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久遠の輪廻 ―アオイ妖忍伝―  作者: 優木悠
第六章 流水無情

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六之十四

 祈るうちに、ふと頭上に気配を感じた。

 碧は、這いつくばった姿勢から、身体をひねって、上空を見た。

 塀のうえから、嘲るような笑みを浮かべて、善珠がのぞき込んでいる。

 反射的に、碧は駆け出した。

「そっち行ったよ!」

 手下に報せる善珠の声を背に、家の端から飛び出して庭を抜け、門から外へと飛び出す。

 瞬間――。

 右方向から凄まじい衝撃が襲った。

 碧は十間ほども跳ね飛ばされた。

 飛ばされながら眼の端で見ると、痩身の男が例のからくり腕を突き出している姿が急速に遠ざかっていった。

 受け身をとって、着地する。

 そこへ、上から覆いかぶさるように、巨体がつかみかかってきた。

 碧は前方にとんで、角力男の腕の間をすり抜ける。

 起きあがって、碧はうめいた。

 ロボットアームで殴られた右の上腕が痛んだ。

 骨折はしていないようだが、ひびくらいは入っているかもしれない。

 かまわず、走り出す。

 路地から飛び出してきた善珠が、発砲する。

 碧の肩を弾がかすめた。

 南へ走った。

 まっすぐ行けばすぐに真田の出丸だ。

 屋並が急に途切れた。

 草地や荒れ地の向こうに軍勢が黒く固まっていて、さらに向こうに見えるのが平野口の門であろう。

 ここから門までが一町半くらい、軍勢に飛び込むのに一町といったところだろうか。

 碧の(正常時の)脚なら十数秒でたどりつける。

 疾走した。

 つもりであった。

 熱のせいで綿の上を走っているようで、一足一足にまるで力が入らない。

 その脚に弾丸がかすめた。

 つんのめって、碧は転がった。

 転がりきったところに、善珠が追いつき、仰向いた碧の胸を足で押さえつけ、銃口を額に向け、先端につけられた短刀の切っ先が、鼻柱を切り裂きそうなほどせまる。

「さんざん舐めた真似してくれたじゃあないか。あたしゃア、小娘だからって容赦しないよ!」

 ほくそえんで善珠は引き金をしぼる。

 碧は銃身をつかむと、横にずらした。

 右の耳たぶの至近で弾丸が地面にめり込んだ。

 善珠はそのまま、先端の短刀で碧の顔を切り裂こうと、その手に力を籠める。

 碧も渾身の力でそれを阻止せんとするが、発砲直後の焼けた銃身が手のひらを焦がす。

 残りのふたりの足音が迫る。

「往生しな、小娘!」

 善珠が叫び、短刀の刃が、碧の頬に触れた瞬間であった。

 大きな胴体の向こうから、ひとつの影が飛び上がった。

 碧はその影を視界にとらえ、影が次にとる行動をその動きから予測し、眼をぎゅっと閉じた。

 善珠はそれを死の覚悟とみた。

「姐さん!」

 ゼニヤスのその声に、彼女が一瞬気を取られた刹那、爆音が鳴り響き、あたりが黒い煙幕につつまれた。

「なんだい、こりゃ!?」

 よろめく善珠の隙をついて、黒い影が碧を抱き起こし、その背に担ぎあげ、疾風のごとく駆け出した。

 煙に包まれむせながらも、善珠は左眼の眼帯をはずして、超視力を持つ黄金の眼で影を追った。

 それは、十代中ごろのまだ少年に見えるような男であった。


「なにやってるんだ、お前?」

 碧を背負って真田丸に向けて走りながら、猿飛佐助が問う。

「書状……」

 碧は熱と疲労と怪我の痛みで意識が混濁しつつも、つぶやくように答えた。

「書状?」しかし佐助は彼女の潜入理由よりも、その身体が気になった。「それよりすごい熱じゃねえか、大丈夫か?」

 佐助は平野口にいたのだが、町のほうから銃声が聞こえたものだから、不審に思い様子を見に来たところで、組み合っている大女と碧を見つけ、とっさの判断で煙玉を投げて助けたのであった。本来なら、味方であるはずの善珠を助けるべきであったのに。

 碧は、救ってくれた礼と、任務のあらましを語ったが、舌がもつれてうまく聞き取れない。が、佐助はとぎれとぎれの言葉をつなぎあわせて、なんとか理解できた。

 助け出されたことで気が緩んだのだろう、急激に彼女の容態が悪化している様子だった。

「ああ、もういいよ、わかったから喋るな」

 そんな気遣いをぶっきらぼうに云いつつも、佐助は、ひとりで潜入するなど無謀だとか、本当なら助けてやる義理はないとか、さんざん文句も付け加えるのだった。

 そうこう話しているうちに、平野口の門を抜け、真田丸の陣所に到着した。

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