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118 心機一転するつもりだぞ!

 いろいろやりとりをして、その日の夜にサクラちゃんと会うことになった。

 場所は、サクラちゃんのお気に入りだという高級カフェ。お財布にちょっと痛いが、仕方ない。

 待ち合わせ場所に行くと、サクラちゃんは先に来て待っていた。グレーのワンピースがカッコいい。お気に入りとはいえ、ジーンズにシャツで来てしまったが格差を見せつけられた感じで悲しい。社会は厳しい。


「ああ、咲。元気そうだね」

 サクラちゃんは私の顔を見て微笑んでから、ちょっと眉をひそめた。

「……待て、ひどい顔じゃないか。どこかにぶつけた?」

「いや。ちょっと昨夜、飲みすぎて。大丈夫、気にしないで」

 泣いたというのは言いたくなくてそうごまかしたが、『ぶつけた』はないんじゃない? どれだけひどいんだ、私の顔。顔面で壁にアタックしたみたいになっているのか?


「咲が大丈夫だと言うならいいけれど」

 小首をかしげながらも、サクラちゃんは納得してくれたようである。

「じゃあ、行こうか」

「え、待って。みんなは?」

 さっさと歩きだしたサクラちゃんを追って、私はあわてて聞いた。梨佳とか、高校のときのグループのみんなが集まるのだと思っていたんだけれど。


「ああ。今夜は咲にしか声をかけていないんだ」

 サクラちゃんは笑った。ホント、見た目はきれいで女性らしいのに、態度がイケメンだわ、この子は。そりゃあ、女子高でモテたわけだよね。

「ということで、今日はデートだよ」

「デートって」

 照れてしまうぞ。友達なのに。というか、女どうしなのに。


「でも、何で?」

 サクラちゃんが帰国したときはいつもグループのメンバーで集まっていたのに。

「みんな仕事が忙しそうだからね」

 私の疑問に、彼女はさらりと返答する。

「それに、たまにはこういうのもいいだろ?」


 まあ、確かに。大勢集まるとにぎやかだけど、サクラちゃんとじっくり話すことは出来ないしなあ。

 私は納得して、彼女と並んで歩いた。



 くだんの高級カフェへイン。

 うう、覚悟はしてきたが、お値段が、お値段が。普段、コンビニデザートすら高嶺の花の贅沢品と指をくわえて見ている私には別世界すぎて辛い。

 何なの、ここは。この店にだけインフレーションの高波が押し寄せたの。

 それとも一見同じに見えて、貨幣価値が違う異世界に迷い込んでしまったの。


 と、現実逃避をしてもしかたないので、サクラちゃんと同じデザートプレートとコーヒーのセットを注文した。うう、昨日ヤケ酒なんか飲まなければ良かったよ。

 いや、私だって再就職すればこのくらいの出費なんか。

 一瞬そう思ったが、いや、やっぱりサクラちゃんとお出かけするときは昔から背伸びをすることになるのだった。


 割と、宅飲みにお金を使っちゃうしなあ。おしゃれなスイーツより、ヤケ酒で憂さ晴らしなんだよね、私のライフスタイル。……ちょっと人生を見直したほうがいいかもしれない。


 そのうちコーヒーが運ばれてきた。いい香り。やっぱり高いだけあって香りからして違うよね。

 味も、うん、とんでもなくおいしいような気がする。細かいことはわからないが、おいしいような気がする。

「……咲のほうは、変わりはない?」

 サクラちゃんに聞かれた。


「え? え、うん、まあ」

 改めて聞かれると、落ち込んだのを言い訳に後ろ向きに逃げまくった結果の現状がとても恥ずかしくなった。特に、サクラちゃんみたいなレベルの高い人の前だと、自分の情けなさが身に染みる。

「そう?」

 サクラちゃんはコーヒーカップにカッコよく口を付ける。


「一時はかなり落ち込んでいたみたいだし。電話で声は聞いたけど、直接会って話が聞けなくて悪かったね」

「い、いや。サクラちゃんが気にするようなことじゃないし。むしろ、忙しかったのに愚痴を聞いてもらってありがとう」

 晴の浮気発覚から退職願を出すまでのおよそ一か月の間、私は相当荒れており、高校時代の仲間とのSNS のグループで連日、愚痴をぶちまけまくっていた。


 サクラちゃんも心配して、何やら大きなプロジェクトを抱えていたらしいのに何度も国際電話で話を聞いてくれたものだ。思い出すのも恥ずかしい。


「あ、あの。最近はけっこう元気だから。そろそろ再就職先も探さなきゃなーなんて思い始めたところで」

 なんとか明るい雰囲気を出そうと頑張る。これが口から出まかせじゃなく、一応本気で考えたことで良かったよ。思いついてからまだ二十四時間経っていないけど。


「だったら安心してもいいのかな」

 そう言ってから、サクラちゃんは笑った。

「で、梨佳とはうまくやれてるの? 大丈夫?」


「えっ」

 私は焦る。

「だ、大丈夫って、だだだだ大丈夫だよ、だって友達だし」

 目が泳いでしまった。


「さて、どうかなあ」

 サクラちゃんはちょっと人の悪い笑顔になる。

「だって、咲はよく梨佳にキレていただろう。面と向かっては感情を抑えるんだけれど、いないところではよく怒りをぶちまけていた。梨佳がアルバイトを探しているって咲に伝えたのは私だから、うまくやっているのか気にしていたんだよ」



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