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異世界とエレベーター

 前略、お父様、お母様へ。

 どうやら、部屋だけでなくエレベーターも呪われていたみたいです。



 異世界に行く方法を考えてみたことはあるだろうか。

 例えばこのような事例がある。


 トラックに轢かれて、それがたまたま神様の間違いで、そのお詫びに異世界に転生する。

 悲惨な人生に神様が同情して、異世界に転生する。

 死んで気が付いたら異世界だった。

 ゲームをしていたら異世界だった。

 ドアを開けたら異世界だった。

 気が付いたら異世界だった。

 これらの例はよくあるネット小説での話だか、どれもこれも現実にはありえない話だ。


 トラックに撥ねられたら当然死ぬし、よくて重体。

 悲惨な人生だろうが神様は同情しないし、死ねばそのままお葬式。

 ゲームをしていようと、ドアを開けようと、気が付こうと、異世界にはいけないし、そこにあるのは現実だ。

 それでも異世界に行きたい人はいるだろう。


 つまらない日常。

 虚無感を抱える毎日。 

 直視したくない現実。

 だからこそ、やり直したい。

 新しい毎日を後悔のない人生を過ごしたい。

 まぁ、異世界に行ったとしても良い人生を過ごせる保障など何処にも無いのだが。

 さて、異世界に行く方法だが、先ほど語った方法以外にもあるのを知っているだろうか?

 その方法とは何か? それはエレベーターである。


 エレベーターで異世界に行く方法。

 この方法はネットにある都市伝説の一つだ。

 ある条件をクリアしたエレベーターで、ある操作をすると異世界にたどり着けるといわれている。

 このエレベータで異世界に行ける方法はあくまで噂で、都市伝説の一つであると覚えていてほしい。

 現実はエレベーターなどで異世界になど行けるはずがないのだから。

 もっとも俺が知らないだけで、もしかしたら異世界に行った奴がいるかもしれないが。

 まぁ、行けたら行きたいよな異世界。

 何か楽しそうだし。

 でも現実は非情なんだよな。

 はぁ……。


 あぁ、これから語るのは俺がエレベーターで異世界に行った話しではない。

 エレベータで出会ったとある少女の話だ。

 始まりは、大学から帰ってきて常に人気が無いエレベータに乗り込んだ時に感じた視線だった。

 


 俺は大学に通う為にグランドハイツ谷越というマンションの一部屋を借りている。

 部屋はマンションの最上階にある為、階段を使うことは無く当然エレベーターを利用しているのだ。

 このマンションにはエレベーターが二つあり、一つはエントランスホールのすぐ近くに。

 もう一つはエントランスホールから少しだけ離れた場所にある。

 俺がいつも利用するのは、少しだけ離れたエレベーターだ。

 なぜ、すぐ近くのエレベーターでは無く、離れた場所にあるエレベーターを利用するのかといえば、他のマンションの住人が全く利用しないからである。

 俺は狭い空間に、全く知らない見ず知らずの他人と一緒になることが苦手なのだ。

 だから、他の住人が全く利用しないエレベーターをいつも使っている。


 このエレベーターはどんなにエントランスホール近くのエレベーターが混んでいようと、誰も利用しない。

 少なくとも俺がこのマンションに住み始めて、他の住人と一緒にエレベーターに乗り込んだことはない。

 なぜこのエレベーターだけ、このような状態かと原因を考えれば、おそらくはエレベーターに乗ると感じる視線だろうか。


 誰も一緒にエレベーターに乗っていない。

 自分だけが乗っている。

 それなのにも関わらず、どこからか感じる視線。

 毎回毎回乗るたびに、何度も何度も感じる視線。

 そんな視線を毎回、感じていれば気味悪がって誰も乗らなくなるだろう。

 そして、エレベーターに乗った住人が他の住人に噂話でも広めていれば、乗ったことが無い住人も気味悪がって自然と乗らなくなっていったのではないか。

 あぁ、あくまで俺個人の考察であって他に原因があるのかもしれないから、あまり信用はしないでくれ。


 俺としてはこのエレベーターを利用するたびに毎回感じる視線は、気味が悪いというよりウザったいぐらいにしか感じない。

 その理由はただ一つ。

 この視線以上に、外見は不気味で気味が悪い怨霊と一緒に生活しているからだ。

 中身は残念なカワイソウな奴だけどな。

 だから俺は毎回このエレベーターを使い続けている。



 そして今日も大学の授業が終わり、自分の部屋へと向かうためエントランスホールから少し離れた場所にある、このエレベーターが降りてくるのを待っていた。

 ちなみに、昨日のサークル活動は異世界に行く方法だ。



 エレベータのドアが開き中に乗り込み、自分の部屋がある階のボタンを押す。

 ドアが閉まると少しフワっとする感触と供にエレベーターが目的の階に向かって動き始めた。


 ……いつも感じる視線が無い?

 あれ、何だろう?

 毎回毎回感じるウザイ視線が無いのは良いことなんだが、いざ無くなると何かこう不安になるな。

 いや、無い方が無論良いのだけれど、落ち着かない気分だっ!?

 視線を感じる。今までよりより強烈な視線を背後から感じる。

 やっぱり、視線なんか感じない方がいいな。

 今まではただ見てるだけっぽい感じだったが、今回のは殺気? みたいのが感じられるし。

 どうしよう、振り向いた方がいいのかな? いや、でもなぁ、このままスルーしたほうがいいかなぁ?

 ……やっぱり気になるから振り向こう。

 もしかしたら、涼さんみたいな残念系幽霊かもしれないし、俺には呪い耐性があるから命に別状はない。

 振り向こう。うん、振り向こう。


 ……子ども?

 勢い良く後ろを振り向かった先に見たものは、肩まである黒髪に赤のワンピースを着た少女だった。

 ハァ、俺の勘違いか。

 そうだよな、よくよく考えてみればどうして俺は最初から幽霊だと思っていたんだ?

 幽霊なんて滅多にいるものじゃない。

 俺が唯一知っている幽霊は涼さんだけじゃないか。

 残念系幽霊の涼さんだかじゃないか。

 きっと、兄貴のアノ言葉がいけないんだ。


 『お前これからその怨霊以外にも幽霊見ることになると思うから』


 この言葉を俺は毎日気に掛けながら生活をしていた。

 いつかどこかで、涼さん以外の幽霊に遭遇するんじゃないかと気にしていたんだ。

 だから、毎回毎回感じるこの視線は幽霊なのでは? と思っていたんだ。

 それが、それが幽霊だと思って振り向いた先にいたのは子どもだったなんて。

 恥ずかしい。

 クソッ兄貴の奴め!


 「ねぇねぇお兄ちゃん?」


 少女が俺に話しかけてきた。

 恥ずかしがっている場合じゃない。

 何か言い返さないと。

 

 「えっと?」


 少し疑問に思うのだが、何故この少女は一人でこのエレベーターに乗っているんだろうか? 親御さんとかはどうしたのだろう? 一人でエレベーターに乗ること自体は不思議ではないのだが今はまだ午前中だ。

 この時間帯は学校じゃないのか? それにこの少女なにやらニヤニヤ笑っている。


 「お兄ちゃん、私のことが見えるの?」


 見える? どういうことだ。

 いや、見えてはいるけど、どういう意味の質問だ?

 ……もしかして、この少女。


 「み、見えてるよ」


 さっきの可愛らしい声色とは違い、


 「マジかよ。私のこと見えてんのかよお前」

 

 酒焼けみたいな枯れた声で、


 「幽霊になって、初めて生きた人間と話したぜオイ」


 驚いたように俺に言ってきた。

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