5 プレイ解析 第1回
「うーん。初プレイ約三時間でバッドエンド『生活苦(1)』かあ。このエンドは初心者がハマりやすいとは思ったけど、ちょっと早かったかなー」
とか首をかしげている梨佳。
ちょっと待て。
「梨佳。バッドエンド『生活苦』って……」
そして、(1)って何だ。(1)って。
「ん? ほら、やっぱりリアリティを出さなきゃって思って。VRなんだし、リアリティが命かなって」
いらねー。そんなリアリティ、乙女ゲーにいらねー。
「ちょっと判定厳しすぎると思うんだけど。そもそも、あれだけバイトしてたのに生活苦エンドって」
「だって咲ってばフルート買っちゃうんだもん。ちゃんと値段みて買い物しなきゃダメだよー、楽器って高いんだから。月々のレッスン料も高いし」
だから、そんなリアリティいらねー。
「だって、そうでもしなきゃ先輩に近付けないじゃん。ていうか、まだ先輩の顔すら見れてないんだけど」
佐藤くんも一回遠くから見ただけである。声も聞いたことない。
攻略対象にかすりもせずにバイトとフルート練習だけしてバッドエンド直行って、乙女ゲーやってる感ゼロなんだけど。
「うーん、ちょっとだけネタバレすると、高橋先輩の攻略はちょっと大変なのでした。だから、いきなり彼にとりかかるのはあまりおススメしない」
そうなの?!
なのに何で、初めっから先輩の噂バンバン入って来るわけ?!
「じゃあ佐藤くん……」
「あー、佐藤くんねえ。彼もちょっとクセがあるからねえ」
じゃあ誰から手を付ければいいんだよ!
「大丈夫大丈夫。ちゃんと攻略しやすいキャラもいるからね」
梨佳は笑うが、どうにも信用できない。
つうか、これホントに乙女ゲーなの?
「でも梨佳。学費と家賃の支払いでいっぱいいっぱいじゃ、いつまで経ってもキャラ攻略に手を付けられないんだけど」
「んー。アイテムと貯金引き継いでプレイすることも出来るから。その場合、パラも継承しちゃうから気を付けてほしいんだけど」
つまり、まずは金を貯めてから男を攻略しろと!? 何この乙女の夢成分ゼロパーセントな乙女ゲー!
「この辺、チュートリアルに書いてあるんだけど。チュートリアルを読んでねって最初にメッセージが入ったでしょ?」
そんなのいちいち読まない。よっぽど攻略に詰まらない限りは。……って、今もう詰まってるのか。
「てっとり早く説明しちゃうと、アルバイトも実入りのいいのとそうでもないのがあるし。宝くじで大当たりすることもあるし。ルートによっては一攫千金のイベントもあるし。あと学費については定期テストで好成績を取っていれば免除されるから、それでだいぶ楽になるよー。咲ったら期末テスト一科目しか受けないんだもんー」
「期末テストね……」
私は乾いた哂いを浮かべる。あった。そんなイベントが。
名前だけかと思ったら、これがガチなテスト。
因数分解とか二次関数とか、ガチガチな問題が出題され気が遠くなった。
ロクに答えられずに数学を提出。その後のテストはバカバカしくてバックれたんだが。
「梨佳。聞いてもいい?」
思わず知らず私の声は冷たくなっていく。
「何で乙女ゲーにそんな要素入れたの?」
「えー? ホラ、ゲームしながらお勉強も出来ますとかにしとけば、中高生の保護者にウケがいいかと思って」
そんな付加価値乙女ゲーに要らん! 学習用ソフトでも作ってろ!
「あ、後ね。フルートもちゃんと奏者の人の監修入ってるからね。VRとはいえ、アレだけ練習したからリアルでも少しは吹けるようになってると思うよ。時々売ってる、『これを見れば初心者でも一週間で楽器が出来る!』とかいう画像ディスクよりは絶対ためになると思うの。VRだからね、そうやって思い切り感覚全体を使う感じでゲーム作れたら、って思ってさ!」
嬉しげに語る梨佳であるが。
金のかけ方間違ってる!
VRの活用の仕方も間違ってる!
大切なこと見失ってるよ!
乙女ゲーで大事なことは、フルートを吹けるようになることでも、勉強が出来るようになることでもないよ! カッコいいイケメンと素敵な恋愛をすることですよ!!
梨佳ーー。大丈夫なのか、このゲーム!