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12 プレイ解析 第3回

「はーい、おつかれさまー。休憩も取らずによく頑張ったね、咲」


 梨佳が棺桶の蓋を開けてくれた。私はもぞもぞと中から身を起こす。

 このハードさあ、やっぱりどうにかしようよ。

 リアルに戻って来た時の虚脱感がハンパない。精神的な意味で。


「今、何時?」

 と聞くと。

「午後二時半。おなかすいたでしょ、お弁当あるよ」

 と梨佳が答える。

 確かに。仮想空間内ではいろいろ食べたり飲んだりしていたから気にならなかったけど、リアルに帰って来たらすごくおなか空いてる。

 あとトイレ行きたい。



 で、用を済ませて落ち着いてから、梨佳特製手作り弁当を今日もいただく。

「マスターのグッドエンド攻略したね。どうだった?」

 聞かれるが。

「あー」

 腑抜けた声しか出て来ない。

「なんか……長い夢を見ていたような……」


 VR世界とリアルとの落差が激しすぎて、復帰できない。マスターとのあれやこれやは、全て一期の夢だったのか。いや、分かってやってたんだけど。ゲームだって分かってたけどさあ。しかし。

 何というか……やっぱり老け込むわ、このゲーム。


「疲れたかな。感想は明日にしようか」

 心配そうに言う梨佳。

 うん、まあ。せめてお弁当食べ終わってからにさせてもらえると助かる。


「……一年間をVRで体験するから。リアル時間との落差でクラクラする」

 浦島太郎の気分というか。

 いや、あれは帰ったら時間が進んでいたんだから逆か。

 長い時間を過ごしてきたのに、現実ではあまり時間が経っていない。タイムトリップした感じというか、異世界トリップから帰ってきた感じというか。


「なるほど。オンラインRPGと違ってこのゲームは体感時間に干渉してるから、その辺が問題かな。メディカルチェックの予約入れとくから安心してね、咲」

 そう言ってくれる梨佳の言葉は優しいんだけど。

 だったら初めからこんな疲れるゲームを作らないでほしかった。

 そして、私って実験台なんだな。まあ、テストプレイヤーなんてそんなもんかもしれないが。

 メディカルチェックがいるほどの実験台というのも何かコワイ気がするんだけど。



 それでもお弁当を食べたりのんびりと外を見て休憩を取ったりしている内に、段々と現実感覚が回復してきた。VR世界の山田サキではなく、リアルの平群咲に意識が切り替わってくる。


 そうなってきたら、ちゃんとお仕事をしなくてはという気持ちになった。

 そう。『マニアック』をプレイすることは、平群咲・二十八歳にとってバイトなのである。そしてそれはゲーム内のキャラにドキドキときめいたりすることではない。

 ソフトが開発者(=梨香)の意図したようにちゃんと働くかを確認する。そして更に、プレイした感想……良いと感じたところや問題だと感じたことをきちんと伝える。そこまでが私の仕事なのだ。



 梨佳に『落ち着いたから感想言える』と伝えると、心配そうにしながらも彼女はプレイデータをプリントアウトした資料を持って来てメモ帳を広げた。


「どうだった?」

「うん」

 何というか。

「地味じゃない?」


 いや、他にも言いたいこといろいろあるけど。

 根本的にマニアックすぎるとか、ムダなリアリティいらねーとか、ゲームシステムがムカつくとか。

 しかしツッコんでいたらキリがないので、とりあえずそこから行く。


「え?」

 きょとんとする梨佳。言葉を重ねる私。

「地味。悪くないけど、地味。せっかく乙女ゲームなんだからさあ。もっとこう、どどーんと! 派手に! ロマンチックに盛り上げた方が良くない?」


「えー」

 梨佳は不満そうな顔になる。

「マスターのグッドエンド『ささやかな毎日』は、その地味なところがいいんだよー。恋って、ハラハラドキドキのジェットコースター展開ばっかりがいいとは限らないと思うのね。こう、何事もない日常を重ねていった末の穏やかな幸せが何とも言えない愛情を……」


「それはそうかもしれないけど」

 リアルならね。それにしてもさりげなさすぎだったけど。

「でもゲームなんだよ。現実じゃないんだよ? リアリティなんかなくていいから、とにかく華やかな、有り得ないロマンスを追求したっていいじゃない?」

「同じようなエンドばっかりだったら飽きちゃうじゃない。展開もエンドも、そのキャラごとに個性があった方がいいと思うのよ、私は」


 梨佳と私の意見は平行線で交わらない。

 価値観が根本的に違うのである。無理もないかもしれないが。

 その時。


「意見は素直に聞いて記録に残さないといけませんよ、後醍醐くん。そのためにテストプレイしてもらっているんだから」

 低い涼やかな男性の声がした。



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