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再会

美咲(みさき) (けい)


数年前、同時中学1年だった彼は、姉の死に繋がる事件の際に美夜と出会い、啓は自分の知らない世界がこの世に確かに存在し、自分達がその歯車の一つに過ぎない事を知った。


彼は事件の後、自分が生きる意味、そして人間とは?と常に問い続け、他者から見れば哲学と認識される分野で勉学に励み、そのテーマと彼の将来性を認められた結果、この学校に特待生の一人として入学。


普通の学生が経験することの無い出来事と、それからの啓を構成したテーマのせいだろうか、彼は同年齢と比べ明らかに落ち着き、物静かな青年となった。


今は学校敷地内にある特待生専用の寮に一人暮らしをしているが、週末は基本的にたった一人の肉親である母の待つ実家で過ごす。


高校卒業まではこのような日々を変わらず過ごすのだろうと考えていた啓だったが、二年になってから周りが徐々に慌ただしくなった。初めは四月の始業式の日だったと記憶している。


その日、一人の女生徒が下校途中で行方不明となった。


しかしそれは一人での下校中ではなく、何人かの仲の良いグループでの帰宅時の出来事だった。


これについては啓も噂程度でしか聞いていないが、一番後ろを歩いていた女生徒が突然消えたという。場所は目立つ大通りである。

突然消える事自体が本来あり得ない。

警察と地域住民の懸命の捜索にも関わらず、女生徒が発見できない日々が続いた一週間後、女生徒は早朝の海岸で意識不明で発見された。


発見された女生徒は外傷は無く、すぐに病院へ搬送されたが、ベッドの上で今も意識が戻らない状態が続いているらしい。


女生徒が発見された翌日、今度は運動部の男子生徒が、部活動の帰宅時に行方不明となった。

今度はグループでなく一人での帰宅時。


10日後、同じく早朝の海岸で意識不明で男子生徒は発見され、また同じく今も意識は戻っていない。


そして、二学期までの間で合計10名の生徒がその被害にあったらしい。

警察は未だ事故か事件か判断できず、何故か公にされず新聞等メディアでの発表もない。SNS等も監視されているのか、情報がでることがなかった。


啓のクラスでも一人の生徒が被害にあったが、担任からは、彼は重い病気で入院していると説明を受けただけだ。


当然、他の生徒たちも不安に襲われたが、夏休みに入ると何故か突然事件は収まった。


未だ10名の意識は戻っていないらしいが、周りは自分に降りかからない事で安心したのか、事件を忘れかけていた。


啓としてはどうにも信じられない。

どんなに大きな事件でも、自分が当事者でなければ、例えクラスメイトが被害にあっても大して気にしなくなることに、逆に大きな恐怖を感じた。


二学期初日、啓は再びまた何か起きるのではと不安に思わずにいられなかった。

また、朝の目覚めも最悪で、寝癖の付いた髪は元には戻らない。溜め息とともに教室に入ると、変なことだけに情報通の友人が、クラスメイトの1人が他県へ転校したことと、転校生が来ることを啓に伝えてくる。


彼が伝えてくるのだから、転校生は女生徒に違いないと判断し、適当に会話をあわせた。


しばらくして担任が教室に現れ、友人が待ちに待った転校生の紹介となる。


彼女は綺麗な子だった。それが啓の第一印象。

少し青みがかった肩までの黒髪。そして、あどけなさの残る顔には、透き通った茶色い瞳があった。

何だろうか、それは人では無い何か別の存在のように啓には映る。

そんな雰囲気に、飲まれたような気がしたのだ。


彼女は颯爽とチョークをとり、黒板に名前を描く。

文字を書く流れは美しく、書くというより、描くという表現が一番適していた。


彼女は振り向き名乗った名前と黒板に書かれた文字は、啓に衝撃を与えた。


"夏樹 八重子"という名前。

その名字は、忘れることができないあの人の姓だ。

不可思議な事件の後に、これは決して偶然ではないと思わずにいられない。


ホームルームの後、啓は八重子をできるだけ意識しないように見ていた。

彼女の周りにいる連中とはもちろん目的が違うが、じっと見るのはやはり気が引けたからだ。

その時、彼女と目があった。

できるだけ自然に窓の外へ視線を向けたが、たぶん気づかれただろう。

こういうことは啓は得意ではない。


彼女の周りから人の波が引き、彼女自身も鞄を手を取り席を立つ。少し時間をあけてから、啓は彼女の後を追った。


正門を出た彼女は、一人海を見ていた。

その瞳が海の青を反射した光の加減のせいか、青く光をともしたように見えた時、懐かしい赤い車が彼女前で停車する。


「久しぶり、大きくなったね。これも何かの縁かしら」

数年ぶりに会った美夜は、あの時と何も変わらないように見えた。


「はい。俺は、あの時は美夜さんより背が低かったですから。でも、本当に美夜さんに会えるなんて思いもしなかったです」


八重子は二人に交互に視線を向け、この男性が危険ではないこと知った。


「美夜様、お知り合いの方ですか?」

「ちょっと以前の仕事でね。えっと、何だし場所を変えましょ」


美夜はニッと二人に笑いかけた。


30分後、県道沿いのファミレスに三人の姿があった。


「成る程、それが啓君の知る一学期の出来事ね」

美夜は彼が知る10人の被害者の話をテーブルに肘をつき、顎を支える姿勢で聞いていた。


「美夜様、その格好ははしたないです!」

「ああ、もう!こんな時ぐらいはラフに過ごして良いでしょ。八重子厳しすぎ」

啓は、美夜は口をとがらして、八重子にクレームをいう様をきょとんと見ていた。


「美夜さんにも苦手なものあったなんて、正直意外な感じですよ。何時もクールなイメージがあったので」

「八重子のせいだー、私のイメージを変えせー!」

美夜の叫びに八重子はわなわなと口を震わせた。

「美夜様、その発言は納得できかねます!」

八重子は更に文句を言おうとしたが、美夜の手がそれを制した。


「とまあ、この流れはここまで。さて、情報ありがとね、どうにもお役人から来る情報だけだと正確性に欠けててね。やはり別視点が欲しかったの」


美夜は雰囲気を瞬時に切り替えると、指を右手の一本立てた。

「一つ、入院中の10人は危篤と改善を繰り返しているわ。死なないぎりぎりで持たせているようにも見える」


次に二本目の指を立てた。

「二つ、行方不明時の彼らが映っただろう監視ビデオをあるだけ見たのだけど、彼らが消える時足元に小さな影が現れたように見えたの。そしてその瞬間彼らは姿を消している」


三本目の指を立てると、八重子と啓は息をのんだ。

「最後に、彼ら外傷はないということだけど、共通する二つの斑点が首筋にあったの。ごく小さな物だったけど、元々無かったものであることは、彼らのご両親に確認したわ」


美夜は、これまで知り得た内容を、二人に告げた。テーブルには斑点と表現した赤い点が二つ並んだ様子が写った写真があった。それは今朝八重子と別れた美夜が、被害者の入院している病院で撮影してきたものだ。


「でも、それじゃあ事故じゃなくて、やはり事件で、しかも犯人は人じゃない」

啓の回答に美夜は頷く。

「美夜様、そうなるとその本人は私たちの側の者となりますが、どうにも理解できないことがあります。目的が見えません」


美夜は再び頷き、八重子の頭を軽くなでた。

「そうね、今のところはね。まだはっきりと言えないけど、幾つかの動機のパターンは考えているの。えっと、そうだ啓君、二学期になってから変わったことは?」


啓は少し目をつぶり、そのまま言葉を導く。

「そうですね、えっと夏、、いえ八重子さんの転入以外では、あれぐらいか、、、、」名字で呼ぶとどちらか分からないため、失礼かと思ったが、下の名前で呼んだが、八重子自身は普段美夜との関係で慣れているため特に気にしない。


最後に啓は、大した内容でなく申し訳ないといった感じで話を締めくくった。


美夜はフルーツパフェを口に運び、八重子は紅茶を上品に飲み、その話を聞いた。

「うんうん、ちゃんと話のまとめもできるし、主観もなく助かるわ」

美夜はにこりと啓に笑いかける。

「あの美咲さんは、まだ17ですよね。年齢の割に確かにしっかりされていますし、すばらしいかと思います」

八重子は大きな表情の変化はないが、淡々と啓にお世辞ではないほめ言葉を言う。


「今回の事件はね、舞台が政府のテスト校という事であまり公には動けないの。八重子には中から情報を集めてもらうた潜入してもらったけど、良ければ啓君手伝ってくれないかな。校内でのあなたの安全については、八重子がちゃんと守ってくれるから」

「それは構わないのですが、あの、八重子さんは美夜さんと同じと言うことなんですよね」

啓は確認するように、コーヒーに口を付ける。

八重子は少し慌てたように両手で否定の動きをした。

「そんな私ごときが美夜様と同じなんて恐れ多いです。私は美夜様の眷属のようなものですし」


「眷属?」

疑問の表情の啓と、不機嫌な顔になる美夜。

「八重子、何度も言うようにあなたは私の家族、それ以上でもそれ以下でもないわ。あと、この私の発言に謝るのも許さないわ」

八重子はしまったという顔で、うつむき頭を下げる。


「でも学校内に、その敵というか、事件に関わる物が存在しているのは間違いないんですよね?」

「ええ、十中八九ね。そしてこれからまた被害が拡大するはず」

美夜は啓にそう答え、パフェの最後の一口を口に運ぶ。


美夜は、さてこれからどうするかと腕を組み、目をつぶる。暫くして再び目を開け、そして啓と八重子をそれぞれ見つめ、答えを見つけた。


「じゃあ八重子、明日から啓君の恋人として、行動を共にしてね。それが一番不自然に見えないからね」


「「えっ!?」」


啓と八重子の叫びに、美夜は楽しそうにいたずらの笑みを浮かべた。

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