九之二十九
碧、嵐、鶫の三人は、目顔でうなずきあった。
もう彼女らのその大きな瞳には澄んだ光が輝いて、なんの疑いも迷いも残ってはいなかった。
三様にぐっと腰を落とし、攻撃態勢をとった。
マホシヒコは、すっと浮き上がって、オノゴロの頭部と同じくらいの高さまで昇ってとまった。
それにかまわず、くノ一たちはお互いの呼吸を合わせ、いっせいに走り出した。
たちまち、オノゴロの巨体が目前に迫った。
オノゴロは右腕を振りかぶると、横薙ぎに振り払う。
奇妙に長い指をもつ手のひらが、三人を襲うが、皆冷静にぱっと散開してかわす。
跳んだ碧は身体を回転させて、両刀で人よりも太い腕を斬り裂いた。
腕はざっくりと切り裂かれたが、すぐに再生してしまう。
だが、手ごたえはあった、と碧は感じた。着地すると、すぐさままた跳んだ。
オノゴロはねじった身体を戻しつつ、今度は左腕をふる。
碧はもとに戻ろうとする腕にのり、そのまま肩へと向かって駆けあがる。
左腕の攻撃をかわした鶫も、同様に腕に乗り、そのまま走る。
そして、嵐は真ん中を一直線に突き進む。
走りつつ、鋼糸を握ってくるくると短刀を回転させていた鶫が、とんと跳ねて、回転する刃でオノゴロの二の腕を切った。見事に切断された腕は、落ちてはゆかず、重力など無視してその空間にとどまった。
苦痛を感じたわけでもないだろうが、オノゴロが悲鳴のような咆哮をあげた。
嵐が走り込む勢いを乗せて、大きく飛びあがった。そして、脚をのばし弾丸のように、跳び蹴りをオノゴロの胸に叩きこんだ。
嵐の身体よりももっと大きな穴がオノゴロの胸にうがたれ、嵐は背中まで突き抜けた。
首元まで達した碧は、渾身の力と、旋律の律動であやつる霊力を刀身にまとわせて、二本の刀をふるった。
長く前へと伸びた首が、すっぱりと切断された。
やった、と碧は思った。
だが、同時にオノゴロが吠えた。
ただの咆哮ではなく、衝撃波ともいえる圧力をもっていて、音の塊が三人の身体を三方へ跳ね飛ばした。
十間以上も遠く跳ね飛ばされた三人は、靄の大地に着地した。
振り仰いだその視界の、腕と首が切断され、胸に穴が開いた胸が、だんだんとつながり、うまっていった。
しかし、碧たちは、絶望しなかった。
――いける。
と、今の一撃で感じていた。確実な手ごたえが彼女たちの手の中にあった。
遠く散った三人であったが、互いの距離などおかまいなしに息をきれいにあわせてオノゴロへと向けて駆け出す。
咆哮とともに、空中に無数と云っていいほどの霊気の塊が浮きだした。そしてその塊が、霊気の雹のごとくに、碧たちに向けて降りそそいでくる。彼女らは間断なく降る霊気の雹を、跳ねてかわし、武器で弾きとばし、ずんずんと濃紫の巨人に肉薄した。
オノゴロの手前でジャンプした鶫が、忍法光輪斬波を振るい、回転させた短刀で、左腕を寸断していく。まるで刻まれていく千歳飴のように寸断された、いくつもの円筒形のかたまりが宙に浮いてとどまった。
背中側から高く跳んだ嵐は、星夜に向けて高く屹立した首の付け根を回し蹴りでえぐりとった。
碧をつかもうとするようにさし伸ばされた右腕を、跳ねてかわし、伸びきった腕を足場にかけのぼり、肩を蹴って飛びあがると、長い首を両刀を交互に振って切断していった。かつて、御在所岳の森で大木を切り倒した時のように、体内の心と魂と身体に流れる霊気が、高い調和をもって旋律の律動を奏でて、身体の細胞ひとつひとつに霊気が満ちて躍動するのであった。
こま切れになって、空中にとどまっている首の断片を蹴ってさらに飛び、落下するとともに頭部を暁星丸で真っ二つに両断した。
すかさず左手の忍者刀を背中の鞘に納め、その手をあぐり姫にさし伸ばした。
「あぐり様!」
彼女の小さな身体をぐっと抱きしめ、さらに暁星丸でオノゴロの頭を斬り裂き、巨人の後ろへと飛び抜けた。
依代たるあぐりを失ったオノゴロは、その形態を保つことがかなわなくなったようで、破壊された身体をもとにもどすこともできず、悲鳴をあげながら、爆発するようにはじけ飛んだ。




