7 プレイ解析 第2回
「ノーマルエンド(1)『未来に向かって』まで行ったね~。さすが咲、プレイするの速いねえ」
と梨佳は言うが。
単にイベントらしいイベントがなかったからゲーム内時間がサクサク進んだだけだと思う。そしてまた(1)か。それもヤメてほしい。失敗エンド、そんなにいろんな種類イラナイ。
ゲームの中はどうなっているのか。特に『時間が飛んでいる』という感覚はないのだけれど、午後いっぱいで一年間を過ごしてしまった。キャラとの会話のあるシーン以外はスキップしているのかもしれない。
そういう感覚がないところがちょっとコワイ。感覚に直接干渉されているのだなと感じてしまう。
それにしても、私はたった半日で一年分余計に年取った感じですよ。そうでなくてもアラサーなのに、これ以上年を取らせないでほしい。早く三十路に突入してしまいそうな気がする。
「梨佳……」
私はボソリと言う。
「ん? なーに、咲?」
「このゲーム、すごく疲れるんだけど」
「え?」
梨佳は心配そうになった。
「そうなの? うちのシステムは市場に出てるモノより神経系に負担をかけないものを目指してるらしいんだけど。やっぱり一日やると疲れが出ちゃうのね。分かった、ハード開発部に意見上げとくね」
違う。疲れるの、アンタの作ったソフト。
「あのさあ」
疲れもあって口調に苛立ちが出てしまう。
「何で佐藤くんってあんな性格にしたの?」
「ん? オレ様キャラ受けるかなって」
あれオレ様じゃない。あれただの鬼畜。
「普段の天使っぷりと違い過ぎるじゃない」
「ん? ギャップ萌えするかなって」
萌えるか! あれで萌える人、ただのマゾ!!
「梨佳。アンタはギャップ萌えを間違って受け止めてる」
「え? そう?」
きょとんとする梨佳。
あの振られ方、リアル元カレに新入社員に乗り換えられた時と同じくらいの衝撃だったんだけど。
無駄にトラウマを増やさないでもらいたい。三十路を前にして後がない、傷付きやすい年頃なんだから。
「でも何で佐藤くんに行ったの? 好感度パラ、ゼロに近かったのに」
あっけらかんと聞いてくる梨佳。
そんな好感度パラが上がらないゲームを作ったのはお前だよ。
梨佳は手元のデータを見る。
「マスターだったらもうひと押しだったのに。てっきりバレンタインはそっちに行くと思ってた。何で急に方向転換しちゃったの?」
は?
マスター?
バイト先の?
「ちょっと待った! マスターって攻略対象だったの!?」
「え?」
またも目を丸くする梨佳。
「気付いてなかったの? ゴメン、ネタバレしちゃった」
いや、そこあやまらなくていい。あやまるならもっと根本的なところをあやまって。
「だってマスターだよ?! 五十代だよ?! ヒゲ生えてるよ?!」
うなずく梨佳。
「あのね。今までの乙女ゲームって、攻略対象キャラのパターンが狭すぎると思うの」
なんか急に語り出した。
「何人攻略対象キャラがいても、みんなキラキラした若い美形! 性格も似たり寄ったり、ちょっと影があって暗い過去があって主人公を振り回すとか。そういうのが好きな人はいいよ。でも世の中の人の好みは千差万別でしょ? もっとバラエティに富んでいるべきなのよ、いろんなタイプの人を攻略できるように!! 美形しか攻略できない乙女ゲームはもう古い!」
いや……。古いって……。
そういうのがみんな好きだからこそ、乙女ゲーというジャンルは成立しているのでは?
現実にはいないような素敵キャラを攻略するのこそが、乙女ゲーの醍醐味なのでは?
しかし、その瞬間思い出してしまった。
私が乙女ゲーにハマっていた高校時代。梨佳がなぜそのジャンルにあまり興味を持っていなかったのかを。
『だって攻略したいキャラがいないのよねー。ひとり攻略したら、みんな同じに見えちゃって。みんなイケメンで同じようなキャラじゃない?』
と。
確かにその当時からそう言っていた。
そして、
『もっといろんなキャラがいればいいのにね。お相撲さんとか戦場カメラマンとか、どんなバイトも三日でクビになるニートの人とか』
とほざいていましたよ、コイツは!!
そう。思い出してしまった。
コイツの好みのキャラとは、すなわちネタキャラ。色物大好き女子高生だったのだ。
そんな女が開発した乙女ゲー。
それがマトモなものであるわけがなかった。
バイト一日目にして、私は暗黒の未来を見た気がした。