32 伊藤くん攻略 納得いかないのでアイドル目指します
さて、翌日からの攻略であるが。
ログインして真っ先に攻略記録を確認すると、『伊藤健太 トゥルーエンド』の文字と共に、グンガニルさんとサキーンの情熱的なキスシーンがあってくらくらした。
グラフィック担当……。このスチール、ノリノリで描いているのが伝わってくるよ。
どれだけBL好きなんですか、アナタは。
で、アドバイス機能を追加することに不承不承納得してくれた梨佳だが、それが実装されるのは当分先。というわけで、その代わりに梨佳から直接情報を引き出してきた。
伊藤くんはグッドエンドが三種類ある、攻略キャラ中屈指のエンド数を誇るキャラであること。
そのグッドエンドに至るには、彼の趣味を手掛かりにするのが吉。
この二つを、まだあまりネタバレをしたくなさそうな梨佳から何とか聞きだすことに成功。
そう。私はまだ伊藤くんを攻略する気満々なのである!
だってさ。このスチール、『伊藤くんを落とした』って感じじゃないじゃん。しかもBLオチじゃん。
何か違いますよ、これ。乙女ゲームとして根本的に間違っておりますよ。
こうなったら三種類あるというグッドエンドの一つを何とか攻略し、攻略記録にリアル伊藤くんとのラブラブシーンを載せるのだ! それしかない。
シャイモラ内に存在するグッドエンドは当然グンガニル&サキーンスチールになる様子なので、とりあえず却下。他の趣味から攻めることにする。
女友達からの情報取りをやり直して伊藤くんの趣味を確認。……ネトゲ・カメラ・アイドルの追っかけ・サバイバルゲームか。
カメラについては、彼が写真部に入っていない以上とっかかりが分からないし。サバイバルゲームには知識も興味もない。そうなると。
アイドル。
あのバイト可能職種一覧の中で『やれ』と言わんばかりに悪目立ちしていた『アイドル』という職種。
それについに挑戦する時が来たのか……!
良かろう。なってやろうじゃないですか、アイドルにでも何にでも!
ということで放課後、速攻で芸能事務所に行き面接を受ける。
担当の人はしばらく私の顔を眺め、結構考えた挙句。
「うーん。ま、いいか。ちょっと年いってるけど、やってみようか。じゃあ頑張ろうね、サキちゃん」
と言った。
はあ? 年いってるってどういうこと? 私、(このゲーム内では)ピチピチの高校二年生ですよ?
「それじゃあ、まず活動方針を考えよう」
と言われ、これまでの経験とかをいろいろ聞かれる。
しかしゲーム内自分もリアル自分も、芸能方面はまったくといって経験なし。
ピアノも幼稚園の時に三ヶ月で辞めたらしい(記憶なし)し、音楽は苦手だったし。
あえて言えば運動神経はさほど悪くないのでダンスだったらイケるかも……という程度。
「じゃあ今週からボイトレとダンスレッスンに通って」
と言われた。はい?
「先生には予約しておくから」
えーと。それは。
「あの。お月謝とかは……?」
「もちろんかかるから。うちの事務所に所属していると一割引いてくれるよ」
と料金表を出してくれたのだが、これが結構なお値段でございますよ。
「あの……アイドルの仕事って歩合制なんですよね」
「そうだね」
「つまり、当初は入金はない?」
「そうだねえ」
お金、出るだけじゃないですか! 他のバイトを始めないとヤバい!!
その後、マスターの喫茶店に回って週二回の契約で雇ってもらった。
そして、マネージャーさんと一緒に『サキりん』(アイドル名)のブログを立ち上げる。
タイトル:サキりんのアイドル目指すぞ!
プロフィール:サキりん 16歳・高校2年生
アイドルになりたい女子高生です♪ 応援ヨロシクね。
内容: 皆さんこんにちは、サキりんです。
今、アイドル目指して頑張っているよ。
ブログでも私の毎日をいっぱいいっぱい紹介したいと思うので、応援してねっ。
(写真掲載)
……キツイ。
誰コレ。私じゃない誰かだよね、完全に。
マネージャーさん曰く、まずこうやって情報を発信することでお客さんをつかむのが肝要なのだそうである。サキりんという人間を潜在するファンに少しでも知ってもらう。
そういうところから始めないといけないらしい。
ブログは必ず毎日更新(なるべく自分の写真を入れる)、コメントにもすべて対応するよう念を押され、私の芸能生活がスタートした。
あれ……コレ何か違わない? すごく違うよ。私が思い描いていたアイドルへの道と。
ほら、もっとさあ。コンテストとかでいきなり入賞して、敏腕プロデューサーとかに才能を見出されて、テレビとか出て人気出て。
アイドルに対する女の子の夢って、そういうものなんじゃあ。
今回も茨の道な予感がする。
そんな感じの、新たな攻略へのスタートだった。




