33 アイドルは辛いよ
そして学校とバイトの合間にレッスンを続け、三ヶ月(ゲーム内時間)。
ついに、私こと山田サキ(ゲーム内ネーム)ことサキりん(アイドルとしての愛称)のデビューの日である!
……と言っても。
私は会場を見渡して思った。今になって、初日『年がいってるけど』と事務所の社長が言った意味が分かる。
今日は私が初めてステージに上がる日であるが、もちろんオンリーイベント(私だけが出演者のイベント)のわけはない。
私を含めて十七組の出演者が朝から夕方まで代わる代わるステージに上がる。一組あたりの持ち時間は十五分から三十分ほど(人気によって変動)。その間、お客さんはチケットを見せれば出入り自由。
そして、その出演者の平均年齢はどう見ても十歳前後だった。
小学生、中学生が圧倒的に多いのである。そしてほとんどがユニットを組んでいる。
私みたいに高校生がぼっちでやっている出演者なんて、他に見当たらない。
マネージャーさんの話によると、こういう活動をしている子は中学に入った辺りで多くが辞めてしまうそうで、次の山が高校受験。私の年になって夢を追っている人は本気で音楽に取り組んでいるとか、バンドやってるとか、ダンサーになりたいとか、そういうレベルの人であるらしい。
『高校生になっていきなりやりたいとか珍しいよね。サキりんはそういう純粋さを大事にしていくといいと思うんだ』
とか言われるけど、何か遠回しに莫迦にされてるような気がする。
活動方針としては、こういう地味なステージを重ねてファンをつかみ、ステージ慣れもしたところで大手の有名アイドルグループ『BON-NO! ニッポン108』とかの研究生になる試験を受けてみたらどうか、ということだった。
百八人もメンバーがいるアイドルグループの研究生さえ遥かな山の高みとか、どれだけ険しい道のりなんだよと思うのだが。
いわく、とにかくそういうものらしい。
ちなみに、初ステージの私の持ち時間はもちろん十五分。
しかも出演順は初めの方。(遠方から来るお客さんなどが集まりにくいので不利な時間)
トリの辺りでは幼稚園児までまじっているユニットが三十分のステージをこなすのに、なんだかものすごく悲しい感じである。
「大丈夫だよ、サキりん。ブログでコメントくれる人やSNSのフォロワーさんも、みんな来てくれるって言ってたから。サキりんの馬力を発揮すればきっと何とかなるからね!」
このマネージャーさん、何故かはげましてくれればくれるほど不安になるという不思議なスキルを持っている。ちなみに四十代の小太りのオッサンだ。この人が攻略対象に入っていないことを切に祈る。
とか言っている間に、もう私の出演時間に。
小学生三人のあまり盛り上がらないユニットと入れ替わりにステージに上がる。
「はじめまして。サキりんです☆」
まずは可愛いあいさつ(ポーズ付き)でツカミはOK……なのだろうか。
ちなみに衣装は全部自腹。
メイク自分。ヘアメイク自分。オール自分。悲しい。
うわ、それにしても客少ないな!
元々、五十~六十人ほどしか入れないようなライブハウスなのだが。明らかに客が半分以下な上、私の顔を見て帰ろうとしているヤツらがかなりいる。
ヤバい。最終的にひとケタしか残らなかったらどうしよう。
「サキりんは十六歳です。アイドル目指してます。みんなー、応援ヨロシクねっ」
うーん。事前に教えられたセリフを言ってるだけなのだが、寒い。寒いよ。マズイ、私この仕事確実に向いてない。
「じゃー歌います」
と言う私の歌う歌はもちろん専用の書き下ろし曲などではなく、ボイトレで歌っていた昔のアイドルの歌である。
これは客層の一部を担う古いアイドルファンの興味を引くためでもあるが、時間がなくて新しい曲を練習している暇がなかったためでもあり、まだ売れるかも分からない新人のために新曲など作っていられないという事務所の懐事情のためでもある。
歌が終わると一応拍手らしきものがまばらに。ハイ、分かってます。私の歌、ひどいよね。ボイトレの先生も『どうしよっかなー』という顔をしていたし。声量だけはホメられたけど、声の大きいオンチって正にどこかのガキ大将状態だよね。
そこからMC。先に出ていた子たちを見ていたところ、みんなユニットだからそれぞれが順番に話したりゲームをしたりで何となく時間はつぶれるのだが。
私はひとり。たったひとり。
ひとりきりで時間をつながなくてはならない。結構ツラい。
しかも、
「サキりんはねー。お料理好きなんだけど」
とか。
「サキりん、ゆるキャラ大好きなんです」
とか。
一人称『サキりん』ですよ!
これは辛い。
さっきまで出ていたリアル小学生たちならまだ許される気もするが、高二女子が一人称自分の名前(しかもりん付き)ってもうヤバいでしょう!
ようやく地獄のMCが終わり、最後のダンス披露タイムに。
良かった……やっと、少しは自信持って演れるパートに来た。
で、一所懸命練習したタップダンスを披露。
『これでリアルでもきっと踊れるようになるよ!』
とか梨佳がまた自慢げに言ってたけど、別にそんなかくし芸要らないし。タップシューズ高いからリアルでは踊りません、きっと……。




