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109 狩りの始まり

 そうと決めたら動かねば。

 ゲーム内時間は、既に1月半ば。もうバレンタインを射程に動かなくてはならない日付である。

 そして特殊エンドの場合は、トゥルー・グッド・ノーマル・バッド、いずれにしてもバレンタインで終わる場合がけっこうある。


 つまり、私にはもう時間がない。ぐずぐずしていたらシナリオが終わってしまう。

 残された短い時間に私にできること、それは何だろう。小林を感動させ、一発で落とすようなバレンタインチョコを作ることか? いや、違う。


 『小林を捕捉する』。すべきことは、これに尽きる。

 どんなに素晴らしいチョコレートを作ったとしても、会って渡せなかったら意味がないのだ。

 居場所を突き止め、会って話せる状況を作る。そうしないと何も始まらない。


 ちょっとがっくりした。また狩り系ミッションか……。どうしてこのゲームはこんなにも、根本がシャイモラなんだ。

 梨佳にとって恋愛とは狩猟行動なのか? 追いかけたり、待ち伏せたり、罠をかけたりする局面が多すぎるんだけど。


 まあいい。男子をドキッとさせるような口説き文句を考えたり、女子力の高いプレゼントを用意したりするより、私もそっちのほうが得意だ。

 伊藤くんルートの時に、グングニルさんこと伊藤くんと駆け回ったシャイモラフィールドで鍛えた私の狩猟スキルを再び発揮してやろうじゃないの。


 狩りフェーズでやるべきこと、その一。情報収集。

「え……」

 私から唐突に、小林の情報を求められたアヤちゃんは困惑の表情を浮かべた。

「サキが知らないのに、私が知っているわけがないじゃない。小林さんの連絡先なんて」


 わかる。わかるよ。急に『酒場の情報通』の役割を求められても、いくらNPC だって困るよね。

 だけど今は緊急事態なんだ。どんなことでもいい、何か情報があれば教えてもらいたい。私は、推理ゲームで手掛かりを探して手当たり次第に背景画面をタップする人の気持ちになって言う。


「連絡先じゃなくてもいいの。どこかで見かけたとか、どこに行けば会えるとか……。中村さんから聞いたりしたことないかな、と思って」

 自分で聞いたほうがいいのかもしれないが、なるべく中村さんとの接触役はアヤちゃんに任せておきたいんだよね。


 中村さんは好感度パラメータが犬によって上下するくらい人間への関心がミニマムなキャラクターだ。今はアヤちゃんと上手くいっているように見えるけれど、数値化してみればアヤちゃんと私のパラが大差ないということもあり得る。

 ラプラドールレトリバーのオスの子犬を飼っていない以上、私と中村さんの間にフラグは立たない。だけど下手な動きをして、アヤちゃんと中村さんのフラグを消してしまうことはあり得る。


 そうなったら小林攻略のためのわずかな希望も完全消滅する。その上、アヤちゃんがなんだかとても恐ろしくなるような予感がするので、出来れば避けたい。

 見えている地雷は踏まない。これは人生の鉄則だ。いや、ゲームだとあえて踏みに行かなきゃいけないときもあるんだけど、アヤちゃんがラスボス化するところは見たくないし。


「うーん。でも、中村さんのほうから小林さんの話をすることはほとんどないよ」

 アヤちゃんは更に困った顔をする。

 うん、知ってた。中村さんはそういう人だよね。優しいのは犬に対してだけだよ。

「さりげなく聞いてみてもらえないかな」

 私は食い下がる。


「でも、私が小林さんの連絡先を聞いたら不自然じゃない?」

 アヤちゃんは気乗り薄だが、そんなことを頼みたいのではない。

「連絡先はさすがに失礼だから。小林さんが行きそうな店とか、場所とか、そういうところを知りたいの。私が知りたがってるって言っていいから」


 中村さんに聞けば、連絡先くらいは教えてくれるだろう。電番とかメアドだって教えてくれそうな気がする。

 でも、今の状態でダイレクトに連絡を取ろうとしたって駄目だ。ブロックされて終わりだろう。

 だから、そういう接触方法は捨てる。


 これは狩りフェーズだ。だから狩りとして行動する。

 つまり……待ち伏せ! そして……罠!


「それくらいだったら、聞けるかもしれないけど。でも、それだけでいいの? サキ」

 私の要求が予想より軽かったので、アヤちゃんはようやくうなずいてくれた。

「もっと力になりたいんだけど、ごめん。私、気が小さくて……」

「大丈夫。自分のことだから、自分で解決するよ」


 私は笑顔で答える。正直なところ、アヤちゃんに一番望むのは魔王化しないでいてくれることだから。公開土下座、怖かったよ。いつまでもおとなしくてかわいいアヤちゃんでいて、お願いだから。

 

「サキは強いね」

 アヤちゃんは笑った。

「なるべく早く聞いてみるね。わかったらすぐ、連絡する」

「ありがとう。お願いね」


 今となってみると、初手でアヤちゃんに『小林が好き』と伝えておいたことも良かったのかもしれない。ゲーム内とはいえ恥だったから、攻略上意味があったと思わないとやっていられないが。

 とにかく、最初の布石は打った。


 シャイモラ内で数々のモンスターをハントしてきた私だ。メインゲーム内では伊藤くんという大型も捕えたし。

 狩りなら負けない。絶対に捕まえてやる。

 震えて待て、小林。お前の運命はすぐそこにまで迫っているのだ!


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