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22 シャイモラの中の青春

 シャイモラの中で、私は武器屋のショーウィンドゥを眺めていた。

 投げ縄、弓矢、そして銃。罠もあるが。ううむ、これリアル(ゲーム内)に持って帰れないかな。


「サキーンさん。どうしました?」

 声をかけられ振り返って見ると、グンガニルさんが。

 今日は約束してなかったんだけど、ここで会えるなんて運命? ……違うか。ゲームですよ、ハイ分かってますゲームですこれ。しかもゲーム内ゲームという無駄に凝った設定。


 私が見ていた武器を眺めるグンガニルさん。

「ガンナー系に転職を考えてるんですか? サキーンさんは今の刀使いが合っていると思うけど。あ、いや、サキーンさんがそうしたいなら喜んで相談に乗りますが」

「あ、違うんです」

 私は慌てて否定した。


「実はちょっと捕獲したい獲物がいまして。非常に警戒心が強く、僕の姿を見ると素早く逃げていくんです。足が速くて追いつけません。何とか捕まえたいんですが」

「足が速くて警戒心の強いモンスターか。どのエリアに出るんですか?」

 リアル(ゲーム内)です。とは言えんな。


「いえ、捕まえられたらなーと思っただけで。僕には銃とか飛び道具は扱えないから、無理ですよね」

 笑って誤魔化す。

 ちなみにプレイ初期に銃と剣を両方試してみたのだが。

 落ち着きのない性格が災いしたのか、飛び道具系武具は私と相性最悪。

 消去法的に、私はソード系のプレイヤーになった。

 で、グンガニルさんのアドバイスももらいつついろいろ試してみた結果、今は日本刀系の武器で戦うトレジャーハンターになってます。



「レアモンスターかもしれないから。また、二人で探してみましょう」

 とグンガニルさんは言ってくれた。

「ああ、でも良かった。サキーンさんが転職を考えているわけじゃなくて」

「え?」

「ほら。飛び道具使い二人じゃパーティバランスが悪いでしょ。もしかしてサキーンさん俺と組むのに飽きたかなと思っちゃって、実はドキドキしてました」


 お素敵なグンガニルさんがそんなことを!

「あ、ありえません、ありえません。私が見限られるならともかく、逆なんて絶対ありません」

 ビックリしすぎて一人称が素に戻ってしまった。ヤベ。

「そんなことないですよ。俺、リア友少ないし」

 と言うグンガニルさん。私の失言には気付かなかったようだ。ラッキー。


「シャイモラにも初めリアルの知り合いと一緒に参加してたんですけど、いつまでも殻にこもってばかりじゃいけない、新しい友達を作ろうと思ってた時にサキーンさんと出会ったんです。勇気だして声をかけて良かったなって思ってたから、嫌われたんじゃなくて良かった」


 嫌われるなんて。

「グンガニルさんを嫌う人なんていないでしょ。落ち着きあって物知りで頼りになって。とってもカッコいいですもん」

 と言うと。

「いやあ俺、リアルじゃカッコ悪いですよ。根暗なチキンだし。ゲームの中ではその反動で思いっきりアバターカッコ良くしたりして、コンプレックス丸出しですよね」

 なんて自嘲的におっしゃる。


 そんな。そんなこと、信じられないけど。

 確かにアバターには自分の理想を投影してしまうよね。私のアバターだってキラキラ美少年だし。このシャイモラ空間の中でも、正直カッコ悪い人なんていないし。

 ファッションセンスが『それはどうよ?』という人はいても、アバターの外見がありえないブサメンとかいう人はまずいない。たまに宇宙人みたいな意味不明のデザインの人も歩いているが、あれはあれで何かこだわりがあるのだろう……。


 だから現実のグンガニルさんは、このグンガニルさんと同じ姿じゃない。

 それはそうだ。ここはゲーム空間なんだから。

「けど」

 私は言った。

「グンガニルさんはいつも優しくて、私がどんなに足手まといでも見捨てずに付き合ってくれました。危ない時には身を挺して助けてくれたし、知っていることも出し惜しみせずに何でも教えてくれた。私がシャイモラ続けていられるのも、グンガニルさんがいてくれるからです。VRMMOって、見た目は誤魔化せても性格までは偽れないと思います。グンガニルさんはその性格がカッコいいんですから、リアルでだって絶対にみんなに受け容れられてるはずですよ」


 グンガニルさんは、ビックリしたように私を見た。

「ホメすぎですよ、サキーンさん。リアルで俺見たらマジ幻滅するからきっと」

「そんなことないですよ。私だってこんな外見じゃないし、見たらきっとビックリする」

 何しろ女だもんな。

 あ、しまった。また『私』って言ってる!


「でも、こんないい人なグンガニルさんが受け容れられないなんて絶対ないから。もし本気でそう思ってるんなら自己評価低すぎですよ。グンガニルさんでダメなら私……じゃない、僕なんかダメダメです。だから自信持ってくださいよ」


 グンガニルさんは、とてもいい顔で笑った。

「ありがとう。今日、学校でヘコむことがあったんだけど元気でた。シャイモラ始めて良かったな。サキーンさんと友達になれて良かった」

 そんなこと言われると、すごく照れる。

 

 しかしグンガニルさんって学生だったのか。落ち着いてるからてっきり社会人かと。

 そう言ったら、

「それって、老けてるってことですかー?」

 とツッコまれた。二人で笑った。



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