16 とりあえず伊藤くん攻略
とりあえず、伊藤くんを攻略相手と仮定して進めてみるか。
まずは情報収をしよう。バイトと部活はその後で決めることにする。攻略に有益なバイトや部活があることも十分に考えられるし。
ということで、女友達に伊藤くんの話題を振ってみる。
こういうところはさすがゲームで、質問にはすぐ的確な答えが返ってくるのである。
「伊藤くん? やめた方がいいよ、すごいオタクらしいよ。女の子とはマトモにしゃべれないんだって」
「趣味はカメラとオンラインゲームとサバイバルゲーム、あとアイドルの追っかけらしいわよ」
みんな、やめろと言いつつ伊藤くんに詳しいですな。
成程。部活なら写真部か、ゲーム研究会か?
バイトも、電機量販店のバイト募集があったはず。その辺りなら接点ありそうだ。
アイドルってバイトもあったが……とりあえずやめておこう。何かイヤな予感しかしないから。
その上でクラスメートという特権を利用して彼との交流を深め好感度を高める! 戦略はこれね!
まずは移動教室の時にさりげなく声をかけてみよう。
「伊藤くん、一緒に行こう」
「うひゃあ?!」
奇声を上げて逃走されてしまった。私は猛獣か。
面倒くさそうだな、コレ。
せめて顔だけでもイケメンであってくれればやりがいもあるのだが。
顔パンパンの丸顔。
ニキビだらけ。
目を合わせてくれない。
どっちかというとブサメン。
ぜい肉いっぱい。(マスターの方が細身)
はあ。
乗らない。ものすごく乗らない。どうやってこれに萌えろと言うのか、梨佳よ。これ、何の限界への挑戦?
やるけどね。やりますけどね。お仕事だから。
でもさ、このゲーム。
私はプレイするとお金がもらえるから頑張ってやるわけだけど、発売されたらお客様は当然お金を払ってプレイするわけだよね。クレームの嵐にならんか、これ。
あ、そのためのあの室長なのか? 確かにあの人がクレーム対応したら、どんな文句が来てもスーパースルースキルで受け流しそうな気もするけど。
いや、初めからクレーム来るの前提の商品開発ってどうなのよ。
と全力でツッコみたい点を今日もいくつも発見しつつ、放課後は写真部に行ってみる。
写真部の部長は素敵な三年のお姉さまだった。
部員が撮ったカッコいい写真の数々を見せて下さるが、残念。伊藤くんはここには入部届を出していないらしい。
正確には入学時に一度顔を出すことは出したのだが、部長に会った途端に『うきゃあ』と叫んで走り去ったらしい。
うむむ、本気で女性恐怖症なのか。そんなキャラをどうやって落とせというのだ。
写真部の皆様に丁寧にあいさつした後、ゲーム研究会へも回ってみる。
「見学したいんですが」
と声をかけたら、中でパソコンを見ていた男子生徒たちがビクッとしてこちらを見た。伊藤くんもいる。
そして全員の顔に確かに怯えが走った。だからー、私はモンスターか何かか!
「こ、ここは男の聖地だ!」
「そうだ! 女人禁制!」
顔色の悪いやせぎすの長髪の先輩と、ビン底眼鏡・色白・火星人顔の先輩がきーきーとわめく。
「俺たちは、この教室への女の侵入を断固として拒否する!」
「三次元の女マジ怖」
「ビッチ去れ。幼女が正義」
掃除用具入れから箒とかモップまで取り出して振り回し始めた。
伊藤くんは、大きな体を机の陰で丸めてひたすら震えている。
結局、教室に足を踏み入れることすらできずに追い出されてしまった。
もう、何なのよ!
どうしていつもいつも攻略対象に近付こうとするだけで拒否されるんだ、このゲームは!




