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第12話 沈黙する円卓と、歪んだ遺物(セルガ視点)


玉座の間よりさらに奥にある魔王城の中枢――円卓の軍議室。

赤い魔力灯が低く揺らめき、石壁に不穏な影を落としている。

この場に集うのは魔王軍、ひいては魔族領の命運を握る最高意思決定者たち。


宰相ライゼル。

総軍団長フォロス。

特務魔術師エルミナ。

執事長バルハ。

そして、魔王近侍ナツカ。


――その頂点に立つ、俺。


椅子が引かれる硬質な音が止み、室内の空気がぴりりと張り詰めた瞬間。

開口一番に宰相ライゼルが、静かだが核心を突く声を上げた。


「――陛下。人間を連れて帰還したと聞きましたが、その人物はヴァルハスの森を荒らした原因で間違いありませんか?」


円卓を囲む重い視線が一斉に俺へと集まる。

そこにあるのは感情論ではない。冷静な疑問と、隠しきれぬ警戒。


「あぁ、間違いない。ただし――"荒らした"という表現は正確じゃねぇな」


総軍団長フォロスが眉をひそめ、問いを重ねる。


「それはどういう意味だ、陛下」

「あれは、生きるために瘴気を消し、魔獣を狩ったに過ぎない」


俺が低く言い切ると、円卓の空気がわずかに張り詰めた。


「……生きるため?」


軍人らしい率直さで、フォロスが言葉を反芻する。


「そうだ。あの人間は、森に『捨てられていた』」

「捨て、られ……?」


エルミナが短く息を詰め、ライゼルの指が卓の縁で静止する。

ナツカは腕を組んだまま、表情を隠すように視線を落としていた。


「異界から召喚され、十年間……戦争の道具として使い潰された挙句、用無しになった。だからヴァルハスの森に投棄された」


誰も、すぐには言葉を継げない。

事実の重さが思考を一時停止させていた。


俺は再燃する怒りを表に出さぬよう、淡々と続ける。


「尚且つ――首には隷属の印が刻まれていた」


目を見開いたフォロスが椅子を勢い良く鳴らし、身を乗り出した。


「――なっ!? 隷属の印だと!? まさか……人間が人間に刻んだというのか!?」


「そのまさかだ」


驚愕に震えるフォロスを真っ直ぐに見据え、頷く。


「ついでに術者、あるいは刻まれた当人が死ねば、内部に溜め込まれた魔力が暴走し――跡形もなく爆発する仕込み付きだ」


「……もはや、生物兵器ですね」


エルミナの声には隠しきれぬ嫌悪が滲んでいた。


「しかし陛下、隷属の印は魔族の古代魔法。本来、王族の血を引く者以外には扱えないはず⋯」


室内の空気が軋むように重くなる。古代魔法は魔族の根幹。

それを人間が盗用し、あまつさえ醜悪に歪めて使っている。これは魔族にとって最大級の侮辱に他ならない。


「あぁ、だから『そのもの』は使えていなかった。形だけを真似て、本質を歪め――人間が扱いやすいように『欠陥品』として改変したんだろうな」


「……理解できないものを、理解しようともせず『道具』にした、か」


ライゼルが氷のような声で呟く。彼らは理解したのだろう。

人間は『結果』だけを切り取り、その意味を考えることもせず残虐な爆弾に改造したのだということを。


「その結果――使い潰した挙句、爆弾として森に捨てた……と」


バルハが目を伏せる。


「……なんとも悪質ですね」


ライゼルが静かな怒りを孕んだ声で言う。


「その人間の首に『魔族由来の隷属紋』が刻まれている以上、我々が条約違反を訴えても人間側はこう返すでしょう。――『その人間は魔族が拉致し、強制的に奴隷にしたのだ。その証拠がその紋章だ』と」


「実際に捨てられた当人がいるではないか! その者に証言させれば人間側の非は明白だろう!」


フォロスが声を荒らげる。


ライゼルは一度目を伏せ、首を左右に振ると苦々しく口を開いた。


「……無理です」


「なぜだ!」


「紋章が残ったままであれば、『魔族に言わされている』『魔族が偽装した』――そう主張されるだけです」


淡々とした口調が、容赦なく現実を突きつけた。

フォロスは奥歯を噛みしめる。


「……いっそ消すことができれば」


その呟きを拾うように、ライゼルが俺を見る。


「――恐らく、出来なかったのでしょう」


そして静かに言葉を続ける。


「だからこそ、そのまま連れて帰還された。そういうことですね、陛下」


円卓の視線が、魔王へと集束する。

俺は背もたれに深く身を預け、重い溜息と共に短く息を吐いた。


「……あぁ。消せなかった」


その一言で、空気がわずかにざわめく。


「陛下でも、か……」


フォロスが低く唸る。


「正確には――『今は』だ。紋章の基盤になっているのは、間違いなく魔族の古代魔法だ。そしてそれを"正規の形"で扱えるのは――現魔王である俺だけだ」


当然の事実。しかし改めて口にすると、その絶対的な権能の重みが円卓を圧した。


「だがあれは既に人の手で歪められている。人間の浅ましい論理のまま無理に外せば、連中の思惑通りに爆ぜる。あいつの命を奪うことなしに消す術は、今のところ存在しねぇ」


一拍置き、俺は全員の目を見据えて言い切った。


「だから解除ではなく、書き換えを選んだ。――人の術を壊すのではなく、王の理で上書きした」


その言葉が落ちた瞬間、ライゼルの表情がはっきりと変わった。

ご一読いただき、ありがとうございます。


昨日、こちらの不手際で更新が漏れてしまいました。楽しみにしてくださっていた皆様、申し訳ありません。

その分、本日は夕方にもう二話分、投稿を予定しております。


完結まで走り抜けられるよう、一話一話大切に更新してまいります。

もし少しでも「続きが気になる」と思っていただけたら、ブックマークや下の【☆☆☆☆☆】で応援いただけると、執筆の大きな励みになります!

次回もよろしくお願いいたします。

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