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104 戦場なメリークリスマス

 いよいよ当日。パーティは夕方からだが、アヤちゃんは昼過ぎに私のアパートに来る。掃除は私がしておいたが、飾りつけだの料理の準備だの、やることは多いのだ。


 夕食のメインは水炊き(鍋)だが、サイドメニューも作る。サラダとか、スープとか。クラッカーを使ってカナッペを作ったり。

 今までの犬ルートクリスマスはメニューが貧しすぎたため、私はとりあえず『野菜が食べたい』という一心でタッパーに大盛りのグリーンサラダを作って持って行ったりしたものだった。が、アヤちゃんと一緒の今回のクリスマスはひと味もふた味も違う。


 まず、要求される水準が高い。

『かわいいのを作ろうね』

 と言って、アヤちゃんはいくつもレシピを調べてきた。


 リアルではよくある風景かもしれない。しかしこれはゲーム。

 つまり、提案されたレシピの中から作るべき料理を選択して(あるいはどれも選択しないという選択をして)、対象キャラの攻略を目指すということだ。

 メニュー選びから既に戦いは始まっている。気が引き締まる思いだった。


 かわいいものが作りたいというだけのことはあって、アヤちゃんの選ぶレシピは手間ひまのかかるものが多い。私はサラダを彩るためだけに卵をゆでたりするのは面倒くさいと感じる人間なのだが、提示されたメニューはその手の『仕上がりはきれいだがやることは多い』メニューばかりだった。アヤちゃんの提案を蹴る勇気は私にはない。黙々と働くしか道はないのであった。


 少しでも簡単そうなメニューを選んだけれども、それでも準備には午後いっぱいかかった。

 桃太郎やアンジェリカの相手を交代でしながらだから、なおさら時間がかかる。放っておくと、二匹で調子に乗って遊びまわり、せっかくきれいにした部屋をめちゃくちゃにしてしまうから仕方ない。


 夕方、カナッペを作っているときに玄関のチャイムが鳴る。お客さまたちの到着だ。

「お招きありがとう。お邪魔します」

 笑顔でケーキの箱を差し出す中村さん。

「チキンも買ってきちゃったんだけど、食べるよね!」

 さらなる笑顔で大きなチキンの箱を差し出す小林。


 うん、そんな予感はしていたよ。鶏料理を作るべきか悩んでいたアヤちゃんに、やめておこうと進言してよかった。クリスマスが鶏地獄になるところだった。


 かくしてクリスマスイブの夕食は、

・カナッペ(前菜)

・水炊き

・ごはん

・ポタージュスープ

・温野菜とゆで卵のサラダ

・ミートローフ

・フライドチキン

 という、和風なんだか洋風なんだか、何がメインなんだかわからない状態になる。


 だけどまあ、

「うわあ、豪華だな。これ、二人で作ったの?」

「鍋だー、やったー!」

「ワン! ワン! ワン! ワン!」

 ……すでに盛り上がっているからいいか。


 男たちがカナッペをつまんでいる間に、私たちは材料を鍋に入れ、カセットコンロに火をつけて蓋をする。クリスマス鍋パーティの始まりである。

 男性陣はビール、私たちは炭酸飲料で乾杯。(犬たちはもちろん水)

 

 犬をモフりながら歓談が始まるが、チラッと見るとアヤちゃんの目は時おりじっと中村さんを見ている。しばらく別行動をしているうちに何かが進展している様子。善き哉善き哉。

 攻略が軌道に乗っているようで、良い兆候である。


 あとは小林がもう少し、そういう目で私を見てくれていれば言うことがないのだが。相変わらず、アンジェリカに熱いまなざしを注いでいるだけにしか見えないんだよなあ。

 しかしこのゲームに糖度が足らないのはいつものこと。そういうゲームだと割り切ってプレイするしかない。甘々展開のない乙女ゲームの何が楽しいのかは謎だが。


 鍋が煮込まれるまでは、ミートローフとチキンをご飯のおかずにして食べる。考えてみると、鍋をメニューにねじ込まなければそれなりに洋風でまとまった気もするのだが。そして『大人数で集まるなら鍋!』とゴリ押したのは私なのだが。

 だって、小林が鍋料理を好きそうだったし。


「早く鍋、出来ないかなー。この待っている時間もいいんだけどね!」

 今回も楽しそうに鍋を見ている。

 だって、ほら、今回はこいつが攻略対象なんだし。攻略対象の好きなものをリサーチして用意するのは、乙女ゲーの基本じゃない?


 だからアヤちゃん。小林の反応を見て『そういうわけだったのね』みたいな顔をするのはやめるんだ! ゲームだとわかっていても落ち着かなくなるじゃない。

 

 プレゼントは、食事が一段落したところで渡すことになっている。

 私のプレゼントは喜んでもらえるのだろうか。そう思うと、なんとなくソワソワしてしまう自分だった。



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