61 プレイ解析 第9回
「えっ。マリーちゃんで二席入賞?」
梨佳の報告に、室長が唖然とした。それほどマリーちゃん入賞はショッキングな出来事だったらしい。
「すごいですね、平群さん。あのパラメーターの犬で、よく二席入賞のノーマルエンドに」
こけしが一所懸命目を見開いてる。
その表情も結構面白かったのだが、私は発言の内容が気にかかった。
「室長。『二席入賞のノーマルエンド』って何ですか?」
ものすごく限定されたその表現が、あのエンドで高揚した私の心を疑い深くする。
「え?」
室長はきょとんとした顔になった。
「ああ。優勝した場合はまた別のエンドがありますから」
当然のことを言う口調で言われる。
確かに二席入賞であれだけ感動したのだ。プレイヤーとしては優勝したら更なる感動を求めてしまうだろうが、でも。アレ……?
「それじゃ入賞できなかった場合はどうなるんですか」
さっきのエンドでは中村さん小林さんに賞賛されたけど、入賞を逃した場合はもちろんそんな展開になるわけがなくて。
「その場合はまた別のノーマルエンドになりますね」
アッサリ言われた。それはつまり。
「ドッグショーに参加するルートは、エンドが三パターンあるわけですか?」
今度は私が唖然とする番だった。
「そうよ」
梨佳が笑顔で答えてくれる。
「犬種によってショーの内容も違うから、各犬種ごとに違うエンド用意してあるから」
いや待て。それ楽しそうに開示する情報と違う。
ペットショップには、確か十種類近い犬種が展示してあったはず。その中から私はヨークシャーテリアのマリーちゃんを選択した。が、今の梨佳の話によれば『犬の種類×三パターンのエンド』があることになる。犬種が十種あったとして、ドッグショーだけでノーマルエンドが三十パターン……。
クラッとしたのはダイブ後の感覚麻痺のせいではない。断じて違う。
「本当にすごかったわね、咲。ほら室長見て下さい。クリア時のマリーちゃんのパラ、こんなに上がったんですよ」
「本当だ。幸運が高いのは元々だったけど、ここまで上がるとは。平群さん、努力したんですねえ。もしかしたら犬のトレーナーの才能があるんじゃないですか」
何かホメられてるけど、あんまり嬉しくない。
「あの……梨佳?」
私の声は、今回もとっても平坦だった。
「なあに?」
梨佳が明るく答えるのもいつも通り。
「これ、乙女ゲーなんだよね」
「そうよ。どうしたの改めて」
どうしたのって、こっちが言いたいんですがその台詞。
「何でそんなにいっぱいドッグショー関連のエンドを作ったの!」
「何でって」
梨佳はものすごく意外なことを聞かれたみたいに目を見開いた。
「犬っていろいろな種類がいるし、ユーザーさんもそれぞれの好みがあるだろうから好きな犬を選べた方がいいと思って」
「だったら共通エンドでいいじゃない。何で個別エンド作るの」
「だってそれは、優勝と準優勝とそれ以外じゃ嬉しさも違うし」
「そこは置いといても、犬種別で個別エンドにする意味ないでしょ。犬の育成ゲームか、これは」
ヒートアップする私に対し、とても不思議そうな梨佳。
「さっきも言ったでしょ? 犬種ごとに審査の内容が違うんだよ。それに個別エンドの方がやりこみタイプのユーザーさんに楽しんでもらえるかなって」
「やりこまない。乙女ゲームでそこはやりこまない。そこをやりこみたい人は初めっから犬の育成ゲーム買うから」
長時間ダイブで疲れた体に残された全精力を使ってツッコんでしまった。梨佳はあいかわらずきょとんとしている。暖簾に腕押しってこういう状態を言うのか。
「だから僕が言ったじゃないですか、後醍醐さん。犬エンド作り過ぎですよって」
室長が口を挟んだ。おかげで、
「後醍醐って呼ばないで下さい!」
話が完全に逸れた。
けど、一応室長が注意はしていたのか。上司にたしなめられていたなら止まって欲しかったよ。
「あのさ、梨佳」
何となくテンションが下がってツッコミ散らす元気を失った私は、戦法を変えてソフトなアプローチを試みることにした。
「犬育成の比重が高すぎると、犬好きじゃないユーザーを門前払いしちゃうことになるよ。ちょっとバランス考えた方がいいんじゃない」
「あ、そこは大丈夫」
室長に噛みつくのをやめて、梨佳はいい笑顔で振り返った。
「ドッグショーはキャラ攻略には関係ないから。この部分はやりこみが好きなユーザーさんとか、犬好きなユーザーさんのためのオマケみたいな」
「オマケ……?」
再び強烈な眩暈に襲われ、足元が不確かになる私。
「あっゴメン。ネタバレしちゃった」
ハッとする梨佳。
「ゴメン、咲。攻略の楽しみ減らしちゃって」
両手を合わせて頭を下げてくれる。
いや。毎度のことだけど、あやまるところそこじゃないから。
オマケ要素の比重が重すぎるから。
ゲームバランスを考えてくれ、根本的に。




