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58 ドキッ! 佐藤だらけの合コン(妄想)

 鈴木さんトゥルーエンドの衝撃から三日。ちょうど土日を挟んで良かった……。おかげで、休日の土日を虚脱状態で過ごす羽目になったが。

 何かもう、惰性でバイトに顔を出す。


「えっ、鈴木さんトゥルーエンド攻略したの? あの出現の条件が厳しいルートを」

「そうなんです。犬のパラメーターが条件をクリアした状態でないと出現しないから、隠しルートのつもりだったんですけど」

「パラメーターの条件って上方じゃなくて下方でしょう。犬の基礎情報に左右されるし、そのパラメーターはランダム。しかもやりこめばやりこむほど出現が難しくなるんだから、えげつないなあと思っていたんだけど。すごいなあ平群さん」

「スゴイですよね!」


 何か珍しく室長と梨佳の会話が盛り上がっているが、もうどうでもいい。

 梨佳が私のやったことを自分のことのように嬉しげに報告してくれているのもありがたいと言えばありがたいのだけれど、その輪に入る気になれないというか。


 要するに、私はここでの仕事を楽しめていない。それを改めて思い知ってしまった。

 本当に微々たるバイト代と成功報酬五百万のためだけに、この場所に通っているのだ。

 自分で辞表を出したくせに前の会社に恋々としているのも情けないけれど、梨佳が楽しそうに仕事していればしているほど自分とのギャップを感じて辛くなってしまう。 


 かといってここを辞め、別の仕事を探そうともしない自分。

 だって好きな仕事と言えば、前の会社以上の場所はなかったのだ。それを自分から放り出してしまった以上、どこへ行っても同じ。そう考えてしまっている。


 バカだった自分。

 晴は、私にとってそこまで大切な存在だったかな。あの頃はそう思っていたけれど。

 今になってみると分からない。終わった恋は無意味なカケラになって、組み立てようとしても組み立てられない。あの時見ていたものを再現することはもう出来ない。


 失ってからその価値に気付くというけれど、私の場合は仕事がそれだった。

 そして晴とのことは失ってみて大した価値はなかったことが分かった。

 でも、どちらももう取り戻すことは出来ない。


「ダイブします」

 私は盛り上がっている二人に、そう声をかける。

「あっ、ゴメン。今、サポートする」

 梨佳があわててついて来てくれる。毎回思うけど、ホント、ゲーム始めるのにサポートする人が要るっていい加減どうにかならんのか。ハード設計部、ちゃんと仕事してる?


 棺桶に横たわって梨佳に電極を付けてもらい、蓋が閉められると同時にダイブ。

 この瞬間、ちょっとホッとするようになってきている自分がヤバい。


 ゲームをしている間は現実を忘れていられる。このVR世界の理不尽さにツッコみ続けるだけで過ごせる。(ツッコミどころが多すぎるから)

 それは今の自分にとってすごく楽なことなのかも……そう思う気持ちがだんだん強くなっている。

 いや、もしかしたら初めから、ここは私にとってそういう場所だったのかもしれない。


 そんな、あまり掘り下げて考えたくない気持ちに気付いたのも束の間。

 華やかなログイン画面から、ゲームを選択してマニアック世界へ入り込む。



 目につくのはあの攻略アルバム。見たくない、見たくないが……それでも開けてしまう心理は完全に怖いもの見たさの領域に達している。マスターグッドエンド、伊藤くんトゥルーエンド、佐藤ゲス人グッドエンドと来て、次のページには紋付き袴で堂々たる威厳をまとい椅子に座るドン鈴木。


 そしてその横で鮮やかな色合いの打掛を着てたたずむ女性は……私、というかアバターの山田サキ。つうか、これはご入籍後で鈴木サキなのですかね。何となく他の写真と違う幸薄そうな雰囲気が漂ってるんですが。前ページの佐藤ゲス人グッドエンドといろんな意味で別人になってるよ、自分。


 しかしこの攻略キャラの平凡な名前シリーズに、梨佳の萌えが凝縮されていたとは。

 こんなゲームを作っている暇があったら、サッサと鈴木さんなり佐藤さんなりと付き合う道を探した方がいいと思う。その条件なら、佐藤さんだけ、あるいは鈴木さんだけを対象とした合コンを行うことも可能……。


 と思った瞬間、頭の中に。若い男性(全員平凡な顔立ち)がずらっと並んだ光景が浮かんだ。

『どうも、佐藤です』

『佐藤です』

『佐藤です』

『以下同文』

 ……鮮明に思い描いてしまった。


 全員イケメンとか全員金持ち、全員高学歴という条件の合コンなら、

『高望みして~』

 と苦笑いしつつもよくある妄想として片付けられるというか、さほど突飛な想像とまで思わないのだが。『参加者全員佐藤』という条件を付けた瞬間、何故にこんなにシュールになるのか。

 

 このゲームがどうとかではない。そもそも梨佳の頭の中がシュールなのだ。

 そう悟った瞬間であった。


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