表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/121

27 伊藤くん攻略 バレンタインイベント

 それからも、私と伊藤くんは何事もなかったようにシャイモラの中で会って、何事もなかったようにいつも通り冒険を続ける。

 そんな風に冬休みを過ごしながら、ちょっとずつお互いのことを話すようになった。


 ゲームの中では普通に話してくれる伊藤くんだが、リアルで会うと緊張してしまうのだという。だから学校では今まで通り、特に話をしたりもしないけど。

 避けられることはなくなった。たまに目が合うと、微笑み返してくれたりもする。


 これは……何というか、このゲームを始めて以来の乙女ゲーム的展開な気がする。

 そしてそうなって来ると、何だかこちらも燃えるではないか!

 私はダメ押しの告白をすべく、バレンタインデーのチョコは気合いを入れて用意した。


 どのくらい気合いが入っているかというと……総製作時間三十六時間(ゲーム内時間)!

 シャイモラにダイブできる時間が減って、伊藤くんがまた『私が何か怒ってるのじゃないか』とか余計な心配をしたくらいに気合いを入れた。



 そして迎えた、運命の二月十四日。

 ここに私こと山田サキの『弾幕のバレンタイン作戦』が幕を開ける!


 戦場は、ゲーム同好会の活動するパソコン室。

 シャイな伊藤くんはバレンタインデーに二人で会いたいとシャイモラの中で打診しただけで何かを察したのか、強烈に断って来た。

 いわく、

「いやいやいや。ダメです」

「いやいやいや。誤解されます」

「いやいやいや。山田さん、マズいですそれは」


 何がマズいのか正直意味不明だし、『いや』が多すぎて何か告白する前からフラれているような気がしなくもないのだが。

 しかし、この展開でいくら何でも大逆転バッドエンドはないだろうと梨佳の良識に全てを賭け、私は突撃する!


 教室で別れいったん帰ったと見せかけ、伊藤くんが部活動に入った頃合を見てパソコン室に強襲をかける。

 経路は偵察済み。放課後、同好会のメンバー(男子生徒ばかり七人)は特別な用がなければすぐにパソコン室に入って、ゲームをしたりしゃべったりしているはずである。


 そして三年の先輩二人は既に自由登校。

 つまり目標の手前で妨害となる相手は四人。

 問題ない。装備は十分に整えた。もし三年の先輩が登校して来ていても対処できるだけの弾薬がこちらにはある。


 行くぞ、突撃!


 私はパソコン室のドアを勢いよく開けた。

 中にいる男子たちがパッと振り返る。

「何だ、お前」

「同好会の活動中、女は入室禁止だ」

 とか騒ぎ始める。OK、織り込み済みである。


 人数は一、二……七人。三年の先輩も来ている。受験は大丈夫なのかと言いたいが、そんなツッコミをするヒマが惜しい。ドアを開けると同時に、私はパソコン室深く進入している。

 兵は神速を尊ぶ。シャイモラ内と違ってマニアック内のアバターの機動性はさほど高くはないが、狭いパソコン室内での利はこちらにあるはず。


「おい、帰れって……」

 前に立ちふさがった男子に、すかさず用意した弾薬を浴びせる。

「チョコレートです。もらって下さい、手作りです!」

 

 えっ? と動きが止まる彼に包みの一つを押し付け、更に進む。

「ちょっと、君」

「いったい」

 更に立ちふさがる二人にもチョコレート爆撃。

 このためにイヤになるほど手作りチョコを用意したのだ、わが軍の物資は豊富である!



 私が男子の聖域を冒す単なる闖入者ではなく、チョコレートをくれる人であるらしいということが分かって、部員たちの態度がビミョウに改まった。

 どこかサンタさんからのプレゼントを待つ幼児を思わせる期待に満ちた表情で私の進路に現れる。

 それに向かって、とにかくチョコレートを配りまくる私。

 

 全員がもらえるという雰囲気。

 これこそが私の狙い。

 そして最終目標、伊藤くんに向かい合う……!



「伊藤くんが本命です! グンガニルさんも伊藤くんも大好きです、私とリアルでもずっとコンビを組んでくださいっ!!」


 他の人のとは違う、凝りまくったラッピングの大きな包みを差し出す。


 伊藤くんは、

「ぶふへえ」

 と一言つぶやいて、呆然と私を見つめる。


 その瞬間。

「伊藤おおおお! お前はそんなヤツだったのか。仲間だと思っていたのに!」

 三年の先輩が悲痛な声で叫ぶ。

 その肩を別の生徒がそっと叩いた。

「先輩。もういいんです。伊藤の幸せを祝福してあげましょう」

 とか言っている。

 

 何だこの演出。

 よく分からんが、それで何となくパソコン室の中は静まりかえる。

 みんなの注目を浴び、緊張する私。

 やがて。


 長く長く感じた、でもおそらくはほんのわずかな時間が過ぎた後。(リアル的にも)

 伊藤くんは手を伸ばし、

「あ、ありがとう」

 と真っ赤になってチョコの包みを受け取って、

「ぶふぉおお」

 と鼻息を荒くした。


 うおおおおお! 初めて、バレンタインイベントで勝利を手にした気がする!

 嬉しそうに包みに頬ずりしている伊藤くんの前で、私も喜びに打ち震えていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ