見ながら黙って並んで歩く。

 私のアパートの前で中村さんは足を止めた。

「それじゃ。また明日」

「は、はい。また明日……」

 

 階段を上ってアパートのドアを閉めるまで、中村さんはずっとその場所から私を見ていた。

 


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