八
売り切れ。
あの限定版のリバーブペダル…
今から買うなら、Red Bookでアカウント作って、国際的な転売ヤーと知恵比べするしかない…。
あの連中、ギターの弦が何本かも知らないくせに、松ぼっくりを溜め込むリスみたいに棚を空っぽにする!
で、セカンドハンド市場で4~5倍の値段で吊り上げる…。
この世に投機屋は尽きないけど、追い詰められるのはいつも…本当に必要な私たちみたいな人間だ。
もうゴミ捨て場で奇跡的に拾えるのを祈るしかない…。
楽器店のドア枠にしがみつきながら外に出ると、秋葉原の夕陽が目に刺さる。
ギターの重さが急に耐えきれなくなり、ショルダーストラップが鎖骨に食い込んで、息をするたびにナイフを飲み込むみたい。
胃は空っぽなのに、酸っぱい苦いものがこみ上げて…何も食べてないのに、なんでこんな吐きそう…。
「帰ろう…」
喉から絞り出したその言葉は、粉々に砕けて、本来なら怒りの叫びになるはずが、自分にしか聞こえない「気音」にしかならなかった。
怒りすら声に出せない私、やっぱりNPCにしかなれないよね…。
突然、ドアが開き、背後から慌ただしい足音。
[青空]が追いかけてきて、ガサゴソとショルダーバッグを漁って…最後にはティッシュの箱をまるごと私の手に押し付けてきた。
そして、まるでNPCの動きを真似するプレイヤーみたいに、慎重に私の横にしゃがむ。
半身分の距離、ちょうどゲームで彼女がいつも立つポジション。
私たちは無言で夕陽を眺め、[潮鳴り]が慌ててドアをバンッと開けて飛び出してくるまで。
彼女の視線が私たちの間を行ったり来たり、顔には「こっそりPT組んで私をキックした?」ってハッキリ書いてある。
これ、もう完全に三人ダンジョンじゃん。
§
深夜、私たちはハエみたいにキョロキョロして、終電のテールライトが線路の果てに消えるのを見送った。
「もう帰ろう」って提案するか、適当な理由つけて別れるか…できるのに、誰も口を開かない。
だって、彼女たちのそばにいると、なんか久しぶりに安心感が…。
ゲームで放置してる時、PTメンバーが黙ってそばにいてくれる、あの安心感みたい。
今が深夜2時じゃなければ、ね。
ていうか、この二人…マジで家ない系の人じゃないよね?
最悪なことに、警官三人がまるでダンジョンのラストボスみたいに、完璧なトライアングルフォーメーションでこっちに迫ってくる。
やばい…この時間に秋葉原をウロつく女子高生…警官から見たら「家出三点セット」じゃん!
「おい!そこの女子たち!」
リーダーの警官が懐中電灯を振りかざし、眩しい光が私たちの服にバチッと当たる。
「高校生だろ?どこの学校?」
「こんな時間に何やってんだ?」
この状況、まるでギャルゲーのバッドエンドイベント…。
緊張しすぎて、私たち三人、まるでサイレンス魔法くらったみたいに、息さえ慎重になる。
反応しない私たちを見て、警官が眉をひそめ、突然インターナショナルチャンネルに切り替え:
「Chinese?Korean?Vietnamese?Thai?」
で、宇宙語みたいな質問をまくし立て、他の二人の警官、肩震わせて笑い堪えてる。
いや、私、ガチの日本人なのに! 何この国際的ウーロン事件…。
空気が崩壊寸前のその瞬間、[青空]がビクッと動いて、慌ててバッグをガサゴソ。
「シャッ!」と、まるでSSRカード引いたみたいに、黒地に金箔の名刺を掲げる:
【SayTenIsRio LiveHouse】
店長:黒澤 初音
連絡先:XXX-XXXX-XXXX
待って…これ、あのゴスお姉さんの名刺じゃん!?
[青空]、いつこっそりパクったの…。
警官が名刺を受け取った瞬間、明らかに固まる。指が黒地の金箔を二回なぞる。
空気が3秒凍りつき…彼、標準日本語に戻る:「で、お前ら…ただ迷子になっただけ?」
§
ライブハウスの薄暗い照明の下。
ゴスお姉さん、つまり黒澤初音がバーカウンターに寄りかかり、リップピアスがネオンでキラキラ光る。
彼女は、警官が迷い猫をエスコートするみたいに私たち三人を「護送」してくるのを見て、店員に「ちゃんと楽手を見とけよ」と念押しされる。
ドアが閉まってすぐ…「ぷっ…ハハハハ!」
笑い声が、ディストーションペダル踏んだギター音みたいに、店内に炸裂。
彼女、壁に手を突きながら奥に進み、笑い涙を拭って、黒いネイルが光に反射:
「ねえ、小娘たち~」
「夜遊びして警官にパクられる気分、どうだった?」
終わった。今日、人生で二番目に暗黒な日になりそう…。