ご対面
私は今、後悔している。30分前、買い出しに行く前に、あの気配を無視してしまった事に。後からまとめて片付ければいいと、荷物も含めた何もかもを放置して、お買い物に出かけてしまった事に。
買い出しを終えて帰って来た私を迎えたのは、変わり果ててしまった私の部屋。
綺麗に積み上げられていた段ボールは崩れ、中身は床に散らばっている。段ボールと、そこから飛び出た荷物で、床には足の踏み場がない。
幸い、と言えるとすれば、段ボールの中身、私の持ち物にも、アパートの壁や床にも、目立つ傷ができていない事だろうか。後から細かい傷が見つかるかもしれないが、パッと見ただけでは分からないから、今はいいとしよう。今は。
今気にすることはそこじゃない。今気にすることは、この部屋の惨状だ。
「あー、もう!これ、どうやって片付けたらいいの?!」
取りあえず近くの荷物をどけて、本だけは傷がないか1冊ずつ拾って確かめていく。
無事に冷蔵庫までは通路ができたから、買ってきたばかりの食材を冷蔵と冷凍で分けて放り込む。細かい仕分けは後回しだ。今は、この部屋をどうにかしないと。
「もう、もう、もう!」
怒りは収まらないけど、手を動かさないとどうにもならない。
段ボールを組み立てなおし、使う場所で分けて入れていく。
「っていうか!マジ、信じらんない!」
一番多い本の段ボールは、リビングの中央に置いてもらったはずだ。なのに、本が玄関まで散らばっていた。ありえないことに、即層の中にまであった。浴室が濡れていなかったことと、トイレの中には無かったことだけが唯一の救いだった。
「勝手に、人のものに、触るなんて!」
これで本に覚えのない傷まであったら、絶対に許さない。許してなるものか。
「ふう―‥‥‥ひとまずは、こんなところ、かな‥‥‥」
まさか、引っ越して早々に、こんな大掃除の様な事をするとは思わなかった。引っ越し前に、実家で段ボールに箱詰めしていた時よりも疲れた。
床に散らばっているものを、段ボールに戻し、ようやく伸びをして一息つく‥‥‥暇はなかった。
「さて。では原因を抹殺しますか」
こうなってしまった原因。私が外出している間に、私の荷物を勝手にいじり、散らかした原因を探す。
リビング、脱衣所、トイレ、玄関。クローゼットに、下駄箱に、浴槽に、洗濯機の中‥‥‥ありとあらゆる、私が思いつく限りのところを、隈なく探した。探して、
「なんっで、どこにもいないの?!」
見つからなかった。買い物に行く前に感じていたあの気配の正体が、どこにもいなかった。
いや、どこにもいない、なんてことはない。この中には必ずいるはずだ。現に気配はこんなにある。買い物に行く前よりも強い気配を、私は感じていた。
「となると‥‥‥そこか?!」
勢いよく振り向いた先に、それはいた。いたが、その姿は、私の想像するものからはかけ離れていた。
「あし?!」
私の目線の先には、足があった。いや、居た、とした方が正しいだろう。
その足は、日焼けを知らない、綺麗な白い足だった。細くて綺麗な、女性らしい足が、そこに佇んでいた。
「‥‥‥じゃなくて」
足だ。どこからどう見ても足だ。右足と左足を揃えて、立って(?)いた。足首から下の部分を、綺麗に揃えて、私の後ろに立って(?)いた。
足首よりも下なのは理解できる。かつてこの部屋に住んでいた女性は、バラバラの遺体で発見されているから。
でも、それなら、何故足なのだろう。手でもよかったのではないか。ホラー要素が増してしまうが、コミュニケーションが取れそうな顔でもよかったのではないか。何故、足なんだ。それに、
「足で、私のものに触ったってこと‥‥‥?」
本来人は、見えるはずのないものを目にしてしまったら、恐怖に立ちすくんでしまうだろう。恐れおののき、逃げるかもしれない。泣いて許しを乞うかもしれない。
だが、私の心に宿ったのは、恐怖からは大きくかけ離れていた。私の心に宿ったのは、
「許さん‥‥‥お前は、許さん!」
怒りだった。
人のものに勝手に触ったというのなら、これほどではなかっただろう。同じ怒りだったとしても、制御できるものだったに違いない。
だが、私の心に宿った怒りは、制御できるものではなかった。それは、私の目に映ったのが、足だったから。
「お前は、人のものを、足で触っていいと教育されたのか?!!」
このアパートに、私の怒声が響き渡ったのは、入居した初日の、この時だけだった。
なんだか、書いていてよくわからなくなってきました‥‥‥




