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第1話 捨てられた英雄、死の森に立つ

※本作は男同士の恋愛要素を含むBL作品となります。


中学最後の夏休み、俺――木柄(コノエ)は幼なじみの畝峨(セガ)夏彦(ナツヒコ)、そして友人の禮迩(ライジ)。この四人で河岸へキャンプに来ていた。


「あちー! 汗が滝のように流れてくんだけど!」


「マジそれ。誰だよ、こんな日にキャンプとか言ったヤツ」


夏の太陽に焼かれながら火を起こす畝峨(セガ)夏彦(ナツヒコ)

やいのやいのと文句を言いながらも、結局よく動く二人だ。

その横では、マシュマロを棒に刺した禮迩(ライジ)が、まだ安定していない炎に向かって仁王立ちしていた。


「まだ火が安定してないからマシュマロは後にしろっての」

「いや、いける。俺ならやれる」


炎から目を離さないまま、畝峨(セガ)が冷静に告げる。

だが禮迩(ライジ)は根拠のない自信だけを携え、迷うことなくマシュマロを炎へ突っ込んだ。


結果は言うまでもなく、見事な黒焦げ。


「だから言ったろ」


短く吐き捨てる畝峨(セガ)の横で、俺は少し離れた河原の石に腰を下ろし、冷えたペットボトルで水分を補給しながらその様子を眺めていた。

結露した水滴が指を伝って落ちる、その感触が心地よかった。


木柄(コノエ)! お前だけサボってんじゃねーよ!」

「お、珍しくサボり担当か」


夏彦(ナツヒコ)の声に釣られ、畝峨(セガ)がからかうように笑いながらこちらを見る。

その顔がなんだかおかしくて、俺も軽く笑った。


「俺は飯担当だろ。火が起きないと仕事にならないから、そっちはお任せしまーす」

「ならば俺はパティシエ担当ってとこだな」


黒焦げのマシュマロ棒を天に掲げ、胸を張る禮迩(ライジ)


「焦げてるけどな」


即座に畝峨(セガ)からの冷静なツッコミが飛ぶ。


くだらないことで笑い合う、楽しいひととき。

こんな時間が、高校に行っても大人になっても、ずっと続くんだと――この時は本気で思っていた。



夜になると、空には街よりも少し綺麗な星々が散りばめられていた。

焚き火は小さくなり、ちりちりと控えめな音を立てている。


食事を終えた頃には自然と会話が減り、静かな空気に虫の声が混じり始めた。

そんな空気にあてられたように、俺はつい、変なことを口走った。


「なぁ。もし別の世界があるなら――行ってみたいと思う?」


言った直後に少し後悔したが、もう遅い。

夏彦(ナツヒコ)が目を丸くして、喉を震わせた。


「珍しー。そういう突飛な質問は禮迩(ライジ)の担当なのに。熱でもあんじゃね?」


笑いながら立ち上がった夏彦(ナツヒコ)が、冷たい飲み物を持ったまま俺の額に手を当てる。

ひんやりとした感触が、じんわりと伝わってくる。


「ふはは、ついに同士となったか! 俺と木柄(コノエ)で異世界冒険隊だ!」


禮迩(ライジ)が勢いよく肩に手を回してくる。

だが畝峨(セガ)だけは茶化すことなく、空を見上げてぽつりと呟いた。


「行く理由があるなら、行ってもいいかもな」


揺れる焚き火の光が、彼の瞳に金色に映り込んでいた。

まるでずっと先の何かを知っているような、静かな言い方だった。


――その言葉が、妙に胸に残った。



翌朝。


夜明け前の涼しい空気の中、他のメンバーより一足先にテントを出て靴を履いた、その瞬間――足元の地面が光った。


「……は?」


昨日は絶対になかった魔法陣が、足元に展開されている。


ドクン、と心臓が恐怖で跳ねた。


だが気づいた時には、身体が魔法陣に引きずり込まれるように地面へと沈んでいく。


「何、これ……っ 皆……!」


木柄(コノエ)!?」

「な、なんだよこれ……魔法陣!?」


夏彦(ナツヒコ)禮迩(ライジ)の声が、混乱と驚愕のまま遠くから聞こえてくる。


木柄(コノエ)! 掴まれ……!!」


最後に聞こえた畝峨(セガ)の必死な声。

俺は白く塗りつぶされていく視界の中で、必死に手を伸ばした。


――だけど。


指先は、誰の手も掴めなかった。


世界が、裏返った。


◆◆◆


「此処が死の森だ。人間領で死なれちゃ困るからな、死ぬならここで爆ぜてくれよ」


嘲笑う声が、頭上から降ってくる。


俺――コノエは、フードを深く被った男に崖の上から森の中へと落とされた。


あの日から、もう十年が過ぎていた。


十五歳で召喚された俺を、レナトゥリア王国の王は民衆に向かって『英雄』と呼んだ。

だが実態は、ただの『奴隷』だった。


首元には、祝福の印と偽装された奴隷紋章(スレイブ・マーク)

肉体だけでなく、精神さえも縛り続ける、呪いの刻印。


他国の兵と戦わされ、殺されかけ、使い潰されて。


十年。


戦争がようやく終わり、国に平和が訪れた瞬間。

国王から贈られた言葉は、あまりにも残酷だった。


「平和の世に、その強すぎる力は不要だ」


そうして、あっさりと捨てられた。


国境の果て、人間領と魔族領の境目――いや、もはや魔族領の最端である瘴気溢れる森へ。

普通の人間ならば一歩踏み入れるだけで命を削られる、正真正銘の死の土地。


(……平和になったらお払い箱、か)


怒りは、もう沸いてこなかった。

激情は十年という歳月と、人の醜さと、紋章の呪縛によってとうに擦り切れていた。


もう十分だ。


誰かのために戦うのは、終わりだ。

今はただ、生きるだけでいい。


他人のためじゃない。

自分のために。


その夜。


死の森の中、俺は⋯⋯一人の『元英雄』は、ようやく手に入れた。


十年越しの、ささやかな『自由』を。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

初めての投稿で緊張していますが、楽しんでいただければ何よりです。

もし少しでも気に入っていただけたら、ブックマークや評価などで応援いただけると、更新の励みになります!

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