九
私たち三人は、雨に濡れた野良猫みたいに、ライブハウスのボロいソファにぐったりと沈み込んでいた。
向かいの誉田十三子はステージから降りたばかりで、髪の毛先に汗が光り、虎牙が無意識に下唇をガリガリ。
「でさ…」
「お前ら三人、どーゆー状況なの…?」
彼女の顔には「なんで昼から秋葉原をフラフラして深夜まで粘るんだ?」って困惑がデカデカと書いてある。
いや…自分でもわかんないんだって!
黒澤初音は毛布三枚を抱えてやってきて、まるで網を投げるみたいに「バサッ!」と私たちに被せる。
ソファの底をガツンと蹴ると、魔法みたいに簡易ベッドに変形。
「遠慮しなくていいよ~」彼女、ニヤリと微笑む。「冷蔵庫に冷凍チャーハンとドリンクあるし、電子レンジはそこの角。バスルームの給湯器は24時間稼働中~」
このサービス、完璧すぎ…ライブハウスを民宿代わりに運営してんのか!
「ただまぁ…」
黒澤初音、突然いたずらっぽい笑みを浮かべ、口紅が照明で危なっかしい光を放つ。
「ここ、慈善事業じゃないんだよねぇ~」
「せっかくだから…三人で、会場の秩序キープ、協力してくれる?」
彼女の指先が空を切り、「ガチャン!」と重い鉄のドアを押し開ける。瞬間、耳をつんざく音の波が押し寄せる!
観客の叫び声、ベースの轟音、そして…聞き覚えのあるメロディ!
これ、今日の広場で聴いたあの曲じゃん!? こんな偶然ありえる!?
黒澤初音、ドア枠に斜めにもたれ、唇の笑みがさらに深まる。
「ふふ、彼女の音楽…お前の好みにドンピシャみたいだね~」
[青空]、もう我慢できず、首を傾けて好奇心バリバリの猫みたいにステージをチラ見。
こっそり私たちに頷き、[潮鳴り]が即座に毛布を跳ね除け、影のようについてって、同じように首を伸ばす。
私も立ち上がって合流しようとした瞬間、誉田十三子にグイッとソファに押し戻される。
「おい!」
いつの間にか私のギターを抱えてる彼女、虎牙が照明でキラリと危険に光る。
「ギター持ってるなら…ステージに上がって直に見た方が、ぶっちゃけ良くね?」
待って…マジでいきなりステージ上がれって!?
§
絶対無理!
指が勝手に震え始めて、手のひらに冷や汗がビッショリ。
ステージなんて立ったことない…ましてや、ギッシリ詰まった観客の視線なんて…!
「十三子、お前バカか!」黒澤初音、バッと誉田の耳を引っ張り、黒いネイルが肌に食い込む。
「だから、まずは場務の仕事からって言っただろ! 順序ってもんがあるの、わかる!?」
でも誉田、彼女の手をガッと振り払い、目に頑固な光を宿す。
「ギター背負ってるなら…ギタリストの覚悟持てよ!」
「一生殻に閉じこもってる臆病者なんて、三流以下のゴミにしかなれねぇ!」
痛い…その言葉、錆びたカッターみたいに、かさぶた剥がれた古傷をザックリ抉る。
コンフォートゾーンを出たくないんじゃない…もうボロボロに傷ついた私は、これ以上どんな挑戦も耐えられないだけ。
人間関係、うまく処理できない。自分を説明する方法、わからない。他人に勝手にラベル貼られるまま…。
記憶の中、ヒソヒソ声がまた響く。
「見て、あの変人、また学校来た…一ヶ月誰とも喋ってないってよ。」
「弁当いつも一人で食べてる…キモ…伝染病でもあんのかな?」
「なあ、知ってる? あいつ、体育の着替えで…体中、自傷の傷だらけだったって…」
「マジで財閥の令嬢? 隠し子とかじゃね?」
もう…黙れ…。
「パンッ!」
鋭いビンタの音が突然炸裂して、記憶の泥沼から私を現実へグイッと引き戻す。
誉田十三子、頬を押さえて、さっきの威勢はどこへやら、叱られた野良猫みたいにムスッと黒澤初音を睨む。
「十三子…」
黒澤初音、眉間を抓んで、子どものイタズラに呆れた親みたいな顔。
「今夜、何杯偽物の酒キメたんだ? 女子高生相手に何ムキになってんだよ?」
突然、誉田の耳をまた引っ張り、耳たぶに顔を寄せて悪魔の囁き。
「後で帰ったら…たっぷり『可愛がって』やるからな…」
§
スマホがまたブルブル震え出す。
[潮鳴り]:絶対ヤバいって!
[潮鳴り]:この二人の会話、完全にイチャイチャじゃん!?
[潮鳴り]:あの「可愛がる」って、100%18禁のニュアンスだろ!
[青空]:(3秒で光速リプ)年下ツンデレ×危険系お姉さん…
[青空]:キャラ設定完璧すぎ…(ハート絵文字)
[鳥の詩]:?
[鳥の詩]:お前ら、百合と音楽の話になると急に群でゾンビ化すんのな?
[潮鳴り]:(光速否定)んなことねぇ! 勝手に言わないで!
[青空]:(このメッセージは取り消されました)