表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/17

第7話 地獄の幕開け、偽りの祝福


焚き火は小さくなり、夜の冷たい空気が肌に触れた。


畝峨(セガ)夏彦(ナツヒコ)は、言葉を挟まずただ待っていた。

俺は火の揺らぎを見つめたまま、ゆっくりと口を開いた。


「……話すって言ったけど、どこから話すべきなのか……少し、迷うな」


喉が少しだけ渇いている。けれど声は落ち着いていた。

それは、感情が動かないゆえの不気味な平静さだった。


「……あのキャンプの日。あの光に包まれて俺は――この世界に飛ばされたんだ」


焚き火越しに二人の気配が強張るのがわかる。


「突然だった。気づいたら見知らぬ場所の真ん中に立ってて。周りには兵士と、偉そうな連中が並んでいて……」


その時の光景が脳裏に蘇る。

豪奢で、異質で――すべてが作り物のようだった。


「……そいつらは最初、俺を"救世主"だって呼んだ。"よくぞ来てくださいました、異世界の勇者様"……とか」


言葉を重ねるほど、胸の奥がひりつく。

けれどその違和感はすぐに薄れていく。

そういう感覚にも、もう慣れてしまっていた。


「俺は帰りたかったし……それしか言わなかった。『元の世界に帰りたい』って」


焚き火の赤が揺れ、視界に現実と過去が入り混じる。


「……そしたら、言われたんだ。『ならば神の祝福を受けてください。その身に刻まれる印は、貴方の願いを叶える道標となる』と」


俺はゆっくりまぶたを閉じる。


「――そこから先が、地獄の始まりだった」


そして世界が、十年前の"あの日"へと沈み込んでいく。


◆◆


眩い光が消え、視界が開ける。

そこにあったのは豪奢な大広間だった。


足元にはキャンプ場で見た円形の魔法陣。

淡い光を放ち、周囲を礼拝服の神官たちが囲んでいる。


その先――数段の、緩やかな階段の上。

豪奢な衣を纏った王が玉座に座り、甲冑姿の兵士に守られながら俺を見下ろしていた。


「異邦より来たりし救世主よ──ようこそ、我がレナトゥリア王国へ」


王の声は荘厳だったが、今思えばどこか芝居がかっていた。


「救……世主?」


俺は訳がわからず立ち尽くしていた。

そんな俺に構わず、神官たちが一斉に跪いた。


「救世主様、どうか我が国に力をお貸しください。

 周辺諸国は示し合わせたかのように刃を向け、侵攻は日を追うごとに激しさを増しています。

 今や窮地に立たされ、国としての存亡すら危ぶまれているのです……!」


あの時、軽い気持ちで"別の世界に――"なんて口にした自分を呪う。

知らない大人に囲まれて意味のわからない事を言われ、救世主と呼ばれるこの状況が――ただただ怖かった。


「いや……俺、普通の人間ですよ。意味わかんないし、元の世界に帰らせてほしいんだけど」


思わず思ったことをそのまま口にした。

その発言に兵士が色めき立つが、王はそれを制し穏やかに微笑んだ。


「もちろんだ。今すぐは無理だが、事が終われば故郷に戻すことを約束しよう」

「……本当、……ですか?」

「無論だとも。異邦の勇よ、"神の祝福"を受けよ。それで汝の願いは必ず果たされる」


その言葉と同時に、玉座の脇に立っていた初老の神官が歩み出た。


「祝福の儀式を。さすれば能力も開花し、この国を救ったのち、必ず元の世界へ帰る道が開かれるでしょう」


彼の言葉に縋るように頷いた。

帰りたい、ただそれだけだった。


神官長が首元へ手を伸ばす。

指先が触れた瞬間、文字のような紋様が浮かび――吸い込まれた。


ファンタジーだな、なんて悠長に思った刹那……喉を焼くような激痛が。


「──っ!? が……!!……ッ!」


「安心なさい。それは祝福の証。あなたを守り、導いてくれる……"神の印"です」


違うと本能が告げる。今のは祝福なんかじゃない。

心臓に近い場所が締め付けられるように痛む。

そして喉の痛みで、息が詰まる。


(なんだ……これ……)


立っているのも、やっとだった。

だがそんな俺を見下ろしながら、王は神官長へ吐き捨てるように言った。


「――神官長。あれの力を鑑定せい」


神官長と呼ばれた男は頷き、俺に再び手を翳した。

その瞬間、彼から息を飲んだ音がした。


「これは……! ……陛下、彼の固有能力は……"生存進化(サバイヴ・エボル)"でございます」

「ほう……聞かぬ名だな」

「極めて稀少です。極限環境下で生き延びるため、肉体・精神・魔力を適応進化させ続ける能力かと推測されます」


王の瞳が冷たく細くなる。


「――ほう、戦場に置いて簡単に死なん、ということか」

「はい。ただし……能力を最大限に生かすには、"環境と苦痛による刺激"が必要かと」


(いやだ……やめてくれ)


強い痛みに耐えきれずぼやけていく視界の隅で、王の口元がわずかに吊り上がる。


「では軍に回す前に、使えるよう鍛えよ。耐性と進化の限界……調べ尽くせ」

「御意」


――そうして、地獄が始まった。


ご一読いただき、ありがとうございます。

完結まで走り抜けられるよう、一話一話大切に更新してまいります。

もし少しでも「続きが気になる」と思っていただけたら、ブックマークや下の【☆☆☆☆☆】で応援いただけると、執筆の大きな励みになります!

次回もよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ