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14 なあなあ那須野

 ものすごく不服そうな梨佳に今日のプレイデータを渡され、室長はひととおり目を通す。

「もう三つもエンドを見ちゃったんですか。すごいですね平群さん。大したものです」

 と驚かれた。

「いや素晴らしい。さすが後醍醐くんの友達ですね。すごい精神力だ」


 梨佳がまた『後醍醐って言わないでください!』とシャウトしているが。

 何か、ホメられ方がヘンじゃないか?

 そして室長は梨佳の叫びをスルー。からかってるとかじゃなくマジで気にしてないように見える。何だこの人のスルースキルの高さ。


「それにしても、この分じゃ本当にコンプリートしちゃいそうですね。まいったなあ、絶対ムリだと思って五百万なんて言っちゃったけど、会社つぶれたらどうしようかなあ」

 笑って言っているが。


 その内容が聞き捨てならない。

「え? あの」

 私の声が険しさを帯びる。

「フルコンプしたら五百万って、まさか冗談だったんですか?」

 だとしたら、今までの私の努力は何だ。


「あ、大丈夫です大丈夫です」

 室長はあっさりと言った。

「ちゃんと雇用契約書にも書いてありますから。もし会社がつぶれても平群さんは債権者の一人になれます」

 っておい! 全然安心できないんだけど!

 そしてこの会社、危ないのか?


「とにかく、このプロジェクトは開発部でも一番期待されているものなので。平群さんも頑張ってください」

 激励されたんだが。

「あのう」

 ついツッコんでしまう私。私のスルースキルはこの人みたいに高くないのである。

「このゲーム、そんなに期待されてるんですか?」

 だとしたら、この会社の上層部の気持ちが私には分からん。


「ええ」

 室長はうなずいた。

「何しろ、ここまで形になっていますからねえ。他のプロジェクトはなかなか進まなくて。MMORPGのチームは既存のゲーム以上のものを作るという課題を前にして、何をすればオリジナリティになるのかという議論の段階で足踏みしてしまっていますし。VRMMO麻雀ゲームのチームは技術的な部分はクリア出来つつあるのですが、ゲーム内マネーの換金性についての検討で暗礁に乗り上げていて。勝ち負けの結果をゲーム内マネーのやりとりで表すのはやめて、参加アバターが一枚ずつ服を脱いでいくルールにしたらという案も出たのですが、それはそれで法に抵触するのではないかという反論もありまして……」


 待て待て待て。

「VRMMO麻雀って。あのう、麻雀ゲームは2Dでも十分成り立っているのでは?」

 わざわざVRでやる意味が感じられないよ。


「そうでもないです。現在オンラインで流れている麻雀ゲームは、卓上しか表示されません。しかしVRでプレイヤー同士が顔を合わせることにより、表情の変化や挙動で相手の手を予想することも出来、より高度な勝負が出来る可能性があるのだそうです」

 なるほど?

 好きな人はそこまで再現してほしいのかな?


「更に、VR化により通しや積み込みなど従来のゲーム環境では決して出来なかった要素を再現することも可能になります」


 いや待て! 待てったら待て!

「あの。イカサマの再現を目標にするって、まずくないですか?」

 むしろゲーム空間ではいかにイカサマを防止するかを考えないといけないのでは?


 私の指摘に室長は驚いた顔をした。

「確かにそうですね! それは盲点でした。今度の開発室連絡会議ではぜひそのことを担当に言いましょう。やっぱり違う業界から来た人は目の付け所が違いますね」


 っておい。誰も今までツッコまなかったのかい。

 この会社、本当に大丈夫か。資金的な面でなく頭の中味的に。

 業界がどうとかいう問題じゃないよ。常識の問題だよコレ。


「この調子でばんばんお願いします。室長の僕が言うのも何ですが、このゲームちょっと尖りすぎているというか、かなり個性的に仕上がってしまったので」

 笑顔で続ける室長。

 はい? それって。


「だって。今までにないモノを作れって社命じゃないですか」

 不機嫌に言う梨佳。うん、確かに今までにないモノが出来ているね。悪い意味で。

 そして、それをまた笑顔でスルーする室長。

「うん。後醍醐くんの奔放な才能は得難いと思っているよ。社内のコンセンサスを得るには僕も苦労したけど」

 またしても梨佳のシャウトが。これだけキャンキャン言われてよく笑ってられるな、この室長。


「ただ、これが一般に受け入れられるか僕にも予想がし難いので、その辺りについて忌憚ない意見を平群さんには聞かせてもらいたいわけです」

「はい?」

 それはつまり。


 私のやってるテストプレイの目的は、単なるバグ探しとかコンプ可能かの検証とかではなく。

 やってみてツッコミを入れてほしいと、そういうことですかー?!


「あの。ここまで出来ているものに、今さらツッコミを入れろと?」

「修正可能な点については反映を検討します。なあ、後醍醐くん」

 更に梨佳のシャウトが。っていうか、この人が現れてから梨佳はほとんど『苗字で呼ばないで』しか言ってない。


「あの。そういうことは、もっと早い時点で室長さんが上司として言うべきだったのでは」

 少なくとも、ここまで形が出来てしまう前に。

 シナリオの段階でこうなることは予想できたはずではないのか。

 バイトとして言うべきではないかもしれないが、ツッコまずにいられないのが私の性格。


「うーん、僕は意見調整とかそちらの方が得意で。自分が主体になって引っ張っていくとか苦手なんですよね。もちろん、室長として上層部と後醍醐くんの意見の調整には力を尽くしましたよ」

「室長は、社内で『なあなあ那須野』って言われてますもんねえ」

 とげとげしい口調で言う梨佳。

 いやそれ、部下が上司の目の前で言ってもいい言葉?


「ははは。なんか、僕が入るとなあなあで収められたって言われちゃうんだよね。僕は真面目にやってるんだけどなあ」

 そしてそれをも笑顔でスルーする室長。


 つまり。

 梨佳の特殊な趣味と、この主体性のない室長のスーパースルースキルが合体した結果。

 超反応が起きて、あの特殊なゲームが開発されてしまったと。

 そういう話なのか?


 そしてその結果できたモノを、一般の方々に受け入れられてもらえるように何とかしろと。

 それがバイトの私の使命?!

 重すぎだろう、それ!



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