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36 ノーマルエンド(2) アイドルの落日

 私のケガはねんざで、全治二週間と診断された。

 そんなことは別に良かったのである。……ただの学生だった、前回の攻略ルートなら。

 しかし今回の私は(売れない)アイドル。

 それも歌ダメMCダメの、踊りだけが命のライブアイドルである。


 歌えないカナリアは猫のエサに。

 踊れないアイドルは……ステージの上でさらし者に。


「こんにちはー、サキりんでーす。実はサキりん、学校の体育祭で怪我しちゃってぇ、今日は踊れませーん」

 などという内容のないトークだけのライブを十五分。地獄だ。


 グダグダ進行のステージは他にもいっぱいあるといえばあるのだが、みんなは小中学生、私は高校生。

 小学生なら許されることも高校生だと許されない。そんな気がする。


 ブログでコメントくれたり物販で並んでくれるような人たちは一応、

「大丈夫?」

「早く治してね」

 などと優しい言葉をかけてくれるのだが、SNSのフォロワーが露骨に減っていったりするのはかなりキツい。


 こうなることは分かっていたのに、あのリレーで追い越しをかけようとしてはいけなかった。

 何故もっと注意しなかったのだ、私よ。

 

 この時期を境に、元々少なかった私のファンは半分くらいに減った。

 ライブ会場でも私の出番に残ってくれる人はひとケタ。

 生誕祭(どこの救世主だよとお思いになるだろうが、単なる私の誕生日イベント)の参加者は五人。

 しかもモモたんのライブとかぶったとかで、伊藤くん不参加という痛恨の大惨事に!


「ゴメンね。本当にゴメンね。スケジュールのチェックが甘くて」

 と伊藤くんはあやまって、誕生日プレゼント(モデルガン)もくれたのだが。

 ヤバい。攻略失敗のニオイがする。


 でもこのゲーム読めないからなあ。今までにもダメかと気を揉ませておいて逆転とかあったし。(マスターの時とか)

 少しでも目がある内は続けた方がいいか。室長情報だとノーマルエンドもかなりの数があるらしいし。

 フルコンプするためには失敗エンドも見なくてはならないというこの面倒くささ。仕事だからさあ。頑張るけどさあ。



 『BON-NO! ニッポン108』の研究生募集のオーディションでも、足が痛くて思うように踊れない。歌については、もう聞かないでくれというレベルだ。

 

 そして、その同じ会場にモモたんがいた。

 私から見るときらめく星のような高みにいらっしゃる彼女だが、会場には彼女に負けずとも劣らぬ可愛くて芸達者な女の子たちがたくさんいる。モモたんの顔も緊張に青ざめていた。


 というかさあ。私がここにいるのってさあ。

 ゲームのイベントだから参加してるけど、多分現実だったら事務所が止めてるよね。


「サキりんさんがいて良かったですう。これからも仲良くしてくださいね」

 空き時間に私に話しかけに来てくれるモモたん。何でこの子、こんなに性格良く設定されてんの? ライバルキャラは性格悪くてもいいんじゃない?

 大丈夫、モモたん。多分、私が受かることはない。あ、でも主人公補正とかあるのかしら。どんなに惨憺たる成績でも受かるとか。それだけがかろうじて希望をつないでくれるというみじめさ。



 クリスマス。ライブ。

 冬休み。ライブ。

 伊藤くんはライブ巡りだのサバゲー勝負だので忙しいらしく、記念日イベントはなし。

 クリスマスライブに来て、他のファンと一緒にヲタ芸を披露してくれていたのが唯一の進展と言えば進展だった。



 年明け。ニッポン108研究生募集の試験結果が発表された。

 

 私:失格

 モモたん:合格


 ハイ。分かってたことですね。厳正なる審査の結果ですね。主人公補正とか考えた私がアホでしたよ。世の中というか、このゲームはそんなに甘くないってことですね。



 そして、ニッポン108への加入が決まったモモたんは一気に忙しくなる。

 ライブへの出演は減ったが、ファンたちの盛り上がりっぷりは大したものになった。

 もちろん伊藤くんも同じだ。教室にいるとモモたんについて大声で熱く語っている彼の声がしょっちゅう聞こえてくる。辛いわ。この状況、辛いわ。



 それでも私は最後のチャンスに賭けた。

 バレンタインデー。アイドルのサキりんとしてではなく、山田サキとしてチョコレートを渡したのだ。


 しかし反応は薄かった。

「あ、ありがとう。ライブ会場でくれても良かったのに」

 アイドルの営業活動だと思われてる。

「大丈夫、サキりんのことはこれからも応援していくから。あ、ちょっとしばらくライブには顔出せなくなるかもしれないけどブログもSNSも毎日チェックしてるし、スケジュールが合えば会場にも行くからね」

 いや、そうじゃなくて。


「伊藤くん。私、本当に伊藤くんが」

「あ、大丈夫大丈夫。誤解しないから。山田さん、これからも頑張ってね」

 あっさりと去っていく伊藤くん。

 

 この時点で、私も敗北を悟った。

 何かが足りなかったのだ。このルートを攻略するのには、多分歌唱力とかその辺が。



 みじめな気持ちで待つノーマルエンド。

 伊藤くんのいないライブ会場で下手な歌を歌い、盛り上がらないMCをやり、ダンスを踊る。

「サキりん、ファイトー!」

 数少ないファンの野太い声が響き渡る。


「サキりんはへこたれないところが持ち味だと思うから」

「いつも勇気もらってます」

「108残念だったけど、次もあるから頑張ってねー」

 物販の時にみんなに励まされる私。


「サキりんはさ、少ないけれど熱烈なファンが多いから。これからも頑張っていけば、いつかきっとスターになれるよ」

 うなずいてくれるマネージャーの森藤さん。

「さあ、頑張るんだサキりん! あの星は君のために輝いている!」

 夜空を指さすその先には、明るく輝く一番星が。

 

 うん。はげましてくれるのは嬉しいんですが。

 何か心が折れたよ、今回もいろいろと。複雑骨折気味な感じで。


 そう思いながら私は、夜空に輝く『Normal End』の文字と、それに続くスタッフロールを眺めていた。



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