38 プレイ解析第5回 続き
しかし運勝負の攻略ルートか。努力だけでは攻略できないとなると、かなりの難ルートかもしれない。
トゥルーエンドルートよりも難しいグッドエンドルートってどうなんだ。
と思って聞くと、
「伊藤くんはいろんな方向から落とせるキャラだから。同じようなやり方や難易度のルートが続くんじゃつまらないと思って。攻略にもいろいろな要素を取り入れてみたのよ」
嬉しそうに語る梨香。
私はさっき垣間見てしまった友人のダークサイドが恐ろしすぎて気軽にツッコめない。
コイツ、ただのお気楽天然女じゃないよ。コワイよ梨佳。アンタ、底知れなさすぎるよ。
「でも咲はやっぱりゲーム慣れしてるね。私が一所懸命考えたいろんなトラップをクリアして、もう二人攻略しちゃったもんね。いろんな人に楽しんでもらえるようにと思って頑張ったんだけど、こんなに楽々クリアされちゃうと自信なくすなあ。このゲーム、市場に耐えられるのかしら」
いやいや。いやいやいや!
もう十分難易度MAXだからね、このゲーム。これ以上難しくしようとか考えないでほしい。
そして、決して楽々クリアしていないから。
生き抜くために必要ないろいろなものを、ガリガリ削られながらプレイしている気しかしないから。
「お願いだから、これ以上難しくしようなんて思わないでね」
つい、そう言ってしまう。梨香は心配そうに私を見る。
「大丈夫かな。簡単すぎない? やりごたえなくて飽きない?」
「簡単すぎるということだけはないから」
力を込めて、きっぱり言った。
言うなれば、このゲームは固すぎて食べた人の歯が欠ける厚焼きせんべいである。
これ以上難しくなったら、食べ物ではなく鉄板の域に達することであろう。
「ホント? 咲がそう言うんなら、信じる」
梨佳がそう言ってくれて、私はホッと一息ついた。
「でもなー。咲ったらマスターもアッサリ攻略しちゃったし、伊藤くんの時もバレンタインの罠も最後の罠もくぐり抜けて、トゥルーエンドにたどり着いちゃうし。自信あったのに、簡単すぎたかなーってちょっと落ち込んだんだよ」
とか言い出す。おーい、待て梨佳ー。
「バレンタインの罠って……ナニ」
「うん、あのバレンタインイベントね。好感度が足りないと、先輩の『裏切るのか』の一言に伊藤くんが負けちゃって、チョコ受け取ってもらえないの」
何ですと……!
「チョコ受け取ってもらえなかった場合、どうなるの?」
「好感度の上がり具合によって、ノーマルかグッドエンドのどっちかに進むよ」
あそこまでゲーム進めてそんな罠が! コワイ。コワイよこのゲーム。
「最後の罠っていうのはナニ」
「あー。最後のグンガニルとのシーンで愛称呼びかキスのどっちかを拒否すると、トゥルーエンドにはいけないの。その場合はシャイモラグッドエンドね」
あの最後の最後の場面まで来てまだ罠があったのか! 恐ろしすぎだろう。
どれだけ攻略難度上げたら気が済むんだ、この女。
「梨佳」
私は言った。
「このゲームが簡単だなんて、二度と言わないで。このゲームの攻略難度はね……『オニ』よ」
魂のシャウトを叩きつける私。
そんな私を、梨佳はぽかんとした表情で見つめていた。




