前編
みなさんこんにちは春咲菜花です!久しぶりの前編後編の小説です!しかも初のSF!恋愛要素が強いです(笑)初のSF挑戦ですが楽しんでいただけたらなと思います!
「誰も知らない」
「誰も知れない」
「私も覚えてない」
「俺も覚えてない」
「切なくて悲しい」
「それでいて幸せな」
「「私達の手紙の物語」」
◇◆◇
これは……紙……?
私、桜井小春。
中学一年生。
今、自分の机の近くに、小さく折り畳まれた紙が落ちていて困ってます。
私はそれを手に取って開いてみる。
『しりとり、りんごときたら、次は何を言うか』
なんてくだらないことを書いているんだろう。
しりとり、りんごときたら?
「…………ゴンドラかな」
「小春、何してるの?」
しゃがみ込んで動かなかった私に、親友の中川陽茉里が話しかけてきた。
「なんでもない」
こんな変な紙の話、陽茉里とする必要ないよね。
私はなんとなくその紙にゴンドラと付け加えた。
そして、この紙は隣の席の人のものだと思い、隣の席の森谷晴人さんに話しかけた。
「森谷さん、これ、森谷さんのじゃない?」
「え?」
森谷さんは受け取った紙を見て首を傾げた。
「俺じゃないけど?」
「え?あ、そう……」
森谷さんはそう言って、紙を私に返した。
その瞬間だった。
ひらりと紙が私の手から抜け落ちて、床に落ちる。
――いや、落ちたはずなのに。
床に触れた瞬間、紙が消えた。
「……え?」
そして、辺りを探してみると、また同じ場所に紙が落ちていた。
おかしいな。
私はもう一度紙を拾い上げる。
え?
大きさが違う……。
私は紙を開いてみた。
『ゴンドラか』
私の周りの誰も床を見ていなかった。
それどころか、床に物を投げたり置いたりしていなかった。
私はちゃんと見ていたのに、紙に書かれている内容が違ってる……?
「小春?」
陽茉里の声に振り返る。
心配そうな顔をしている陽茉里になんて言うべきか悩んだ。
「……ねえ、陽茉里。これ何だと思う?」
「え?紙?普通の紙だけど」
普通だよね。
紙は。
「どうしたの?そんな白紙を見せてきて」
「え?ここに文字が書いてあるじゃん」
「え……?」
陽茉里は訝しげな顔をしている。
そして「何もないけど」とさらに私を心配したような顔をしている。
なんなの、この紙……。
不気味に思い、思わず紙を凝視する。
すると、足元にまた新しい紙が落ちている。
『普通ゴリラだろ。毎回同じ発想しやがって』
……は?
声が喉の奥で詰まった。
こっちの桜井って……。
それ、私のことじゃ……。
ゆっくりと周りを見回す。
教室はいつも通り。
誰も紙なんて気にしていないし、今この瞬間にしりとりの話題なんて出ていない。
また新しく現れた紙。
私は震える手で、その紙を拾い上げた。
『悪い、急に送ったから混乱してるよな』
……送った?
『驚かせるつもりはなかった。でも、友達と回し手紙してたら紙落としちゃって、勝手に紙がそっちに行ったんだよ』
勝手に……?
そっちに行く?
頭がこんがらがってきた。
「小春、大丈夫?ほんとに顔色悪いよ」
陽茉里の声がやけに遠く聞こえる。
私は紙から目を離せなかった。
しばらくしてから、私は筆箱から付箋を取り出した。
そして「あなたは誰?」と書いた。
付箋を綺麗に折りたたんで床に落とす。
すると、付箋は消えた。
戻ってきたのは付箋ではなくさっきから送られてきている正方形の白紙。
『俺は1年2組の森谷晴人』
その名前を読んだ瞬間、背中に冷や汗が流れた。
私は反射的に隣の席を見た。
森谷さんは何事もなかったように机に肘をつき、スマホを覗いている。
同じ名前。
森谷さんと同じ名前?
でも、同じ人じゃないよね。
私は再び紙を見る。
『そっちにも俺がいるだろ?でも俺は、そいつじゃない』
紙の上の文字は迷いなく続いていく。
『俺は説明するの下手だから単刀直入に言うけど、俺の世界とお前の世界は平行してる』
平行?
パラレルワールドってことかな?
頭では否定したかった。
そんなの現実じゃない。
ありえない。
「小春?」
さっきからやたら心配そうに声をかけてくれる陽茉里。
返事するの忘れてたな。
「だ、大丈夫だよ。気にしないで」
「ふぅん、ならいいけど……」
陽茉里は前を向いて席に座った。
あ、また紙が届いた。
私は並列世界の森谷さんと会話を始めた。
『お前は覚えてないの?』
『何が?』
『そっか、お前の言う通りだったな』
『なんの話?』
『わからないようだから説明する。俺とお前の世界は並行していて、紙だけがたまに境界を越える。理由は分からない』
そんなポンポンファンタジーな話をされても……。
私、まだパラレルワールドのことも受け入れられてないのに。
『俺が送った紙の文字を読めるのは小春だけ。こっちでも小春の文字を読めるのは俺だけ。理由は分からない』
分からないことだらけじゃん。
思わず、心の中でそう突っ込んでいた。
私は紙を握りしめたまま、深く息を吸う。
冷静になれ、桜井小春。
今わかっていることを順番に整理しよう。
紙は突然現れる。
でも、私以外には文字が見えない
向こう側にも「桜井小春」と「森谷晴人」がいる。
そして、紙だけが世界を越えてやり取りできる
……どう考えても現実離れしている。
『信じられないのは分かる』
紙の文字が、まるで私の思考をなぞるみたいに続いた。
『俺も最初はそうだった。でも、こうして会話できてるのは事実だ』
事実。
確かに、この紙は私の質問に答えている。
偶然や誰かの悪戯で説明できる範囲を、もう完全に超えていた。
私は少しだけ勇気を出してペンを走らせた。
『……なんで私なの?』
折って落とす。
消える。
そして数秒後。
『分からない。ただ、前の小春も同じこと言ってた。俺が言ってるのは、全部前の小春が言ってたことだから』
……前の私?
それは、あなたの世界の私?
それとも、また別の世界の私?
『でも一つだけ確かなことがある』
文字が少しだけ間を置いて浮かぶ。
『この紙が繋いだのは、偶然じゃない』
私は無意識のうちに周囲を見渡した。
陽茉里はノートを広げ、森谷さんは相変わらずスマホをいじっている。
この教室で異変に気づいているのは私だけ。
『受け入れられないならやめてもいい。無理に続けなくていい』
……ずるい。
そんなこと言われたら、余計に気になってしまう。
私は小さく紙を撫でた。
紙はただの紙なのに、不思議と温かく感じた。
『やめない』
そう書いてから少し考えて、一言付け足す。
折りたたんで、床に落とす。
紙はまた音もなく消えた。
足元に、ふわりと白い正方形が現れた。
『もちろん。急ぐ理由なんてない。ゆっくり、今年中には受け入れてくれ』
それだけの短い返事なのに、胸の奥が少しだけ軽くなった。
知らない誰かじゃない。
少なくとも、私の言葉をちゃんと受け止めてくれている。
『正直に言うと』
文字が続く。
『俺が並列世界の話をして、こんな形で誰かと自分から繋がるのは初めて。だから、最後まで分からないことだらけだったらごめん』
その言い草から、過去に誰かと繋がっていたことがわかった。
それが誰なのか、どうせ私の知らない人だろうし、聞いても意味ない。
◇◆◇
それから半年くらい、ずっと並列世界の晴人と話していた。
でも、だんだんと晴人からの返事は遅くなっていくように感じるのは、私だけなのか。
晴人はいつも優しくて、私に気を遣ってくれる。
こっちの晴人はあんまり優しいとは思えないんだよね。
『今日は死ぬほど眠い』
『そっちは雨?』
『こっちの小春が数学で詰んでる』
他愛もない言葉ばかり。
でも、それが嬉しかった。
返事が遅くなっていることには、気づいていた。
気づいていたけど、考えないようにしていた。
理由なんて一つしか思いつかない。
◇◆◇
ある日の放課後。
教室には私と陽茉里、隣の席の森谷さんしかいなかった。
森谷さんはイヤホンをして、スマホを操作している。
ふと、思ってしまう。
この人は、私が紙越しに話している「森谷晴人」と本当に同じなんだろうか。
名前は同じ。
でも、こっちの森谷さんは人に気を遣う言葉をあまり使わない。
悪い人じゃないけど、距離感が近くも遠くもない。
優しくないわけじゃない。
ただ、私に向けられてはいない。
「小春、帰ろ」
陽茉里に声をかけられて、我に返る。
「うん」
立ち上がった瞬間、足元に紙が落ちていた。
陽茉里は気づいていない。
森谷さんもスマホから目を離さない。
私は自然な動作を装って紙を拾った。
『もうそろそろ終わりが来る』
終わりが来る……?
もうすぐ二年生になるし、教室が変わるとやりとりできないとか?
でも、私には今それを聞く勇気がない。
「陽茉里、帰ろうか」
私は陽茉里と共に教室を出た。
逃げだってわかってる。
でも、怖いんだ。
この先を聞くのが、なんだか怖い。




