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47 犬の人攻略 癒しの時間

「山田さんは、犬飼わないの?」

 ハヤテちゃんに絡むようになってから一週間後くらいに、小林さんに聞かれた。

 小林さんというのは、二人組のちょっと軽めの方。

「犬、好きなんでしょ? 自分でも飼いたくならない?」

 

 でっかいハヤテちゃん(8カ月だがもうかなりの大きさ)と、公園の芝生の上でたわむれていらっしゃる。ハヤテちゃんの飼い主は落ち着いた方の中村さんであるのだが、小林さんの飼い犬にしか見えない。


 このよくある苗字シリーズ。二人とも攻略対象で間違いないと見た!


「小林。いい加減にしろ、ハヤテが草だらけになるじゃないか」

 中村さんが苦言を呈する。

「いいじゃないか。ハヤテも楽しいよな、なー?」

 無邪気に遊ぶ小林さん。



 おお、なんか……。今までで一番、乙女ゲームっぽい展開になってない?

 前ルートが前ルート(佐藤ゲス人)だっただけに、癒やされるわあ。



「小林はあまりものを考えてしゃべらないから、影響される必要はないよ」

 中村さんは思慮深い口調で言った。

「生き物を飼うのは大変なことだから。それぞれ事情があるだろうし、無理しなくていいと思う」


 うおお。


 ちょっと子供っぽい面もある小林さん。

 大人っぽくって落ち着いた中村さん。

 この二人のどっちかを選べっていうんですか? 何このルートの贅沢さ。


 しかも二人とも二十歳だし、ヲタな趣味を共有しなくてもいいし、裏の顔があったりもしないのよ。

 なんって……! なんて天国みたいなルートなのかしら。


 ああ。和む。和むわ。

 リアルでのあれこれも、このゲーム内の他のルートでのあれこれも、全部忘れて今のこの時間にだけひたっていたくなる幸せがここにある。

 もう、ずーーっとこのルートだけやっていたい。



「山田さんのおうちって、犬を飼えない事情でもあるの?」

 小林さんに聞かれた。

「え?」

 しまった。そんなこと考えてもみなかった。

「えーっと。アパートなので」


「そうか。それじゃ難しいね」

 簡単に納得されてしまったが、どうだろう。

「一度、調べてみます」

 私は言った。この瞬間、私の頭にあるアイディアが浮かんだのだ。



 世には『犬友達』なるジャンルがある。

 私も犬を飼うことが可能であれば、彼らともっともっと友情(またはそれ以上の感情)を深められるのではないだろうか!




 私の読みは当たっていた。


 改めて確認したところ、私が住んでいる(設定になっている)アパートは『ペット可』。

 犬、OKである!


 ということで、すぐにペットショップへGO。 

 これは、一応中村さんに紹介してもらった。

 ハヤテちゃんはペットショップ出身ではなく、親戚から譲られた犬なのだそうだが。


『伯父さんのところで飼っている犬が、五匹も仔犬を産んでしまって。貰い手に困っていたので』

 中村さん、優しい人なのね。好感度アップ!

 ゲスルートの後だけに後光が差して見えるわ。



 で、このペットショップは仔犬や仔猫だけでなく、ペットフードやその他のペット用品も手広く扱っている上、相談にもよく乗ってくれく安心できるという、中村さんおススメの店であるのだ。


 店内のガラスケースには、たくさんの仔犬や仔猫が並んでいる。

 うわー、どれもかわいい。猫もいいけど、今回は犬ね。犬もいっぱいいるなあ。


 トイ・プードル、チワワ、ミニチュアダックス、ポメラニアン、ヨークシャー・テリア。

 柴犬もいいなあ。ゴールデン・レトリーバーや、ハヤテちゃんと同じラプラドール・レトリーバーもいる。他にもいろんな犬種がいて、どれもかわいくって、超迷う!



 結構悩んだ末、ヨークシャー・テリア(メス・3か月)に決定。毛の長い犬、憧れてたんだよねー。

 名前は……マリーちゃんにしましょう。

 よろしくね、マリーちゃん。今日から二人暮らしよ。



 ……だが。

 生まれた時からマンション暮らしで、生き物を飼ったことがなかった私は直後に降りかかってくる試練を想像すら出来なかったのである。




『トイレのしつけは出来てますよ』

 と、ペットショップのお姉さんは言った。

 しかし!

 

 ケージから出すなり、カーペットの上でそそうをするマリーちゃん。その対応に追われる私。

「こらマリーちゃん」

 叱ろうとすると、もういないマリーちゃん。


 懸命に探すと、お気に入りのクッションに歯を立てて穴を開けているマリーちゃん。

「こらマリーちゃん」

 逃げながら○○○をするマリーちゃん。



 な、何。今、ここで何が起こっているの……。



 かわいい愛犬とのラブラブ生活。

 そして犬同士の交流を通じて、やがては彼氏をゲット。

 そんな乙女の夢が、ガラガラと崩れていくのを私は感じた。



 やはり、ここは『マニアック』。

 乙女の夢など、存在する余地のない異空間。


 この世界に癒しなど求めてはいけなかったのだ。



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