21 まだ伊藤くん攻略続いているような。
で、そんなシャイモラ一色のネトゲ廃人ルートを突き進んでいる今回の攻略であるが。
ゲーム内リアルの世界の時間も一応、進んでいる。
そして秋の体育祭。私はくじ引きで『ラブラブ二人三脚リレー!』という無駄にテンション高い種目の選手に選ばれてしまった。
この種目は、二人三脚しながらトラックを四分の一周ずつ走ってリレーしていくというもの。
ただしペアは必ず男女で組まなくてはならない。なので既に出来上がったカップルとか、意中の人を落としたいとかいう人以外は出来るだけ避けようとする競技なのである。
というわけで今までの周回でもくじ引きにならなかったことは一度もなかった。もちろん毎回好感度パラメーター上げに失敗ばかりしている私が、そんなあからさまなラブラブイベントに当たるわけがない。
ところが何故か今回のプレイでは堂々の大当たり。しかも、しかもですよ。
そのお相手は、あの伊藤くんです。
これは……前半、攻め攻めで彼に絡んだのでパラに変動があったのか。『うっひゃあ』とか『うきゃあ』とかしか言ってなかったけど、伊藤くんの好感度が実は上がってる? それでイベント発動した……とかいう流れか?
あー。
今回はグンガニル様一択で行きたかったですが。
コレもお仕事。好感度パラが上がっているというのなら、いきますよ伊藤くんに。
「伊藤くん。よろしくね」
声をかけてみる。
「う、うは」
既に逃げ腰な伊藤くん。
「待って、逃げないで。二人三脚なんだよ。練習もしなきゃ。リレーだから、ちゃんと出来ないとクラスのみんなにも迷惑かかるし。一緒にがんばろう」
黙ってうなだれてしまう伊藤くん。なんかイラつくな。私と肩組んで走るのがそんなにイヤですかそうですか。これ、ホントに好感度パラ上がってるの?
で、練習をしてみたりする私たち。
互いの足首をひもで結び、肩を……肩を……。
どこに手をかければいいんすか、これー? 伊藤くん、意外に背が高いから肩まで手が届かないよ!
そして全身に波打つ肉がすごくて、どこをどうつかんだら良いのかさっぱり分かりませんですよ。
むむう。
逡巡した末、できるだけ肩に近い背中あたりに手を回してみる。感触が……ブヨ……。
そして伊藤くんが全体的にブヨっている結果、私は彼にぴったりと身体をくっつけるような状態に。
NPCで奇行の目立つヲタデブ君とはいえ男の子。やっぱり照れますよこの状態。
と思った瞬間。
「う、うっぎゃあ!」
伊藤くんが吠えた!
そして暴れ出した!
どうやら逃げようとしているらしいが。待って待って、足! 足、縛ったままだから!
「伊藤くん、待って、落ち着いて」
声をかけても届いていないというか、逆効果というか。
彼はめちゃくちゃに走り出そうとし、それに引きずられた私はバランスを崩して盛大にしりもちをつく。
で、ということはもちろん。伊藤くんも足をすくわれたことになるわけで。
次の瞬間。
私は伊藤くんにのしかかれられていた。
お、重。
相手が相手なら、最上級ときめきシーンになるところだが。
重。
その感想に尽きる。
くはー。くはー。と、熱い息が私の首筋にかかる。
ニキビだらけの伊藤くんの顔は真っ赤だ。
息遣いも荒い。
「い、伊藤くん。重い……」
そんなストレートな感想しか出て来ない私。
もっと色っぽい感想が言えれば、一気に好感度パラが上がりシナリオ進展するのかもしれませんが。
しかしもう限界ですよ、主に内臓破裂的な意味で。
伊藤くんはぴょんと飛び上がって、私から離れた。
足ー! まだ足つながってるから! ほどいてー!
つながれた紐を荒々しく野性的にほどき、それを持ったまま伊藤くんは一目散に廊下を走って逃げて行ってしまった。
……おいこれ。どうしろっつーの梨佳。
狩猟ゲームか、これは。
あの回避能力高いターゲットをどう攻略すればいいのか、全く分かりませんよ!




