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39 新たなる挑戦

 次のダイブをする前に考える。

 アイドルルートは……しばらくいいや。ちょっとというか、かなり心が折れた。

 そもそも運勝負っていうことは、何回トライしてもアバター変えてもダメな可能性があるってことだよね?


 このゲームは私に何をさせようとしているのか。

 何が起きても揺るがない鉄の心を養おうとしているのか。

 ていうか、こんなゲームフルコンプできるヤツいるのか本当に。成功報酬五百万でも安すぎる気がしてきたんだけど。


 ということでアイドルルートは後回しにすることに決定。

 しばらく伊藤くん攻略が続いたし、気分を変えて他のキャラを攻略してみよう。


 今、分かっている他の攻略対象はというと……。

 いまだに姿すら見たことのない幻のイケメン・高橋先輩。

 天使の姿に悪魔の心・佐藤くん。


 どっちもどっちだな。高橋先輩のことは、もう都市伝説なんじゃないかという気がして来たし。

 新しい攻略対象を探すか? アヤシイのは担任、犬の散歩の人、相撲部。その辺りかなあ。

 しばし黙考してから、私は決断した。


 今回は、佐藤くん攻略を目指す! 

 

 マスターと伊藤くんを攻略したことで、私の心の傷も少しは癒された。アイドルルート? 何ソレ忘れた。

 今こそ、あの雪のバレンタインデーに乙女の純情を道に投げ捨ててくれた顔だけ天使を攻略する時。彼をメロメロにデレさせ、私の前にひざまずかせてやるのだ!

 

 データは伊藤くんトゥルーエンド後のものを使用。アイドルルートでムダ金を使ったため、前回の攻略データは預金額が大変なことになっているのでなかったことにする。

 金が命綱だからね、このゲーム。ホクホクな状態で始めるのに越したことはないんですよ。



 目標は決まったが、どう攻略するか。

 佐藤くんは、何より『接近するのが難しい』キャラである。

 ファンクラブに入会するのは無意味だ。前回の挑戦で既に判明している。

 しかしファンクラブに入らない選択をしても問題だ。FC会員の女子たちが、佐藤くんに近付く人間を集団で排除しようとしてくるのだ。

 その防壁をいかにクリアして佐藤くんに近付くか。そういうゲームになると考えるべきだろう。


 だがしかし!

 シャイモラをやりこんで『雷神グンガニル』の相棒、『電光のサキーン』とまで呼ばれた私だ。もうそんなもの怖くない。

 全ての障害を乗り越えてターゲットに近付き、獲物を手にしてくれようではないか。

 ありがとう、グンガニルさんこと伊藤くん。あなたの教えは忘れない。


 ではシャイモラのセオリーに基づき、佐藤くん攻略計略を練ろうではないか。

 まずは基本の情報収集。

 攻略先(佐藤くん)の情報を集め、それに合わせて装備と作戦を立案。障害となるトラップやモンスター(ファンクラブなど)の対策も練る。


 シャイモラなら酒場に行くところだが、『マニアック』本編の場合はクラスメートが情報源となる。

 女友達を中心にいろいろ聞いて回ったが、佐藤くんはの情報は少なかった。入学したての新入生だからね……。


『中学の時、全国大会に出た注目選手らしいよ』

『かわいいから、中学の時からモテていたらしいよ』

 出てくるのはこの程度である。

 なるほど。だから入学したての四月早々からファンクラブとかあるわけね。


 こちらから罠(イメージ的な意味で)を仕掛けるとすると……てっとり早くサッカー部のマネージャーを目指すか、スポーツ用品店とかのバイトをやるか?


 とりあえずマネージャーになれないか、サッカー部に出向いて聞くだけ聞いてみる。

 何と倍率八十五倍の超難関だった。

 そして私は抽選にあっさりはずれた。


 もしかして私、くじ運ない?

 そういえば、宝くじ当たったことないわ。パチンコも競馬もやってみたことあるがオールダメ。ビギナーズラックってファンタジー? みたいな結果だった。懸賞も当たらないしなあ。

 運勝負系は諦めた方がいいのだろうか。しかしそうするとアイドルルートの攻略は……。


 いや、そんな別時空の攻略を考えているヒマはない。

 とぼとぼとサッカー部を後にした私を、敵が待ち受けていた。


「先輩。ちょっと図々しくありませんか?」

「マネージャーに応募するなんて、佐藤くん狙いですよね?」

「ファンクラブにも入会してないのにそんなことするなんて、先輩でも許せない」


 ファンクラブ会員があらわれた!


 こいつら、こうやって会員以外のマネージャー志望者を全員締め上げているのかい。下手な番長組織よりコワいんですが。どこのレディースだよ、いったい。


 少し前の私ならこの状況にパニクッただろう。

 だが、今は違う。


 シャイモラで数々の死線をグンガニルさんと共に越えた。

 そして観客数ひとケタのステージという死地さえもハイテンションでこなし続けた。

 今の私にこの程度の敵など、笑止である。


 集団でひとりを囲み、勝ち誇る少女らよ。

 お前たちはひとりぼっちでステージに立てるのか。

 みんなはユニットなのに、自分だけぼっちというあのアウェー感。

 女子高生設定なのになぜかBBA扱いされる不条理感。

 観客ドン引きの歌を歌い、退屈であくびをする客の前でつまらないMCを続ける。

 その失点を、唯一得意なダンスでも挽回しきれない絶望を知っているのか。

 ダメと分かっていて挑み続けなければならない、不毛地獄を越えた私の痛みが分かるのかあ!


「あら。ごめんなさい、でしゃばっちゃったかしらあ」

 アイドルスマイルでにっこり微笑む私。

「笑って誤魔化さないでください」

「ていうかあ。先輩程度の地味子がそんな顔してもお」

「アハハ、それ言っちゃカワイソウだよ」


 嘲笑が飛んでくる。

 ふん。そんな攻撃にはもう、耐性は十分以上についているのだよ、明智くん。


「ゴメンねみんな。お詫びに、サキりん歌いまあす」

 にっこり。マイクがないのが残念。


 さあ聞くが良い、佐藤くんファンクラブのメスガキどもよ。

 私がステージに上がると会場は震撼し、数少ないファンでさえ聞くに堪えずに出来るだけ大声で合いの手を入れ少しでも歌声をかき消そうとした。

 そんな音痴アイドルサキりんの、伝説のどどめ色の歌声を!


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