62 犬エンドは続くよどこまでも
しかし単なるバイトである私に、壊れたゲームバランスをどうにかする力などないのであった。
私に出来るのはバグがないか確認することと(このゲーム自体が壮大なバグではないかということはおいておいて)、プレイした感想をちょっとばかり室長と梨佳に伝えるだけ。
私の感想によりゲームを修正するかどうかはこの二人に(というか主に梨佳に)かかっている。
感想を言った後の私は、ただひたすら毎日ドッグショーの果てしもない海に挑戦し続けるしかないのであった。
私の生活は完全に犬一色になった。休みの日もネットで犬の飼い方を検索したり、図書館に行って犬の飼い方の本を借りて読んだり。
犬って深いわね。一口に犬と言ってもチワワみたいな小型犬からセントバーナードみたいな大型犬までいるし。ダルメシアンみたいな猟犬やシェルティみたいな牧羊犬、愛玩犬のチンとかチワワとかでは世話の仕方も違ってくるわけだし。
これだけ勉強すれば、もしかしてリアルでも犬関係の仕事につけるんじゃない? そう錯覚してしまうほど犬についての知識がどんどん増えていく。
またゲーム内の犬が無駄にリアルで個性的である。
最初に当たったマリーちゃんは特にパラメーターが荒ぶっていたことは、他の犬を飼育して実感した。
しかしあれほどでなくてものんびり屋さんで反応が鈍い犬とか、外面はいいのに家に帰ると暴れ放題な犬とかが次々に登場する。
明らかにゲーム上で不必要なところに多大な労力が費やされていると分かる。
あと、犬は当然オスメスを選べるのだが。
一度キャバリアの仔犬を選ぶときにオスにしたら、春先になってサイズが全然違うくせにハヤテちゃんに発情してしまった。そして中村さんに、
『少し会わせない方がいいかもしれませんね。夏くらいまで』
と言われて距離を置かれてしまい、またしても彼氏出来ない版ノーマルエンドを体験することになってしまった。以来、オスは避けている。
とにかく明けても暮れても犬、犬、犬。今日はシー・ズー、明日は柴犬、とにかくひたすら犬を飼いまくり、世話してしつけて可愛がってドッグショーの上位ランクを狙う。
だがそのドッグショーがまた、かなり運に左右されるのだ。
マリーちゃんで二位入賞した時に、室長があんなにも驚いていた理由がよく分かった。
例えば今お世話しているマルチーズのエリザベート。甘えん坊で可愛いし、良く言うこと聞いて賢いしお行儀もいい。
正にプリンセス・オブ・ドッグ、私の犬飼育歴(ゲーム内)でもベストであろう素晴らしいワンコである。
だが彼女には運がない。
ドッグショーに行ってみるとやたらにエントリー数が多かったりとか、ものすごくレベルの高いライバルがいたりとかが続いて、やってもやっても一位入賞のエンドが見られない。
今にして思えば、マリーちゃんは幸運値だけは高かったようだ。
一発目で二位エンドだったもんね。(その後は落選エンドばっかりで、結局ヨークシャーテリアについては別データを作ってそっちで一位エンドと三位エンドを見たけど)
更にエリザベートはドッグショー当日に熱を出したりとか、当日に雪が降って自転車が出せず遅刻してしまったりとか、本人(犬)には責任のないハプニングでノーマルエンドになる確率もやたらに多いのだ。
ちなみにこういうハプニング系の場合、通常の落選エンドとはまた違うエンドが用意されている。
落選エンドの場合は小林さんが『また来年があるさっ』と根拠のない励ましをしてくれ。
中村さんが『ショーに入賞するかなんて人間の都合だから。○○(犬の名前)はそんなことは関係なく味のあるいい犬だよ』と、フォローなのかどうか良くわからないことを言ってくれる。
ハプニング系の時はこう変わる。
『まさか、今日に限ってこんなことが起きるなんて』
衝撃を受ける小林さん。
『運が悪かったね』
中村さんも残念そうに言う。
『でも、思いがけないことがあるから、人生は味があるのかもしれないな』
味があるって表現が好きなのか中村さん。その言葉でエンド。そんな感じだ。
で、どのエンドも犬種によってビミョウに違う。
入選エンドも含めてドッグショーに関連するノーマルエンドは本当にいっぱいあって、やってもやっても終わりが見えない。
あれ、私、何のゲームやってたんだっけ?
犬を育成してドッグショーで一位を取らせるゲームだったっけ?
あーうん、そうかも。何かもう、どうでも良くなって来たわ、はは、はははは……。




